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花に吹く嵐のように(1)

七つの首が地面に落ちる音が聞こえた。

あるものはその場に落下し、あるものは遠くまで転がって静止した。

そして、少し遅れて全員の体がぐにゃりと身をよじりながら倒れた。

濃い血液の臭いが部屋中を埋め尽くす。


魔族の全身はやはり人間に似ていた。

二本足で立ち、身長は2mほど。

人間とは違った構造の筋肉で分厚い体つきをしている。

後ろには爬虫類によく似たかなり長い尻尾が付いていた。


尻尾の先端にある黒い刃からは赤い血が滴り落ちている。

騎士たちの首を落としたのは尻尾による一撃だったらしい。


魔族は腕を組み、辺りの様子を見渡した。

そして「どういうことだ?」と言った。

「次に俺が呼ばれるのは戦場のはずではないのか」


低いがはっきりとした聞き取りやすい発声だ。

目をつぶっていたら人間が話しているのだと思っただろう。


リチャードは魔族が現れ出た自らの体――、胸から腹にかけての辺りを軽く点検していた。

特に異常は見られない。

「予定は変更になった」

「変更だと?」

「ああ――、戦争はない」


「やはりこの国では駄目だった。 私が何を言ってもまともに取り合う者はいなかった。 でも、それも当然かもしれない。 実の家族にさえ理解を得られなかったのだからな」

そう言うと、リチャードはオフィーリアを見た。


その瞳には悲しみの色がにじんでいた。

それはきちんとした人間の感情が込められた目だった。

呆然としていたオフィーリアはそれで、自分が今どこで何をしているのかを思い出した。

話をしなければ――、私はそのためにここに来たのだから。


「確かに私はお兄様の言葉を信じれなかった。 もっとお兄様の言葉に向かい合っていればこんなことにはならなかったのかもしれない。 でも――」

「オフィーリア、お前も一緒に来るか?」

「え?」

オフィーリアは意図が分からずに困惑する。


「私はこれからアクトゥス教団に下る。 もはや他に方法はない。 そこで打ち倒されるべき腐った奴らと戦う算段を立てるのだ。 もしついてくるのならば、そこで二人やり直すこともできる。 お前がいてくれるならこんなに心強いことはない」

「やり直す……? お兄様と……?」


オフィーリアは王になってからのリチャードが何を言っているのかまるで理解できなかった。

そして周囲に流されてロクに話もできなくなってしまった。

しかし、今こうしてみると決して説得することは不可能ではないという気がしていた。


確かにその思想に関しては今も理解はできない。

だが、少なくともそこには兄の考えや、正義や、想いがある。

決して正気を失ったわけではないし、熱い感情を失ったわけでもない。


ある意味でリチャードはずっと純粋なままだった。

ただ、どこかで道を大きく踏み外してしまっただけなのだ。

恐らくは誰かの思惑によって。


私がもっと早く本気で、真剣に、兄を元の道に引き戻そうとしていたら――。

オフィーリアはそう思わずにはいられなかった。


「アクトゥス教団……、お兄様はそこに繋がっていたのね」

「そうだ。 彼らは全ての真実を教えてくれた。 それは――」


その時、魔族の尻尾が揺れた。

目に負えぬような速度で跳ねたかと思うと、リチャードの首を素早く締め上げた。

そして、そのまま空中へと軽く持ち上げて見せる。


「お兄様!」

「うがッ! お前……、何を……」

魔族はやれやれと言った様子で首を振った。

「そんなことはどうでもいいんだよ。 お前は戦場を用意できなかった。 そうだな? 俺はもう待つのは飽きたよ」


リチャードは上手く呼吸ができずにもがき苦しんでいた。

顔が真っ青に染まり、次々と脂汗が噴き出してくる。

瞳が揺れて上手く視線を定めることさえできない。


「適当にひと暴れして強き人間を誘い出してやるよ。 例えば……、王族を殺すというのはどうだ? 人間が俺を狙うのには十分な理由になるか?」

「ば、馬鹿な……、『門』である私を殺せば……、もう大陸に戻れなくなるぞ……」

「別に構わんさ。 魔族に匹敵する人間がいると噂に聞いたことがある。 そいつらを探してみるのも悪くはない」


「やめて!」

オフィーリアは叫び、魔族の下へと走った。

そのまま尻尾に両手をかけ何とか引き離そうとするが、魔族は意にも介さない。


「オ、オフィー……リア……」

「お兄様!」

リチャードは震える手をオフィーリアに向けて差し出そうとした。

オフィーリアはその手を迎えようと自らも手を伸ばす。


「お前に恨みがあるわけではないがな。 しかし、お前の命に興味もないのだ。 強き者は弱き者を好きにできるのがこの世の理。 悪く思うなよ」

魔族はそのまま尾に強く力を込めるた。

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