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神と少女に導かれ(3)

「こちらがランディさまです。 オフィーリアさまの護衛をなさっていました」

そう言ってペトラは俺を紹介した。

目の前の男はあごに手を当てて頷いて見せる。

俺はオフィーリアの護衛ではなかったが、いちいち訂正するのも面倒だったので口は挟まなかった。


男は三十代の後半。

明らかにがっしりとした体つきをしており、よく鍛えられ上げている。

ぼさぼさとした髪に少し伸びすぎた無精ひげが目立つが、不思議とだらしなさは感じなかった。

凛々しいとさえ言っていいかもしれない。

好奇心に満ちた子供のような瞳と笑みをたたえ、まだ幼さをどこかに残している。


「俺はジェラルド。 『教会』の騎士だ。 よろしくな」

そう言うと男は俺の右手を取り握手をした。

同時に左手で肩を何度か強く叩く。

気さくな性格のようだった。

しかし、ペトラの話通りならこの男は魔族と戦うだけのの力を持った超人ということになる。


男は聖職者の服装ではなく、ごくありきたりな平民の服装をしていた。

武器は何も持っていない。

これから魔族との決戦に向かう格好とは思えなかった。


「あの、騎士なんスよね? ジェラルドさんは。 剣も何も持たないんスか?」

男は声を上げて笑った。

豪快な男の笑いという感じだった。

「聖騎士にそんなものは必要ない。 神のご加護があるからな」




俺たちは馬車に乗り込み、男が御者を務めた。

ここから王都の城までは速くとも二週間はかかる。

ずいぶん訳の分からない展開になってきたなと俺は心中でため息をついた。


「寝ます」

ペトラがそう言ったのは突然だった。

そして馬車の床に転がったかと思うと、すでに小さな寝息を立てていた。


「な、何なんだこの女……」

俺はつい声に出してしまっていた。

それを聞いて手綱を引いているジェラルドは笑った。


「こいつはちょっと変わってるんだ。 許してやってくれ」

「ちょっと何てもんじゃないスよ……」

「『神託の奇跡』を持っているからな」

俺は訳が分からないといった顔をして首をひねる。

「なんスかそれ?」


「何というかな……、過程をすっ飛ばして真理を知る力とでも言えばいいのか。 時々そういう勘みたいなものが働くらしい。 こいつにとって説明とか論理みたいなものはあまり重要ではないんだ。 そのせいで教会の中でもちょっと浮いている。 嫌われてるとかそういうんじゃあないけどな。 まぁ良くしてやってくれよ、ランディ」

「は、はぁ」


ペトラはともかく、このジェラルドという男はまともに話が出来そうだった。

聞くべきことはこいつに聞いておいた方がいい。

情報は必要だ。


「にしても、『教会』にも騎士団があったんスね。 俺は知りませんでした」

「あぁ、騎士団と言っても国家の騎士団とは全く違うからな。 人数は十人ばかりだ」

「十人って……、ずいぶん少ないんスね」

ジェラルドはあごに手を当てて短く頷く。

「だから、軍隊としての機能は全く備えていない。 俺たちは通常の戦争はしない。 不浄なる者を滅するためのスペシャリスト集団ってとこだな」

「魔族」

「そうだ」


少し分かってきた。

それならば二人で魔族と戦いに行くというのも納得できる。

大陸中に全部で十人しかいないのだから。


「ジェラルドさんも聖騎士ってことは教会の一員なんスよね?」

「そうだ。 騎士も全員が教会の一員だ。 と言っても俺は特に信仰心は持っていないがね」

ジェラルドはニヤリと笑う。

馬車が大きな石を踏んだらしくガタンと揺れた。

ペトラの方に目を向けたが、彼女が起きる様子は全くなかった。


ジェラルドは続けた。

「神と利害が一致したんだ。 俺の場合はな」

「利害?」

「魔族を殺すという共通の目的の下に協力し合っている。 それで『教会』に入った」

「ははぁ……。 信仰心がなくても十人しかいない聖騎士になれちまうもんなんスね」

「けっこう融通の利く女神なんだ」


俺は今まで『教会』のことをわけの分からない狂信的な集団だと思っていた。

しかし、そういうわけでもないらしい。

この男は魔族を殺すための人生を歩んでいる。

その理由は例えば――、復讐だろうか。


「……ジェラルドさんにはちゃんと戦う目的があるんスね」

「お前には無いのか?」

その質問への答えは俺の中にはなかった。




俺はペトラの誘いを強く断らず、ここまで着いてきた。

それには理由があった。

ノエルたちが心配になったからではない。

俺は着いて行かなかったことを全く後悔していない。


今ここには癒しの奇跡を持つプリースト、それに魔族と戦えるほどの騎士がいる。

この二人さえいれば俺はそれなりに安全なはずなのだ。

少なくとも、ノエルたちと行動するよりずっと命の危険は少ない。

それが一つ。


そして、もう一つの理由は金だ。

もしオフィーリアがこのまま死んだ場合、報酬は一体どうなるのだ?

今までの苦労が水の泡になるかもしれない。

俺はただ働きなど絶対にしたくはなかった。


金は命には代えられない。

しかし逆に言えば、命の危険さえなければ金が惜しいのだ。


俺の行動理由はどこまでも利己的で計算ずくだった。

そのことが俺を少し暗い気持ちにさせる。


一体どうやったらノエルたちや――、この男のように行動することができるのだろうか?

レオーネまでは二週間。

考える時間だけはたっぷりとあった。

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