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聖なる戦い(2)

追われていることにはすぐ気が付いた。

馬が二頭、それぞれに一人ずつが乗っているようだ。

見るみるうちに距離を詰め、追いついてくる。


こちらの馬は道中で体力をかなり消耗していた。

そのうえ二人乗りなのだ。

単純な追いかけっこでは分が悪い。


俺はわざと道を外れて森の中に入った。

速度で負けているなら技術でカバーする。

手綱を操り木々の隙間を最短距離で駆け抜けていく。


再び、少しずつこちらが距離を離していくかに見えた。

その時、後ろから女の声が聞こえた。

「雷よ」


一瞬だけ振り返り後方を確認する。

追手の一人から青白い光が放電するように生まれていた。

先ほど馬車を襲ったのと同じ種類の魔法だ。

「走れ!」

女が叫ぶと同時に、電撃が音を立てて弾けながら地を伝わるように迫る。


「くそっ!」

俺はペトラを庇いながら馬から飛び降りようとした。

「神の名の下に」とペトラは言った。


その瞬間、ペトラの背中の辺りから白銀のエネルギーのようなものがあふれ出した。

それは翼だった。

半透明に透ける白いオーラ状の翼が一対、ペトラの背中に生えていた。

ペトラは羽ばたきながら馬から飛びあがると同時に、再び俺の襟首を掴んで空中へと体を投げ出した。


「またかよ!」

思い切り首が絞まって息が詰まる。

しかし、そう文句を言ってもいられない。

馬は電撃を食らい激しく痙攣しながら倒れていく。

少し遅ければ俺がああなっていたのだ。


ペトラは着地すると俺を地面に向かって乱暴に投げ捨てた。

「うげッ! お前……」

俺は慌てて立ち上がり剣を抜く。


二頭の馬に乗った追手がこちらに追いついてきた。

片方は剣を持った男。

そしてもう一人は武器を持っていない、魔法を放った女だ。

二人は馬に乗ったまま、こちらを挟み込むようにして足を止めた。


「ヴェリタス教徒だな。 お前たちを――」

「黙れ」

ペトラは恐ろしく冷たい声で相手を遮った。

「邪教徒に口を開く資格なし」


俺は横目にペトラの顔を見てショックを受けた。

それは怒りや、憎しみや、軽蔑といった言葉で表現できる範疇をはるかに超えていた。

()()()()()()()()()()()()()()()()という事実に俺の背筋は震えた。


俺は大した人間じゃない。

それでも俺より馬鹿げた人間はたくさん見てきたし、そいつらをけっこう見下して生きてきたつもりだった。

だが、俺には何があってもこんな目はできないだろう。


「貴様……、我々は――」

ペトラは相手が言い終わるのを待たなかった。

男に向かって手のひらを向けて呟く。

「ホーリージェイル」


突如、男を中心として白銀のオーラで作られた球状の檻が現れた。

その白い檻は男を馬ごと包み込み、空中にふわりと浮き上がる。

男は突然の出来事に内側で何かを喚いている。


ペトラが広げた手のひらをスッと握り込んだ。

その瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

水分を多量に含んだ果実を踏み潰したような音、それから何本も束ねた固い棒を無理やりねじ折るような音だ。

そして辺りにはおびただしい量の血液と肉片が爆発するように飛び散った。


よく見ると檻は消えてはいなかった。

握りこぶし大ほどの大きさになってちゃんとそこに存在している。

檻は()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。


ペトラはすぐにもう一人へと向き直り、告げた。

「馬を降りろ」

女は真っ青な顔で震えながら、ゆっくりと馬を降りた。

こんなものを見せられては従う他ない。

そしてゆっくりと後ずさると、元来た道を転ぶように走って逃げていった。


「死ね」

ペトラは短く告げる。

その言葉に呼応するかのように、走っていた女の頭上に光がいくつか瞬いた。

そして次の瞬間――、質量を持った光の洪水が宙から降り注いだ。


激しい衝撃と轟音が地面を揺るがす。

俺は立っていられずに、四つん這いになりながらそれに耐えた。

そして思った。

やはりこんな女に付いてくるべきではなかったと。


揺れが収まり土煙が晴れると、地面には巨大な十字のクレーターが生まれていた。

地面がえぐり取られ、黒い焦げ跡から煙がいく筋か上がっている。

そこにいた女の痕跡は()()()()()()()()()()

女は完全にこの世から消滅していた。


「ディバインクロス」

ペトラは全てが終わってからそう言った。

まるで誰かに何かを報告する義務があるみたいに。

背中の羽は空中に溶けるようにして薄れ、消えていった。


ペトラは座り込んでいる俺に向かって手を差し伸べた。

その頃にはもう彼女はいつもの柔和な微笑みに戻っている。

俺がその手を取ろうかどうか迷っていると、彼女の方から腕を伸ばして俺の手を掴んだ。


掴まれた瞬間に俺の体はびくりと震えた。

そして――、そのことがどうか彼女に伝わっていませんようにと願った。

心から。


「さぁ、急ぎましょう。 ランディさま」

ペトラはそう言うと、目を細めてにっこりと笑った。

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