無題
【9月21日 土曜日】
それは本当にふとした瞬間に目に入った。
デスクトップパソコンの右下にある時計をクリックし、0時ちょうどに電話をしてやろうとそう思っていたのだ。
秒を刻んでいく時計の下に書かれた『今日の予定』の項目。
23:59:57、
23:59:58、
23:59:59。
僅か3秒の間に消えたそれは見間違いだったのかもしれない。
カレンダーで昨日になってしまった日付をクリックしたが、そこにはもう何も書かれてはいなかった。
そこには確かに『見つけた』と書いてあったのに。
【9月18日 水曜日】
スマートウォッチで時間を確認すると、もう23:59。
随分帰宅が遅れてしまった、そう思い暗い道を足早に歩く。
すると目の前から激しい轟音を立ててトラックが走って来た。
住宅街の細い道で出すスピードじゃない。
急いで避けた電信柱の脇に置いてあったペットボトルを倒してしまった。
足に引っ掛かったりんごジュースに思わず表情が険しくなる。
電信柱に書いてあった鳥居のような落書きを蹴飛ばしてやった。
【9月20日 金曜日】
今日は金曜だというのに足が重い。
頭も痛い、仕事を休もうか。
休んだら少し体がマシになった。たまには三連休も良いだろう。
【9月22日 日曜日】
「ここで日記は終わってるみたいだね」
「いったい何処に行ったのかしら、あの子」
都内の小さなワンルーム、デスクトップのパソコンの後ろに置かれたノートには日記が書かれていた。
筆まめな兄である。日記はどんなに忙しい日も体調が悪い日でも必ず書いていた。
その兄が失踪したのがつい一週間前のことだ。
母から長い溜息が出る。
もう疲労も限界なのだろう、先に帰ってもらい私は一人この部屋に泊まることにした。
パソコンデータでも見てみようか。
するとデスクトップのパソコンがひとりでについた。
少々驚いていると、右下にスケジュール予定のお知らせが現れている。
何か兄が予定を入れていたのだろうか。
だとしたらやっぱり、失踪なんて考えられない。
そう思いながら視線を向けると。
『9月29日 日曜日 一緒に遊ぼう』
私は急いで時計をクリックする。
時間は23:59:59。
すぐに9月29日の日付を見ても、そこにはもう何も書かれていない。
けれど次の瞬間、予定を知らせるポップアップが次々と現れた。
『見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた――