そして最後はゼロになる(1)
どこから調達したのか、朝に集合した時すでに二人は変装を済ませていた。
オフィーリアはシンプルなワンピースに着替え、クレアは目立たないローブを羽織り、髪を後ろでまとめている。
荷物を背負えば何とか旅人のように見えないこともなかった。
顔を知っているものがよく見たら誤魔化しようもないが、仕方がない。
あまり風貌を隠し過ぎると逆に不自然で目立ってしまう。
街を出て南下しはじめると、すぐにクレアが歩調を落として横に並んだ。
「ノエル、ちょっとその剣を見せてもらえないか?」
それは思い付きではなく、事前に言うことを決めていた言葉に特有の気配があった。
話し方に僅かな思考も迷いもない。
俺は鞘から剣を引き抜き彼女に手渡した。
切っ先から柄頭まで角度を変えながら子細に点検する。
確かにその剣は数打ちの量産品とは少しだけ違って見えた。
細身の長剣で見た目よりは重い。
少し厚みのある鍔にあまり目立たない装飾と紋章が付いている。
恐らくは鍛冶師の趣味みたいなものだろう。
武器屋なら安物と最高級品の中間辺りに置かれていれば違和感なく収まるかもしれない。
「この剣はどこで手に入れたんだ?」
クレアは熱心に剣を見ながら言った。
「もらったんだよ」
「もらった?」
すぐ後ろにいたランディも口を挟む。
「俺たちゃもっと南の方の農地で地主に拾われて下働きしてたンだよ。 そこに立ち寄った旅のハンターがくれたんだ」
「ふむ。 ハンターから……」
クレアは眉間を寄せて紋章を見ていた。
「もしかしてとんでもない名剣だったりする?」
「いや……、悪くはないが普通の剣だな」
まぁ、それはそうだろう。
普通ではない剣を「ハンターになりたい」と言っているだけの子供に与えるはずがない。
クレアは俺に剣を手渡した。
改めて自分でもそれを見る。
よく分からない男にもらった剣をそのままずっと使い続けている。
考えてみれば妙なものだった。
一体あの男は今どこで何をしているのだろうか?