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聖なる戦い(1)

馬車が揺れる。

ジェラルドは最後の行程を限界まで馬のスピードを上げて進んでいた。

かなり激しい振動の中で俺はペトラに目をやるが、彼女はいつも通り安らかな寝息を立てている。

あらゆる外の状況は彼女の眠りを妨げる要因にはならないらしい。


ペトラはしなければならないことがある限りは誰よりも献身的に働いた。

野宿の準備や食事の支度、街での買い出しとか、そういうことだ。

しかしやるべきことがなくなると、途端に糸が切れたように眠りに落ちた。

まるで野生の動物が体力を温存するみたいに。


俺たちはここまでの道中をそれなりの強行軍で移動してきたが、ノエルたちに追いつくことはなかった。

相手も同じようなペースで移動しているのだろう。

恐らく今日中には王都に到着する。




俺は後方に流れ去っていく景色を眺めていた。

街道沿いの森林から数羽の鳥が空へと飛び立っていく。

俺は群れを組んでどこかへ向かっていく鳥たちをしばらくのあいだ見ていた。


なぜか不意にノエルのことが頭に浮かんだ。

まだあいつらは生きているだろうか。

そんなことを考えていると、ペトラがむくりと起き上がった。

そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


俺はあまりにも突然すぎて抵抗もできず床に這いつくばる。

「うげッ! お前、いきなり何しやがンだよ!」

ペトラは俺の悪態には何の反応も示さなかった。

「ジェラルドさま」

「分かってる。 来るぞ!」


そのやり取りの意味を考える間もなく、馬車を強い衝撃が襲った。

まるで通りすがりの巨人が気まぐれに馬車を拾い上げて放り投げたような衝撃だった。

ペトラは情けない悲鳴を上げている俺を片手で掴んだまま馬車の外へと飛び出していく。


投げ出された空中で、青白い閃光が馬車の後部を襲っているのが見えた。

車輪が破壊され、急ブレーキがかかる。

ジェラルドは馬がケガをしないよう最低限だけ手綱のコントロールをすると、制御を失いつつある御者台から飛び降りた。

俺とペトラも似たような格好で草地に突っ込み地面を転がる。


「な、なんなんだよ……」

幸い怪我はなかったが、頭は激しく混乱していた。

明らかに事故ではない。

あの青白い光は恐らく――、魔法だ。


「ランディさま、こちらへ」

声の方を向くと、ペトラが手早く馬からハーネスを外していた。

「ランディさまは馬に乗ることができますね?」


その通りだった。

農地では馬を使って作業をすることもあるので、最低限の心得えはあった。

しかし、もちろんそれをペトラに話したことは一度もない。

たぶんなぜ知っているのかを考えても無駄なのだろう。


俺は「ああ、乗れる」と頷きながらペトラの下へ駆け寄った。

「そいつはいいな。 ランディ、一つ頼まれてくれよ。 ペトラを連れて先に王都に向かってくれ」

ジェラルドがそう言うのとほとんど同時に、森の中から人影が這い出てきた。


半端な数ではない。

恐らく三十人は超えているだろう。

全員が奇妙な宗教的デザインのローブを着ている。

そして長剣で武装している。


「な、なんだこいつらは……」

「アクトゥス教団」とジェラルドは告げた。

司教が言っていた邪教の者たち。


「ここが大人数で待ち伏せのできる最後のポイントだったんだろうな。 俺たちと魔族を接触させたくないらしい。 さぁ、行け二人とも!」

ジェラルドはそう言うと、集団と俺のあいだに体を割り込むようにして向き合った。


俺はジェラルドが丸腰なことが気になって仕方がなかった。

本当に大丈夫なのか?

しかし、行けと言われれば行くしかない。


「いいんだな?」

「ああ、すぐ後から追うよ」

そう言うとジェラルドはひらひらと手を振った。


「ランディさま。 急ぎましょう」とペトラが促す。

俺は諦めて馬に飛び乗ると、ペトラの手を掴んで引き上げた。

前がペトラ、後ろが俺だ。


そしてもう一度だけジェラルドの方をちらりと見ると、手綱を握って急ぎ、道を走りだした。

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