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扉は開かれた(2)

城門には二人の騎士が控えていた。

オフィーリアの姿を遠目に認め、さっと表情が変わるのが見える。

しかし、そこに敵意のようなものは感じられなかった。

驚きと、それから戸惑い。


「オフィーリア様! ご無事でしたか!」

騎士たちは駆け寄り、声をかける。

「ええ。 細かい話は後で。 すぐにお兄様と話したいの」

オフィーリアがそう言うと騎士たちはお互いに顔を見合わせた。

苦々しい表情になり黙り込んでしまう。

そして、正面を塞ぐように立ちはだかった。


「申し訳ございません……、オフィーリア様。 今は城内には入れないのです」

「どういうこと?」

「それは……」

言葉は続かない。

騎士たちは押し黙ったまま下を向いて立ち尽くしている。


オフィーリアは二人の騎士の顔を交互に見て言った。

「話してちょうだい。 お兄様に関わることなんでしょう?」

騎士たちはそこで初めてオフィーリアの変化に気付いたようだった。

以前とは違う彼女の目を見て、驚きの表情を浮かべてる。

やがて、まっすぐなオフィーリアの瞳に観念したように騎士たちは話はじめた。


「……城内では今、騎士団によるクーデターが進行してます」

「クーデター?」

予想外の単語にクレアは訝しげな声を上げる。


「騎士団長が秘密裏に準備を進めていたのです。 このままではこの国は持たないと……。 すでにリチャード王の派閥は駐屯地に隔離され、城内も人払いが済んでいます。 いま中にいるのは騎士団長と六名の団員、それからリチャード様だけです。 リチャード様の拘束が済めばそれですべてが終わります。 オフィーリア様……、ご理解ください。 あなた様が王にならねば――」


言い終わる前にオフィーリアは二人の騎士の隙を突き、間を走り抜けた。

遅れて俺とクレアも気付いた。

もし、リチャード王が追い詰められれば()()()()をためらわず行使するかもしれない。

その前にクーデターを止めなければ――。


後を追おうとした俺とクレアを二人の騎士が押しとどめた。

「ま、待てっ! 城内には誰も入れるなと――」

「くっ! 邪魔だ!」

クレアと騎士が押し問答をしている間にオフィーリアは城の中へと消えた。

騎士もどうしていいのか分からず、俺たちを止めながらもオフィーリアの方に目線を走らせている。


「オフィーリア様!」

クレアの叫ぶ声が城門の前に響いた。




リチャードの自室の前では騎士団長、そして六人の騎士が突入のタイミングを計っていた。

お互いの顔を見渡し、頷き合う。

今ここでレオーネの歴史が大きく変わることになる。

その決意を持って今日までことを運んできたのだ。


騎士団長はおもむろに扉を開いた。

静かな足音で七人が王の部屋へと入っていく。

鎧の軋む音だけが少し響いた。


リチャードは窓辺に立ち、城下街を眺めていた。

二十代前半――、王と呼ぶには若い年齢だ。

オフィーリアと同じ栗色の髪を正面で分けている。

聡明ではあるが、同時に神経質そうな切れ目が特徴的な男だ。

王というよりは寡黙で有能な革命家のようにも見えた。


リチャードは一言もしゃべらなかった。

振り返りもしなかった。

ただじっと開いた窓の外を眺めている。

柔らかな風がわずかに髪を揺らしていた。


やがて騎士団長が口を開いた。

「王よ。 ここまでです」

そう言って剣を鞘から抜き放つ。

「戦争などと言い出さなければ我々も忠義を尽くすことができたかもしれない。 しかし、あなたはやりすぎた」

一歩、二歩と王へ歩み寄る。

「拘束します。 抵抗すれば斬ります」


「どうしてなんだろうな?」

リチャードはやっと口を開いた。

「まるで分からないんだ。 こんな当たり前のことになぜ気付けないんだ?」

「……何のことです?」

「何が正しくて、何が間違っているかだ」


リチャードは室内に向かって振り向く。

その目は騎士たちに注がれていた。

いや、目線こそ騎士たちに向いていたがリチャードは()()()()()()()()()

ならば、彼は()()()()()()()()()()()


リチャードは突然服を脱ぎ始めた。

ボタンを外し袖から腕を抜くと、衣類を放り捨てる。

露わになった上半身には赤く、大きな魔法陣のようなものが浮き上がっていた。

よく見ると染料を使って描かれたものではない。

肌そのものが変色していることが分かる。


「王……、いったい何を」

騎士団長が言い終わるより前にそれは起きた。

魔法陣の中央、リチャードの胸部を()()()()()()()手が現れた。


深い紅の肌。 黒い爪。

見るみるうちに腕から肩までが外に這い出ると、次に顔が現れた。

それは人間に似ていると言えなくもなかった。

目と鼻がある。 ついでに耳もだ。

おまけに口まであるとなれば十分だろう。


しかし、頭髪のない後頭部は歪に膨れ上がり、その額には何度も墨で塗り直したような漆黒の角が一本そびえていた。

それは角というよりは頭部から突き出した剣のようでもあった。


「ヒト型の魔獣、いや、魔族か――」

騎士たちはその異様な光景に動くことを忘れていた。


「お兄様!」

オフィーリアが部屋に飛び込んでくる。

一瞬――、オフィーリアとリチャードの視線が交わった。

確かに二人はお互いの目を見た。

しかし次の瞬間、リチャードの体から弾けるように抜け出した魔族が、その場にいた全ての騎士の首を刎ねた。

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