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失われた意思(2)

「なぁ、クレアは騎士なのか?」と俺は尋ねてみた。

剣の訓練を終えて俺たちは休んでいた。


夜の空気は澄んでいて心地がいい。

辺りではさまざまな虫が一斉に品の良い音を奏でている。

その響きに己の全てを賭けているみたいに。

時折聞こえる気の抜けた鳥の鳴き声がそれを茶化した。


「元は騎士だった。 それからプリンセスガードになった。 常に王女のそばにいることを考えたら、女性なのは都合が良かったんだろう」


クレアは目をつぶった。

少しでも体力を温存したいのかもしれない。


「それからもう十年にもなる。 考えてみれば長い時間だ。 今では……、オフィーリア様を妹のように感じることさえある」

「妹を守るために戦っている」

クレアは首を横に振った。

分からないという意味だろう。


「可哀想なお方なのだ。 昔は兄君――、現王であるリチャード様とも仲睦まじかった。 大きくなったらお兄様のお嫁さんになると口癖のように仰っていたよ」

口元にほんの微かな笑みが浮かぶ。


「いつも笑顔の絶えない子供だった。 本来であれば、例えどんなことがあろうとリチャード様と敵対する意思などないんだ。 ……しかし、周りがそれを許さなかった」

「周り?」


「王への反対勢力には旗印が必要だった。 そして、それは王位継承権を持つオフィーリア様を置いて他になかった」

「勝手に担ぎ上げられたってことか」

クレアは目を開いて、伏し目がちに自分の手のひらを眺めた。


「彼女の意思はないも同然だった。 全てにおいてな。 もう数年間お二人は口も利いていない。 それが許される状況ではなくなってしまった」


俺は頭を左右に振って、ため息をついた。

「ずいぶん……、ひどい話みたいに聞こえるけどね」


もちろん王族のことなど俺には何も分からない。

しかし、今のオフィーリアの表情は色んなことを語っていた。

俺は子供の頃のオフィーリアの笑顔を頭の中で想像しようとしてみたが、上手くいかなかった。


「ああ。 しかし、ある部分においては……、それはやむを得ない事でもあった」

「やむを得ない?」


「つまり――、反対派の主張はおおむね正しかったのだ。 リチャード様は王になってから変わってしまわれた。 無礼を承知で言わせて頂くならば、乱心したと言っても過言ではない。 それほど政治は上手くいっていなかった」

クレアはそこで言葉を切って再び目を閉じた。

「国のために誰かが戦わねばならなかったのだ」


「でも、それはオフィーリアの意思じゃない」

「その通りだ」


クレアはうなだれてため息をついた。

「今のオフィーリア様を見ているのは苦しい。 そしてこの先……、もっと苦しいことになるかもしれん」

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