神と少女に導かれ(1)
嫌な予感はしていた。
ノエルがクレアと話しはじめた時点でこうなるだろうなと予想は付いていた。
そして、恐らくこいつは次に「レオーネに行こう」と言い出すのだ。
その調子で何度も危険な目に遭わされてきた。
「レオーネに行こう」
ノエルは一言違わずそう言った。
俺はすぐに反論する。
「なぁ、俺だって可哀想だとは思うよ。 兄妹でこンなことになっちまって。 そりゃ話くらいしたいよな。 同情する。 でもな、そりゃないだろう?」
全員を見渡して続ける。
「やっとのことでここまで逃げてきたんだぜ? 大陸同盟だか『教会』だか知らねェけどあとは一任したんだろ? 何だってこれ以上危ない橋を渡る必要があるんだよ」
クレアがあとの言葉を引き継いだ。
「ランディの言う通りだ。 城内にいた時でさえ話をすることは叶わなかったのだ。 それに今や大陸同盟とレオーネは一触即発。 魔族との戦いにしろ、戦争にしろ巻き込まれたらどうにもならん」
頼もしい援軍だ。
もっと言ってやれ、と俺は心中で思った。
「しかし……」とクレアは続けた。
そら来た。 この女もだ。
分かっていたのだ。
最初から。
「本当に久しぶりに見たよ。 オフィーリア様が自分の意志を示すところを。 本当に……」
クレアは座っているオフィーリアの前にひざまずいて、目を見た。
「聞かせてください、オフィーリア様。 例え危険であってもリチャード様に会いたいのですか?」
「私は……、お兄様と話したい。 このままで終わってしまって……、残りの人生を生きていきたくはないの」
オフィーリアの顔つきは今までとまるで違っていた。
言葉には血が通い、目には光があった。
俺は口を挟んだ。
挟まずにはいられなかった。
「会って話すためだけにか? 冗談だろ? どうかしてるぜお前ら……。 そんなことしたって何にもならないじゃねェか」
「そうでもないさ」とノエルが言った。
「もしオフィーリアが王を説得できれば戦争は防げるかもしれないだろ? それだけでも行く価値はある」
「確かに――、そうなれば国と民を救うことはできる。 それに、リチャード様は処刑を免れるかもしれない。 魔族だけは大陸同盟に任せる他ないが……」とクレアは言った。
「でも、それなら早く出発した方がいい。 大陸同盟より先に着かないとダメだ。 今ならまだ間に合う」
ノエルとクレアは二人で納得したように頷き合う。
オフィーリアも立ち上がった。
しかし、そこに俺は含まれていない。
ノエルは俺に向かって真剣な表情で言った。
「ランディはここに残るだろ? 達者でな。 生きて戻れたらまた一緒にハンターやろうぜ」
そう言って俺の両肩をてのひらで強く叩く。
まただった。
こいつは俺という存在に最初から期待なんてしていないのだ。
嫌なら来なくてもいい。 そう思っている。
オフィーリアは俺に深く頭を下げた。
「ありがとう……。 あなたとノエルがいなかったら私はたぶん死んでいた。 また逢えたらきちんとお礼をさせてね」
それは本当の言葉だった。
心からそう思っているのが伝わってきた。
だからこそ気に入らなかった。
「ランディ、お前が正しいんだ。」とクレアは言った。
「お前の言う通り、私たちがどうかしているんだ。 そんなことに付き合う必要はない。 気に病む必要もない。 大丈夫だ。 お前は正しい」
誰一人として怖じ気づいている俺を馬鹿にしていなかったし、真摯に俺の気持ちを汲んでいた。
そのことが却って俺の惨めさを引き立てていた。
それが嫌なら俺も着いて行くと一言いえば済む話だった。
しかし、それができない。
自分の素直な声に気付いてやれ、とノエルは言った。
俺は行きたくない。
魔族なんかと関わりたくないし、戦争にも巻き込まれたくない。
それが俺の素直な気持ちだ。
気が付くともう三人は部屋を出ていっていた。
俺はいつまでも部屋に一人で呆然と立ち尽くしていた。




