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プロローグの代わりに昔の話をしよう

「魔族と戦ったこともある。 仲間と力を合わせてな。 魔族は知っているか?」

「ううん」と俺は首を横に振った。


男は自分がどれだけ過酷な冒険をしてきたか、どんなに危険な魔獣を打ち倒してきたかを語った。

国家の危機、闇の組織との戦い、海を渡りはるか遠くの大陸を旅したこと。


その男は旅のハンターだった。


人々に害なす魔獣を退ける存在。

偶然この農地にたどり着き、居着いてからしばらくになる。


男は下働きの少年を見つけては武勇伝を語るので、子供たちからはちょっと嫌われていた。


たぶん本人はみんなを喜ばせたかったのだろう。

しかし、大人の自慢話が好きな子供はいない。


今日捕まったのは俺だ。


「それで……仲間は今どうしてるの?」と俺は聞いてみた。


本当に気になったわけではない。

あからさまに興味のない態度だと男を傷つけるかもしれないと思っただけだ。


男は少し考えてから答えた。

「それぞれの場所でそれぞれのやるべきことをやっている」




だいいち、冒険に憧れるには農地の子供たちは疲れすぎていた。

剣や魔法のことを考えている暇があったら働かなければならない。


麦を育てろ、牛の世話をしろ、畑を荒らす害獣を追い払え。

そして食事を摂って寝る。


昨日も、今日も、それだけの繰り返しだった。

たぶん明日もそうだろう。




「俺もハンターになれないかな」


それは質問というよりは独り言だった。

気が付いたらつい口をついて出たのだ。


「今に不満があるのか?」と男は聞いた。


俺は考えてみた。

首をかしげて答える。


「奴隷ってわけじゃないから、死んでしまうほどきつくはない。 少なくとも働いてさえいれば食事と寝床が手に入る」


それは親も金も持たない自分の身の上を考えれば、まずまず上出来な暮らしだった。

もっとひどい人生になっていてもおかしくなかったのだから。


「でも……」

「でも?」と男はすぐに先を促す。


真剣にこちらの話に興味を持っているようだった。


「ここは自分の居場所じゃないっていう気がするんだ。 うまく言えないけど。 寝る時にいつも思う。 俺は何でこんなところにいて、何でこんなことをしてるんだろうってね」


「なるほどな」


男は何度かうなずき、腕を組んで深く考え込んだ。

少しのあいだ俺たちはただ黙ってそれぞれの思いに沈んでいた。


「こいつをやるよ」


男はしばらく後にそう言った。

男が差し出したのは腰に下げていた使い古しの剣だった。


「お前はハンターになってもいいし、ならなくてもいい。 でもな、自分が何になるかは自分で決めていいんだってことは忘れるなよ」


俺は訳も分からないままにそれを受け取る。


「自分の素直な声に気付いてやれ。 それができるのは自分だけだ」


そして、その翌日に男はもう姿を消していた。

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