終奏(2)
「調査で分かったことがいくつかある。 それについて君たちにも情報を共有しておきたいと思う。 もちろん君たちが聞きたくなかったらそれでも構わない。 その場合は話はここで終わりだ」
俺とクレアは椅子に座ったまま無言で聞く意思を示した。
どうせ何を聞いてもあまり意味はないのだろう。
全ては終わったことだ。
それでも、そこに聞ける話があるのなら聞いてもいいような気がした。
ジェラルドは頷いた。
「リチャード王はかなり早い段階でアクトゥス教団と接触していたようだ。 王になるよりずっと前からやり取りをしていた記録が残っていた。 最初にどんなルートからコネクションを持ったのかは分からない。 そこが一番知りたかったことなんだがな。 まぁ、城内の就業者や貴族の中にアクトゥス教団の者がいたのだろう」
ありそうな話だった。
その手の組織は煙のようにどんな場所にでも入り込むものだ。
「それから、王の体は改造されていた。 恐らくはアクトゥス教団によって」
「改造?」
予想外の単語が出てきて眉を吊り上げる。
「どういうことスか?」
「そのままの意味だ。 肉体が作り替えられていた。 体内に妙なものが埋め込まれていたり、臓器が変質していたり、そんなところだ。 君たちも王の体にあった妙な模様は見たろう。 あれもその一部だ。 魔法や奇跡や、既知の技術体系には全く当てはまらない。 だから、それがどんな改造であったのかはまだ分かっていない」
「分かっていないったって、何らかの仮説くらいはあるんじゃないんスか? いろいろ調べたんスよね?」
「良い勘してるな。 調査員の推測はこうだ。 アクトゥス教団は王の体に、ある地点とある地点を結ぶ井戸のようなものを掘っていたのではあるまいか。 王の体の状態からはそういう印象を受ける。 調べた者はそう言っていた」
「井戸を掘る……?」
「要するに空間転移を行える呪術のようなものだな。 王はその出入口に改造された、ということだ。 もともと魔族がどうやってこちらの大陸に来ているかはずっと分かっていなかった。 奴らは船を使わないし、飛べる個体は少ない。 もしこの仮説が正しければその謎が解けることになる。 まぁ、完全に仮説の段階だがな。 大陸同盟の専門家はその線で解析をはじめている」
「じゃあ、もしかしたら今この瞬間も王の体から魔族が這い出てくるなんてことがあるのか?」とクレアが口を挟んだ。
「いや、そうではないんだ。 王の出入り口としての機能は完全に停止している。 それは間違いない。 仮説に仮説を重ねることになるが、恐らくその門のようなものは王の生命力を燃料にして成立していたのではないかと我々は見ている。 そうでなければ、わざわざ人を出入り口にする必要がないからな」
「アクトゥス教団は今まで、ただ魔族を崇拝する邪教と思われていた。 しかし、今回の件では直接的に魔族にコンタクトを取り、こちらの大陸に呼び寄せ、あまつさえ人間の権力者と結託させていた。 奴らは人類にとって極めて危険な存在だ。 これからはより厳しい戦いになっていくだろう」
ジェラルドは席を立った。
そして頭を下げて言った。
「話はすべて終わりだ。 もしこの一件で君たちの通報がなかったら大きな被害を生んでいたはずだ。 感謝する」
俺は何と返事をしたらいいのか分からなかったので黙っていた。
クレアも何も言わなかった。
二人で席を立つ。
そして、部屋を出ようとするとペトラが声をかけてきた。
「ランディさま」
俺は振り向いてペトラと目を合わせた。
「ランディさまは必ずまた我々と一緒に戦うことになります。 少し先の未来の話です。 それまでに色んなことがあると思います。 しかし、大丈夫です。 すべては神のお導きなのです。 どうか、そのことを覚えていてください」
やれやれだ。
俺は不意に机の上にあるノエルの剣を取ってこの女を突き刺したら、いったいどんな顔をするんだろうなと思った。
しかし、もちろんやらなかった。
思うだけだ。
「ごめんだよ。 俺はもうあンたら『教会』にも魔族にも関わらない。 一生な」
俺がそう言うと、ペトラはいつものように目を細めて美しく微笑んだ。




