14話 お父さん
羽依視点となります。
お店が閉店して、そーまも帰宅。お母さんがビールを飲んでくつろいでる。
「羽依、蒼真頑張ってたね。めっちゃ頼りになるじゃない。最初見た時は頼りがいなさそうにも見えたけど。お父ちゃんと似てたからね。」
そう言ってケラケラ笑ってるお母さん。
お父さんが亡くなって、もう七年くらいか。まだ昨日のように覚えてる。
でも、そーまに会ったとき、すごくびっくりした。
***
大きな桜の木。入学式まで時間があったから、ぼーっと枝の数を数えてたとき――
「くっそかっわいー!」
「……かわいい?」
……私のこと? ちょっとイラっとする。
あの男の子……あれ……?
……死んだお父さんに雰囲気が似てた。優しそうで、線が細くて、顔も少し似てる。
もうちょっと近くで見てみる。
「ーーー!」
涙が出そうになった。
急いでその場を離れる。
なんで? 我ながらびっくりした。今更泣くことなんてないと思ってたのに。
大好きだったお父さんが、目の前に現れたような気がした。
「私のこと可愛いって言ってたな〜。……んふ。」
私はよく『隙がある』って言われる。
誘えば簡単についてくるって思われてるみたい。
そんなわけないのに。
悪い噂が出ているって話を聞いた時は悔しかった。
――私はそんなに軽くないのに。勘違いにもほどがある。酷いよ……。
あの子、多分新入生だよね。お父さんに似た感じの子。
もう一度会えたら、話してみたいな。
1-Aの教室に入ると、私の隣の席に彼がいた。
――こんなの、ちょっと運命感じちゃうよね。
でも、軽く見られたくはない。男の人は、怖い。
中学の頃、何度も嫌な目にあってからは、近づくのが怖くなった。しつこく付きまとってきた人たち。嘘の噂を流していた女子たちもそう。
だから、あの人達が絶対に入れないような高校を選んだんだ。
もう、私に関わるなって思ってた。
藤崎蒼真くん。
っていうか、自己紹介めちゃめちゃだった。可愛すぎる……。
落ち込んでる姿もまた可愛い……。
つい笑いすぎちゃった。ごめんね、藤崎くん。君のこと、ちょっと知りたくなったよ。
お父さんに似てる藤崎くん。
ちょっと勇気を出して、帰りに話しかけてみよう。
彼と仲良くなりたいな。でも、もし恋愛になって、いつか壊れたら……お父さんに似た人と険悪になったら私はもう耐えられない……。
彼とは、ずっと仲のいい友達になれたらいいな。
――ね、お父さん。
***
「蒼真のこと、好きなの?」
「……わかんないよ、そんなの。」
「あはは! じゃあ、あたしがもらっておくわ!」
「だめ! ぜったいだめ! 取ったら怒るよ!!」
「ふーん。」
お母さんはニヤニヤしてる。この酔っ払いめ!