花に吹く嵐のように(3)
俺は気が付いたら反射的に走り出していた。
魔族の尾という支えを失ったオフィーリアが倒れていく。
その先に向かって全力で地面を蹴った。
俺はゆっくりとした時間の中で、そういえば以前にもこんなことがあったな、と考えていた。
あれは最初に出会った時だ。
刺客に襲われるオフィーリア。
その時は横にクレアもいたが、今はいない。
彼女は茫然とした顔のまま、ゆっくりと力を抜いて膝から崩れ落ちていくところだった。
夕方の噴水で彼女と話したこと。
泣きながら兄と話したいと訴えたこと。
そして、手を握りしめ死なないでくれと言われたこと。
いくつかの記憶のかけらが次々と浮かんでは消えた。
地面に激突するという危ういところで俺はオフィーリアの下に手を滑り込ませ、抱きかかえた。
そして頭を手で支えたまま、静かに地面へと体を横たわらせる。
「ノエル……」
「オフィーリア」
「私……、お兄様と話……、できなかった……」
彼女に触れてすぐに理解できた。
底に穴の開いたバケツから勢いよく水がこぼれ落ちるように。
彼女の生命は急速に失われていく最中だった。
やはりどこまでも透明な彼女の瞳から涙が流れ落ちる。
「私……、結局何も……、できなくて……。 駄目だった……。 わた、私は……」
「オフィーリア」
「あ……」
彼女の手が何かを求めるように力なく彷徨った。
俺はその手を強く握る。
手のひらを通して様々な思いを伝え合えるくらいに強く。
「よく頑張ったな――、もうおやすみ」
俺が静かにそう告げると。
オフィーリアはゆっくりと目を閉じた。
とても安らかな寝顔だった。
魔族はしばらくのあいだ俺たちの様子を興味深そうに眺めていた。
「人間にも情というものはあるのだな」
感心したように何度か頷く。
そして腕を組み「さて」と言った。
「王族を二人も殺したぞ。 これで……、騎士とか言ったか。 戦闘力の高い人間たちが俺の命を狙ってくれるのかな? どうなんだ?」
「そんなことをする必要はなかったんだよ」
俺はオフィーリアを地面に寝かせ、彼女が流した最後の涙を拭きとった。
「魔族はただ魔族というだけで人間の敵なんだ。 お前はただ待っているだけでよかった。 それだけでいくらでもお前を倒そうという人間はやってくる」
「ふむ……、そういうものか」
魔族は何かを考え込むように天井の隅を見つめ、言った。
「まぁ俺は人間に詳しくないからな。 許せ」
俺は腰の剣を引き抜いた。
即座に魔族は跳躍して距離を取る。
「まずはお前からやるか!」
そう叫ぶ魔族の手が歪にうごめいていた。
筋肉や骨が軋むような音と共に両手が引き延ばされていく。
黒く、鋭く形を変えていく。
ほんの数秒で魔族の両腕は曲刀を思わせる黒い刃へと変形した。
「さあ来い! 試してやる! 人間の強さをな!」




