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神の名の下に(2)

「酒蔵にお兄様が降りてくる気配がありました。 間違いなく一人分の気配しかありませんでした。 しかし、気が付くとそこには二人の人影があったのです」

オフィーリアは話し続ける。


「私はわけも分からず物陰から顔を出して様子を窺いました。 そして見ました。 私は魔族を見たことは一度もなかった。 でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


司教は明らかに訝しんでいた。

眉をきつく寄せて、組んだ手を顔の正面に持ってくる。

少女は薄い笑みのまま表情を変えない。


「お兄様と魔族は二人で話をしていました。 戦争の準備が整ったこと。 その戦争で魔族が裏で手を貸す手はずになっているということ」

「馬鹿な」

こらえ切れずに司教が口を挟む。

「魔族は極端な個人主義です。 人間はおろか魔族同士ですらほとんど協力はしない。 そんな例は今までに聞いたことがない」


オフィーリアはちらりとクレアの方を見る。

クレアは頷いて荷物の中から一本のワインボトルを取り出した。


「教会の方々は魔族が触れた物さえあれば、その痕跡を確認できると」

「誰でも出来るわけではありませんがね――、ペトラ」

ペトラと呼ばれた少女は前に出て「失礼致します」と言いボトルを受け取った。


それを鼻先に近づけて上品に持ち手の匂いを嗅いでいる。

一瞬、彼女の目が細まるのが見えた。

「間違いありません」

そう言うとペトラはボトルを返した。


「それはお兄様と魔族が話している間に手を触れたものです」

司教はうなだれて首を左右に振った。

「何ということだ……、真実なのですね?」

「はい」


「私はすぐにこのことを大陸同盟に知らせなければならなかった。 しかし、国内のルートは全てお兄様に抑えられていました。 逆に私が大陸同盟とコンタクトを取ろうとしていることを悟られてしまったのです。 すぐに城を出て、最も近くにある『教会』の支部――、ここを目指しました」

そして俺たちは偶然その道中でオフィーリアたちに出会った。

そういうことだろう。


司教は少しのあいだ黙って思案していた。

彼の中で頭脳が高速で働いているのが分かる。

左右非対称に顔を歪ませ、机の上の一点を凝視している。


「分かりました。 確かにこれは我々が動くべき事態だ。 不浄なる者は即、滅するべし。 すぐに大陸同盟に連絡を取ります。 後のことは全て我々にお任せください」


司教は席を立ち、部屋を去ろうとする。

「お待ちください」

クレアがそれを引き留めた

「最後にもう一つだけ――、アクトゥス教団というのをご存じですか?」


その瞬間、明らかに司教とペトラの表情が変わった。

空気が鉛のように重く変化したのを感じる。

魔族の話をした時以上の緊張が部屋を埋め尽くした。


「……どこでその名を?」

「暗殺者が口にしました。 雇われたのだと」

「なるほど……」


司教は何度か頷いて、そして慎重に言葉を選び答えた。

「アクトゥス教団というのは人間でありながら魔族を信奉する邪教の者たちです。 人間こそが滅ぶべき悪であると考えている。 我々の敵の一つだ。 しかし……、ふむ」


司教はオフィーリアのことを一瞥した。

その目の奥で何かが揺れている。

やがて何かを伝えようともう一度口を開いたが、言葉だけが行き場所を失っていた。


そして結局――、司教はそれ以上は何も言わずに部屋を出ていった。

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