神と少女に導かれ(2)
「失礼いたします」
二度のノック、それからほとんど間を空けずペトラが部屋に入ってきた。
俺はノエルたちが出ていった後の部屋で、ただ椅子に座りぼんやりとしていたので反応が遅れた。
ノックも声も聞こえていたが、すべては意識の外にあった。
顔を向けると、彼女はまっすぐにこちらを見つめている。
面倒だったが説明をしなければらなかった。
「三人はレオーネに向かったよ。 王を説得するンだとさ」
彼女は驚かなかった。
それどころかどんな反応も見せなかった。
まるでそんなことは当たり前ではないかと言わんばかりに。
「ランディさまはご一緒なさらなかったのですか?」
ペトラはそう言ってほんの少し首を傾げた。
違和感。
俺は彼女に自己紹介をしていない。
しかし、誰かが呼んだのを聞いていたのだろう。
他に考えようがない。
「ご一緒なさらねェよ。 魔族ってのはとんでもなく強いんだろ? 俺なんかが行ったって無意味に死ぬだけだ」
「司教さまのお話を覚えていらっしゃいますか? 魔族とは極端な個人主義で魔族同士でも協力することはないと」
「要するに――、それでも人類と戦争できちまうくらい強いってことだろ?」
ペトラはにっこりと笑って正面で両手を合わせた。
「その通りです」
「逆に聞きたいンだけどよ。 どうやって倒すんだ? そんな化け物をさ」
「魔族を相手に数は通用しません。 犠牲者が増えるだけです。 必要なのは絶対的な力を持った個人なのです。 世の中にはそういう人間たちもいます。 魔族に匹敵する力を持った者たち」
「化け物同士の戦いってことか。 やっぱり俺が行かなかったのは正解だよ」
ペトラはそれには答えずに言った。
「私はご報告に来ました。 第一陣の準備が整いましたので」
「第一陣?」
「と言っても二人です。 私ともう一人、『教会』の騎士が魔族を倒しに向かいます」
「あんたとそのもう一人が絶対的な力を持った化け物ってワケか」
しかし、それも納得だった。
あんな傷を一瞬で治せるのならば、戦場ではさぞかし大きな力になるだろう。
「報告どうもありがとう。 でもそれなら、早く追いかけた方がいいンじゃねぇか? 急がないとお姫サマ死んじまうぜ」
「追いつく必要はありません」
「あン?」
ペトラは目を閉じると祈るような仕草を取った。
その顔には確信に満ちた微笑が浮かんでいた。
「どんなに危険であっても、それはオフィーリアさまが自ら選んだ道です。 ご自分の意思を貫いたのです。 例え亡くなられたとしても、それは本望というものでしょう」
俺はそろそろこの少女のことを不気味に感じはじめていた。
どうにも言っていることがズレている。
本望?
「あァ、そう……。 まぁいいや」
とりあえず報告とやらは終わったようだった。
俺はこれからどうなるんだろうか?
オフィーリアがいなくなった今、俺がここにいる意味はない。
それに多分あいつらは死ぬだろう。
ここには帰ってこない。
それならどうする?
俺はハンターを続けるのか?
ノエルに誘われて農場を出てきたのに結局は一人になった。
これなら下働きを続けていた方がマシだったのかもしれない。
ハンターとして過ごしたこの数年間は一体何だったのだろうか。
そんなことを考えていると、ペトラはまだ部屋にとどまりこちらを見つめていた。
「あの……、まだ何かあンの?」
俺がそう聞くとペトラは言った。
「ランディさまもご一緒に向かいませんか? レオーネに」
「ハ、ハァ? 何で……?」
今さら行くなら最初からノエルたちに着いて行っている。
だいいち、この少女が俺を誘う理由が何一つとして思いつかなかった。
しかし、彼女は俺の質問を完全に無視していた。
「私には分かります。 ランディさまには神のお導きが必要なのです。 さぁ、準備をなさってください。 まだ間に合いますから」
そう言うとペトラは俺の手を取って両手で握りしめた。
そしてまた目を細めにっこりと笑った。
その笑顔に全身の鳥肌が立つ。
もう分かった。
いかれてるのはノエルたちだけじゃない。
この世界においては俺以外の全ての人間がいかれているのだ。
そいつらに取り囲まれて俺は生きているのだ。




