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扉は開かれた(1)

「オフィーリア様。 見えてきました」

御者をしているクレアの声を聞いて、俺は馬車の外に身を乗り出した。

レオーネの城、そしてその城下町がはっきりと視認できる。


ここまでの二週間は驚くほど何事もなく過ぎた。

クレアはただひたすらに馬車を走らせ、俺とオフィーリアは馬車の中で黙りこくっていた。

特に険悪な空気だったわけではない。

ただ、オフィーリアはじっと静かに自分の世界に沈んでいたのだ。


彼女からは出会った時のような暗い陰りはもうどこかへ消え失せていた。

全身から野生動物のような自然な生命力を発している。

しっかりと開いた瞳の奥では、何かが激しく進行しているような印象があった。

もしかしたら、こちらが本当のオフィーリアなのかもしれない。


俺は前にいるクレアに向かって話しかけた。

「城内にはどうやって入るんだ?」

「城門は騎士が守っている。 腹を割って本当のことを話してみるしかない」

「それで大丈夫なのか?」

「騎士団は元々リチャード様に対する一番の反対勢力だった。 私も知らない仲ではない。 やってできないことはないはずだ」


どちらにせよ作戦を練って侵入しているような時間はない。

大陸同盟の目的は魔族を倒すことだ。

レオーネ王国の行く末や、リチャード王の生死は優先されない。


「しかし、城内に入ってからは私にも誰が敵で誰が味方なのかまったく分からない。 魔族もどう動くのか見当も付かない。 だから、スピード勝負だな。 誰かに見とがめられる前に一気にリチャード様の自室まで押し入ってしまおう。 護衛を相手に荒っぽいことになるかもしれん」

「王の自室に押し入るねぇ。 もう完全に国家反逆罪だな」


大それたことだ。

自分がそんな真似をすることになろうとは想像すらしていなかった。

俺は何だかずいぶん遠くまで来てしまったような気分になった。


クレアは肩をすくめて答える。

「構いはしない。 どうせ最後にはオフィーリア様が王女になっている」

もしくは失敗して全員死んでいる。

伸るか反るかだ。


「あとは魔族が出てくるタイミングで大陸同盟が来てくれりゃ万々歳だな」

「ああ。 言うまでもないが戦おうとするなよ。 絶対に勝てんからな」

俺は魔族の強さを経験としては知らない。

だが、魔獣をはるかに超越する強さを持っているとは聞いていた。


「クレアは魔族と戦ったことがあるのか?」

「いや、ない。 だが見たことならある」

「やはりクレアでも勝てないのか?」

クレアは当たり前だと言わんばかりに首を左右に振った。

短くなった髪が宙に揺れる。


「例え私が百人いたとしても勝てんよ。 だから、もう一度言っておく。 絶対に戦おうとするな。 ノエル、お前は少し危ういところがある。 そこに助けられもしているが――、私としてはお前に死んで欲しくはない」


「私もよ」

後ろからオフィーリアが声を上げた。

ずっと聞いていたのだろう。

振り返るとオフィーリアはじっと俺の瞳を覗き込みながら、両手をそっと握った。


「私も死んで欲しくない。 あなたは巻き込まれたのよ。 いえ、私が巻き込んだ。 本当はここで降りてもらって、私たちだけで城に向かった方がいいのかもしれない」

「でも、俺がここで降りるはずがない」

オフィーリアは頷いて短くため息をついた。


「そうね。 あなたの意思ならば私も止めない。 あなたのおかげでここまで来れたし、もう今さらだものね。 ここまで来たら一蓮托生だわ」

「まぁ、そういうこと」

オフィーリアは強く手を握りしめた。

「でもノエル、これだけは約束して。 あなたは死なないと」


俺は迷った。

どう返事をしていいのかまったく分からなかったからだ。

そして迷っているうちに――、馬車は城下へとたどり着いた。

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