三話
きたる入学式の日。未来の記憶通り、婚約者が同じ学園に入学したというのにライル様は話し掛けもせず、こちらから挨拶に伺っても嫌そうな顔で素っ気ない態度を取られた。(未来の記憶では気づいてなかったが、側近候補の1人が後ろでニヤニヤしていたので、むちゃくちゃ腹立たしかった。なんだアイツ?)
まあ、こんな態度を取られる事は分かっていたのでライル様が離れた後、大袈裟に悲しんでみせて、周りから同情を買って見せた。また、帰宅後父に今日の様子を泣きながら話し、ここ数年ほどのライル様の態度も相談した。(未来の記憶では、自分が何かしたかもと思ってたし、親に迷惑をかけたく無くて相談していなかった)
すると、一人娘である私を溺愛している父は、すぐに動いてくれた。陛下とライル様の母である側妃様に抗議を入れた他、ここ数年のライル様が茶会をすっぽかす理由にしていた公務についても調査してくれた。なんでも、臣下に降る事が決定している第二王子の身分かつ、成人前(この世界での成人は15歳。学園は11-12歳から入学。)のライル様が任される公務なんて、そんなにある筈が無いとの事。
調査の結果、やっぱりライル様の公務は少なく、茶会をすっぽかして何をしてたかと思えば、趣味の乗馬やら怪しい仮面舞踏会やらで遊び呆けていたらしい。またもや怒った父により、再度王家に抗議が行った。ライル様はしこたま怒られたらしく、学園内でこちらを見かける度に睨みつけてくる。
その度に悲しむ演技をしたり、こっそりライル様との茶会での冷遇っぷりを周りに話したため、学園内では婿入りの立場なのに婚約者を冷遇する愚かな王子と可哀想なご令嬢として、認知されている。やったぜ!
これで第一目的である、ライル様の非を明らかにする事がある程度達成された。
また、あんまり意図していなかったのだが、少しでも両親の助けになればと前世知識を生かして開発した品が正式な商品として売りに出され、大ヒットしたおかげで開発者としての私の評判が上がり、その私を冷遇するライル様の評判は更に下がった。一石二鳥とはこの事よ!
開発した品について、例えば父には書類を纏めやすいようにスライムの粘液から作られる緩衝材を薄く切って、一部だけ貼り付けたなんちゃってファイルを作った。
この世界だと書類を纏めるといえば、紐で縛るしかなく、嵩張るし、ふとした拍子に紐が解けると書類がバラバラになり大変そうだったため、ちょっとしたプレゼントで作ったのだが、商機を見た父と執事により商品化され、文官たちを中心として売れまくった。
母には、くせ毛の髪が纏まりにくいと苦労していたので、趣味の知識を活かし、前世の材料と似た材料で作ったなんちゃってリンスをプレゼントしたら、めちゃくちゃ喜ばれた上に、やっぱり商品化された。年配の婦人から若いお嬢さんまで、大人気となり、正妃様に献上されてお褒めの言葉まで貰ってしまった。
まあ、この世界はリンスが無くて、髪は石鹸で洗ったら油をつけるくらいしかなく、パサパサ or ベトベトになる事が多かったみたいだから、美を追求する貴族女性達に、リンスは革命的だったらしい。どの世界でも美に対する情熱って凄いね……。