11話 予習
挿絵は簡単なAI生成で作ってるので、毎回制服と顔が違ってしまいます。
プロンプトとか難しいですね~
早朝、朝5時に起床。
眠い目をこすりながら顔を洗い、シャキッとする。
軽く準備体操をしてジョギング開始。最初は無理せず3kmぐらいからかな。
そこから徐々に距離を伸ばしていこう。
「はぁっ…はぁっ…」
登下校で体力が削られるようじゃ、バイトでヘロヘロになるのは目に見えている。
羽依さんが見てる以上、みっともないところは見せたくない。
もっとも、中学時代も運動部には入ってなかったから、体力に自信があるわけじゃない。
親父に「筋トレだけはやっておけ」と言われていたから、軽めの筋トレは毎日続けていたけど。
これからはもう少し負荷を上げていこう。
お約束の展開として、一緒にジョギングをする美少女と知り合える……なんてことはなく、普通に帰宅。
「うわっ、汗でベタベタだ。」
たった3kmでこの有様。まずは汗を流さないと。
シャワーを浴びてさっぱりする。
そのあとは、シリアルと野菜ジュースで簡単に朝食を済ませた。
野菜ジュースを飲んでおけば、なんとなく健康でいられる気がする。
夜干ししていた洗濯物を取り込みながら、朝のニュースを見る。
「カピバラの赤ちゃんが~」
近くの動物園でカピバラの赤ちゃんが生まれたらしい。へ~、見てみたいな。
ちょっと早いけど、学校に行って予習でもしておこう。
「いってきま~す」
一人暮らしでも、つい口にしてしまう。やっぱりちょっとだけ寂しい。
家を出ると、ちょうど羽依さんと鉢合わせた。
「そーま!」
「おはよう、羽依さん。早いんだね。」
「うん、だいたい毎日このくらいかな~。予習しておきたいしね。」
進学校の生徒らしい回答だ。
ぽやぽや天然ちゃんで天才肌、というテンプレキャラではなく、しっかり努力を重ねて成績を伸ばしているようだ。
「今日からジョギング始めたんだ。」
誰かに宣言しておけば、三日坊主にならずに済むかもしれない。
「えらいね~、そーま。1ポイントあげるよ!」
うおー!またハグしてくれちゃう!
それなら頑張らないと!
「そーま。なんかやらしい顔してるよ。」
ジト目で睨まれる。
「あ、そういうの気にするんだ。フリーハグOKみたいな感じかと思った。」
「そんなわけないじゃん。」
ちょっと冷たく言われる。
正直、初日の印象が強すぎて、誰にでも気軽にハグする子かと思っていたけど、最近の印象は随分変わった。
むしろ、初日の羽依さんの行動がイレギュラーだったように思えてくる。
「じゃあ、俺だけなんだね。それはそれで嬉しいな。」
「変なそーま。」
そう言いながら、照れたように微笑んでくれる。
「昨日はごめんね。いきなりバイトさせちゃって。」
「むしろお礼を言いたいよ。まかない付きのバイトがいいなって思ってたからさ。嬉しすぎるよ。」
「そう言ってくれるのは嬉しいけどね。ご飯を食べさせてあげるだけのつもりだったから、騙し討ちみたいに思われないか気にしちゃって。」
少ししゅんとする羽依さん。
「お母さん、強引なところあるからさ。無理なことは無理って言っていいからね。」
「大丈夫だよ。お店が忙しいのはよくわかったし、美咲さん一人であの状況をさばくのはしんどいと思う。」
「それは大丈夫なの。あのお店のお客さん、みんなお母さんのファンだったり手下だったりするから、料理が出なくてもずっと待ってくれるの。」
「ふーん。え?手下?」
「お母さん、昔やんちゃだったみたいでさ、今でも影響力あるみたいなの。」
そういえば、客層は決してガラがいいとは言えなかったけど、みんな行儀よく食べていたような……。
「美咲さんには逆らわないようにしよう。」
「だめ!そーま。ああいうのには、びしっと言わないとダメなんだよ。びしっ!」
指を突き出す羽依さん。
身内には、結構厳しいんだな。
「うん~、努力します。」
「頑張ってね、そーま。私もできるだけ手伝うから!」
拳を握りしめて、ぐっと前に突き出す。その仕草ひとつひとつが可愛らしい。
二人で話しながら登校すると、30分の通学時間もあっという間だ。
「羽依さんは、ずっと徒歩通学する感じ?」
「自転車も考えたんだけどね~。坂が多いし、電動アシスト自転車は高いし。」
「だよね。でも、こうして二人で話しながら歩くと、あんまり時間を感じなかったな。」
「だね!私、毎日この時間に家を出てるからさ。一緒に通ってくれると嬉しいな~。」
「うん、今日の流れをルーティンにしたいし、この時間に行けるようにするよ。」
「やったー!じゃあ予習も一緒にやろうね。バイトで大変だろうから、私が講師になりましょう〜!」
「え、それは助かるかも!よろしくお願いします、先生!」
「ビシビシ行くよ~!」
またもや指先を前にビシッと突き出す羽依さん。
正直、勉強のやり方をちゃんと考えないといけないと思ってたから、これはありがたい。
教室に入ると、すでに10人ほどが予習をしていた。図書室も開放されているはずだから、半数以上は登校しているようだ。
「おはよう、蒼真。雪代さん。」
真桜さんが挨拶してきた。さすが元生徒会長、朝からしっかり予習しているらしい。
「おはよう、真桜さん。早いね、やっぱり予習?」
「ええ。家より学校のほうが捗るのよね。」
「家でも一生懸命やりそうだけど?」
「もちろんやるわよ。でも、学校の空気が好きなの。」
すごいな、そんな人もいるんだな、と思ったけど、胸にしまっておこう。
「わかる~!学校いいよね~!」
意外なところからの同意。進学校の生徒って、みんな学校好きで勉強好きなのか…ちょっと気後れしそう。
「良かったら、多目的スペースで一緒に予習しない?わからないところがあれば教えられるわよ。」
真桜さんが提案してくれた。たしかに、ここで話しながらだと他の人の迷惑になるし、移動したほうがいいか。
羽依さんも頷いているし、有り難く好意に甘えよう。
3人で多目的スペースへ移動する。
「結城さん、入試トップだったんだよ!そんな人に教えてもらえるなんてラッキーだね!」
「2位は僅差で雪代さんだったわよね。」
え、俺、学年1位と2位の人から勉強教わるの?
「2人ともそんなに優秀なら、俺いたら足引っ張りそうじゃない?」
羽依さんと真桜さんが、顔を見合わせて、やれやれ…という表情をする。なにこの屈辱感。なんかクセになりそう。
「蒼真がどの程度できるかはまだ分からないけど、心配しなくても、私たちの学力には影響ないわよ。」
ちょっとキツめな言い方だけど、遠慮するなって意味なのは伝わる。
「インプットも大事だけど、アウトプットも大事なんだよ~。」
二人の厚意がありがたすぎる。
「じゃあ、よろしくお願いします!」
その後、2人の真剣さに触発されて、俺も必死に予習をこなした。なるほど、予備知識があると授業がスムーズに理解できそうだ。
「要領よくやることが大事なの。」
真桜さんがそう言うと、やたら説得力がある。羽依さんも頷いているし、成績上位者なりのノウハウがあるんだろうな。
「家で一人で勉強するより、何倍も身についた気がするよ。ありがとう!」
その日の授業は、今までよりずっと分かりやすく感じた。学力パラメーター1アップだね。