1話 入学
勉強も、遊びも、恋愛も――
高校生活を全力で駆け抜ける、藤崎蒼真の青春物語!
彼の成長を、ぜひ暖かく見守ってください!
春。桜満開だ!
俺の進学を祝うかのような光景に、胸が高鳴る。
俺、藤崎蒼真は、都内の難関進学校 「私立神凪学院」 に無事合格し、念願だった 都内での一人暮らし を始めることができた。
親の理解を得られたのは、それだけの努力を見せたからだ。
……本当に受験、辛かった。
勉強は正直、好きじゃない。
好きなやつもいるんだろうが、目的もなくできるものじゃない。
そう、俺には 目的 があった。
──中学の時に読み漁ったラノベでは、一人暮らしで可愛い彼女を連れ込んでイチャイチャするシーンが一番好きだった。
俺もそれをやりたい! 恋人を作って、イチャイチャするんだ!
……薄っぺらい理由なのは重々承知。
いいじゃん、目的なんてなんでも。結果を出せたんだからな。
あとは 可愛い彼女を作って、イチャイチャするだけ!
今日は 入学式。
神凪学院は、長い坂の上 にある。
勉強漬けでなまった体には、ちょっとしんどい……少し鍛え直さないとな。
肩で息をしながら学校の門をくぐると──
「……あれ?」
桜の木の下に、ぼーっと桜を見上げる女の子 がいた。
新入生……かな?
その桜は、無数の枝がしだれた見事な老木。
正直、俺も見惚れるほどの美しさだ。
──桜と少女の、一枚絵。
まるで、イベントスチルをゲットした気分だった。
……というか、あの子──
身長は平均的な女子くらい。
白く艶やかな足 は、まるで磨かれた宝石みたいに綺麗だ。
痩せ型のように見えるけど、出るところはしっかり出てる。
……多分、全ての男子が好む体つき。
サラサラな明るめの茶髪。
耳の横あたりでゆるく結ばれた、ふわっと揺れるサイドポニー。
進学校ならではの 校則のゆるさ も、この学校の魅力の一つだ。
そして──横顔でも分かる、大きな瞳。
整った鼻先、柔らかな口唇は、桜のような 薄桃色 をしていた。
誰が見ても──
「くっそかっわいー!!」
あっ。
……やばい、声に出ちゃった。
うわっ、メッチャ恥ずかしい。
やらかした、やらかした、やらかしたーー!!
「……かわいい?」
──こっちを見て、ニコッと微笑まれた。
「いやっ……あ……そのっ……」
女の子は、こっちにすっ…… と歩み寄ってくる。
そして、俺の顔をじーっと覗き込む。
……近い。
いや、近すぎじゃね!?
女の子特有の 甘い香り が、鼻をくすぐるほどの至近距離。
やばい。
胸が高鳴る。
こんな可愛い子を、ここまで間近で見るなんて……
俺の人生に、そんなイベントあったっけ!?
東京やべぇ……。
早速、都内の女子の洗礼を浴びてしまった……。
このまま大人の階段を駆け抜けちゃうのか……?
──と思ったら。
女の子は、消えていた。
「……え?」
忍者??
***
退屈な入学式を終えて、クラス発表。
廊下で、さっきの桜の下の子をキョロキョロ探すけど
──今のところ見つからない。
(もしかして、上級生だったのかな?)
……まあ、名前もわからないし、同じ学校なんだからそのうちまた見かけるだろう。
「俺のクラスは……1-Aか」
周りを見渡す。知っている人は──誰もいない。
俺と同じ中学からこの学校に来たのは、生徒会長やってた女の子と俺の二人だけ。
でも、あの子の名前と顔は……うん、覚えてない。
(まずは、友達づくりからだよな)
人見知りって性格でもないけど、やっぱり緊張する。
この学校にいるのは、頭のいいやつばかり だ。
俺みたいな付け焼き刃とは違う。
最初から知的さを漂わせてる、"本物" みたいなやつばっかり。
……友達、できるのかな?
なんだか、ちょっとだけ不安になってきた。
もしこのままボッチのまま卒業したら、「俺、何のために頑張ってこの学校に来たんだ?」 ってなっちゃう。
……よし、気を引き締めよう。
1-Aの教室に入る。
席は──
一番うしろの窓際に近い2列目。
(お、これはなかなかいい席じゃないか)
ヒキ、良かったな。
すでに、顔見知りであろうグループが会話を始めてる。
でも、教室全体は割と静かだった。
(まあ、そりゃ緊張するよな)
俺みたいに、"新しい環境に馴染めるか不安なやつ" ばかりなんだろう。
そう思うと、ちょっと気が楽になってきた。
少し遅れて、俺の隣の席に座る女子がいた。
「あ……」
──バクンッ!!
心臓が跳ねる音が、頭の中で響く。
隣の女子も 「あっ」 という顔で、俺を見ていた。
大きな瞳が、さらにぱちくりと大きくなる。
──まさか!?
「よろしくね~♪」
にこっと微笑み、
ふんわりとした柔らかい声 で、彼女が話しかけてきた。
(……やっぱり、桜の下のあの子だ!!)
声まで可愛い。
やばい。好きになっちゃう。
いやいや、落ち着け俺。
そんなに軽くないんだからね!!
「こ、こちらこそよろしく~……!」
──やばい。
俺まで、ふんわりした口調になっちゃった!!
入学初日で、気になる子が出来てしまった。
うわっ、俺ちょろすぎ!?