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その出会いが変えるもの(2)

まっすぐ集団に向けて歩いた。

野盗たちの後ろ側から近づく格好になる。


その間も剣士と野盗たちは何度か剣を打ち合わせていた。

刀身がぶつかり合う甲高い音が響く。


「あのー、ちょっといいかな?」


俺は後ろから声をかける。

その場にいた全員が一斉に動きを止めこちらを見た。


「そっちが野盗で、そっちの二人が襲われてる……、で、あってる?」


交互に指をさし聞いたが、誰も何も言わなかった。

襲われている側でさえ黙っていた。


誰もがこいつは一体何なのだと測りかねているようだった。

俺は自分がひどく場違いなことをしているような気分になってきた。


「いや、一応確認しておいた方がいいと思って……、勘違いだったら申し訳ないし」


もしかしたら凶悪な女性の二人組が七人の善良な男たちを襲っているのかもしれない。

そういう可能性がゼロだとは言えない。


「やれ!」

野盗のうちの一人――、恐らくはリーダー格の男が叫んだ。

すぐに六人のうち二人がこちらに走り出す。


「会話もできねぇのかよ!」と俺は呻いて半身に構えた。




先に目の前に肉薄した一人がショートソードを大きく上から振り下ろす。

俺はそれを受けるために剣を合わせた。


しかし、それはフェイントだった。


剣に意識が向き、警戒の薄くなった下段に鋭いクイック・モーションの蹴りが飛ぶ。

膝を狙った間接蹴りだ。


俺はとっさに体全体を大きく横にスライドさせて躱す。

それで体勢が崩れた。


野盗は蹴り足を着地させると同時に、逆の足で回転しながらの後ろ蹴りを放つ。

避けるどころか受けることさえできない。


まともに跳ね飛ばされ、転びかけている俺の喉元に向かって相手の剣が最短距離を走る。


俺は野盗の強さを見誤っていた。

弱いから数にものを言わせて略奪しているとは限らない。

相手は俺のはるか格上だ。


しかし、もう一手は逃げれる。


俺は倒れかけた体勢から全力で地面を蹴り、ほとんど水平に飛ぶことで剣から逃れた。

そして、そのまま地面に飛び込むような形で完全に転倒した。

これで詰みだ。


男は俺にとどめを刺そうと近付いてくる。

後ろからもう一人の野盗が追い付いてくるのも見えた。


それは死を覚悟してもいいような状況だった。

しかし、死を覚悟したり、命乞いをしたりしている時間はなかった。

相棒が赤毛を揺らし側面から飛び込んできたからだ。


「フッ!」

強く息を吐きながら後ろ側の野盗に思い切り一撃を振り下ろす。

それは完全な奇襲だった。

しかし、野盗はそちらをちらりと見ただけで簡単にそれを捌いた。


俺の目には野盗のショートソードが振り下ろされる剣を軽く撫でただけにしか見えなかったが、それだけで相棒の手から剣が絡め取られ、弾かれ、宙を舞った。


地に落ちた得物がカランと乾いた音を立てる。

あまりにもレベルが違い過ぎる。


「あ……」と相棒が声にならない声を上げる。

野盗はその言葉の続きを待つほど親切ではなかった。


横薙ぎに払うような剣が相棒の首を刎ねる――、そのわずか一瞬前に。

野盗の胸から鮮血と一緒に黒い剣が突き出してきた。


剣士の女だ。

座り込んだ少女の方を見ると、周りに野盗の死体が四つ仲良く転がっていた。

俺がただ殺されかけていた数秒の間に四人を片付け、こちらまで追いすがったということか。


信じられない強さだった。


俺を蹴り飛ばした野盗――、生きた最後の一人だ、の判断は速かった。

女が絶命した野盗の胸から剣を引き抜くよりも先に弾かれるように少女へと向かって飛び出す。

これにはさすがに凄腕らしい剣士の女も一瞬の不意を突かれた。


「待て!」

俺は気が付いたら反射的に起き上がり、走り出していた。


女と並走する形で野盗を追うが、このままでは距離的に間に合わない。

野盗が少女に何をするつもりなのかは分からなかったが、どうせロクなことではないはずだった。

止められるものなら止めておいた方がいい。


俺は走りこんでいる勢いをそのままに、オーバースローで剣を野盗の背後に放り投げた。

野盗は全くこちらを見ていない。


しかし、それにも関わらず野盗は直撃の瞬間に後ろへと振り返り、あっさりと投げた剣を打ち払ってしまった。


俺はつくづく思った。

今まで一体何をやっていたのだろうと。


ただの野盗でさえこれだけの強さを持っているのだ。

うだつの上がらないハンターとはいえ、何年か魔獣を相手にしてきた。

もう少しはやれるだろうという根拠のない自信があった。


だが結局のところ、ボアなんていくら倒してもボア狩りが上手くなるだけで強くなどなれないのだ。


投げられた剣を防ぐために振り返る――、剣士の女はその一拍で追いついた。


一撃、二撃、三撃と空気を丸ごと切り裂くような強烈な連撃が黒い残像を残しながら襲い掛かる。

野盗はその全てを体捌きだけで回避し、続く四撃目にカウンターの突きを合わせた。


女はとっさに剣の軌道を変え、刀身の根元で相手の突きを受ける。 鍔迫り合いの格好だ。


野盗は間髪入れずに強く前へと踏み込み、相手を突き飛ばそうとした。

しかし、それと全く同じタイミングで女は後ろに下がった。 僅かに野盗の重心が乱れる。


女は相手の刀身の表面を削るみたいに黒剣を滑らせ、鍔を避けながら思い切り振り抜いた。

野盗の指の何本かが空中に散る。


野盗の判断はどこまでも早かった。

取り落したショートソードが地面に落ちるよりも先に、無事な方の手で拾い上げ、もう一度突く。


だが、それではこの相手には間に合わない。

女の剣士が放った水平の一撃が今度こそ野盗の胴を薙いだ。

野盗は体の真ん中を七割ほど切り離され、衝撃でぐるりと回転したあと地に伏した。


全滅だ。


「す、すげぇ……」

追い付いてきた相棒が呆然と呟いた。


全くの同感だった。

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