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それでも廻る世界の上で

城の外に出てしまうと、柔らかな太陽の光を感じた。

まだ時刻は早く、城の付近に商業施設はないので、とても静かだった。

民家が立ち並ぶ中で、鳥のさえずりだけがかすかに聞こえる。


その家々、生活の象徴のようなものを見ていると、すべてが終わったということを実感した。

もう『教会』も、魔族も、王女も、何かも俺に用はないのだ。

そして俺にはノエルすらもいない。

俺は糸が切れ、空に放り出された風船のような気分になった。


「ランディ」

クレアが背後から声をかける。

「ちょっと付き合ってくれないか」




クレアは自分の宿に寄り、小さな包みと剣を持ち出した。

そして街の外れへと歩き出した。

少し歩きづらそうだったので、途中から荷物は俺が持った。


クレアはどんどん町の中心から離れていき、そのまま外に出てしまった。

それから、道もほとんどないような小さな林の中に入る。

一体どこへ向かっているのだ?


「まだ歩くのか?」

「もう少しだ」


やがて小高い丘を登っていくと、頂上付近で急に木々が途切れた。

そこだけ鶏小屋ほどのスペースがぽかんと平らにひらけている。

そして丘はそこから急に巨大な包丁でで切り落としたみたいにきれいな絶壁になっていた。


俺はそこからの景色に目をやる。

地平線の向こうまで見渡す限りの見事な草原だ。

人の手は全く入っていない、そのままの自然な姿だった。

気持ちの良い風に吹かれて緑たちが幾重もの波を作っている。


「ランディ、お前海を見たことはあるか?」

「……いや」

「私もない。 だが、オフィーリア様は見たことがあったらしい。 西の国を前王や兄君と一緒に回ったのだそうだ」


クレアの方に目をやると、彼女ははるか草原のかなたを見つめている。

とても遠いまなざしだ。

髪が風に揺られている。


「この草原がな。 海に似ているのだそうだ。 見渡す限りの水が風に打たれ寄せては返す、その様子に。 オフィーリア様はこの場所を気に入って、たびたび訪れていたんだ」


俺もクレアと同じ方に目をやった。

広大な緑の波が世界を飲み込むような勢いではるか遠くまで無限に広がり続けている。

そしてその上にはどこまでも巨大な青空と、それを埋め尽くさんと浮かぶ真っ白で大きな雲たち。

確かに美しい眺めだった。


「その包みの中に200万ゴールドが入っている」

どちらかというと突然にクレアは言った。

俺は包みの口を開けて確認してみる。

確かに金貨が入っている。


「……? どっから出てきたんだ、こンな金」

「元々は私のものだ。 プリンセスガードの時に出ていた給金だな。 使う必要もなくそのまま残っていた。 ランディ、約束していたお前への報酬だよ。 お前は命をかけたし、色々なものを失った。 その対価としては足りんかもしれんが、国からは金が出なくなってしまったからな」

「国……、国か……」


「なぁ、この国ってこれからどうなるんだ」

「……私にも分からん。 周囲の国々に分割して統治されるのか、あるいは大陸同盟からの推薦者が王となり新しい国を作るのか。 どうなってもおかしくはない。 こんなケースはほとんどないだろうからな。 いずれにせよレオーネという国は消滅するだろう」

「なるほどな……」


俺は包みの口を閉じると、それをクレアの方に差し出した。

「いらねェ」

「なぜ」

「これはお前がこれからを生きるために必要なもンだろ」

「これから……?」


クレアは訳が分からないといった表情をした。

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その顔は何の留保もなくそう訴えていた。

困惑、理解不能、意味が上手くつかめない。


やがてクレアは大きなため息をつき、俯いた。

「私にはこれからがあるのだな……。 オフィーリア様はもういないというのに……」

「あるさ」

俺は包みをクレアに押し付けた。


「誰が死のうと、どんなことが起きようと。 俺たちはこの世界でやっていかなきゃいけねぇンだ。 生きている限りな」

クレアは何も答えられなかった。

それでも、俯いたまま包みは受け取った。


「分かった。 だが、剣は持っていけ。 私からの個人的な餞別だ」

「いいのか? オフィーリアからもらった剣なンだろ?」

「ああ。 お前に使ってもらいたいんだ」


俺は剣を手に取り、クレアに向かって水平に突き出した。

「ありがたく受け取る」

クレアは頷く。




そして二人は別れた。

クレアは去っていく途中で、一度だけ振り向いてこちらに手を振った。

俺も軽く手を上げて答える。


俺は手近なところにあった岩に腰を下ろした。

剣を強く握りしめると、心細さは幾分か軽くなった気がした。

もう糸の切れた風船のような気分はしない。


俺だけじゃないんだ。

みんな一緒なんだ。

そう思った。


海のような草原を見る。

太陽の光はそこにあるものすべてに平等な祝福を与えていた。

草花にも、木々にも、風にも、大地にも、そして俺にもだ。

草原はその光を受け、いつまでも永遠に輝き続けていた。

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