表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫デコ  作者: 守雨


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

304/313

304 『古城』を思いついたときのこと

大学時代とあるサークルに入っていて、私が3年の時、中途半端な時期に1年生が入ってきました。

サラサラロン毛の男の子で、2浪していたから年齢は私と同じ。

数学科と聞いてそれだけで圧倒されたのは、私が「さんすう」レベルでその科目を諦めたからです。


その飄々とした男の子はせっかく入った大学の授業をさぼりまくって雀荘に入り浸っていたそうで、私は(雀荘?)とますます異星人を見るような気持ちでその男の子を見ていました。

雀荘で大人を相手にしているだけあってすごい腕前だ、ということは一緒に卓を囲んだサークルの先輩から聞きました。


その男の子は楽器に触れるのは初めてということでしたが(私もそうだった)、私や同期の仲間を半年ほどで追い抜き、演奏会では前の方に席を与えられました。


親もその親も大学の教授をやっている家の子で、数学科で、マージャンが強くて楽器もあっという間に上達する人。

今思えば、彼は麻雀に熱中するのと同じ熱量でその楽器を練習していたんだと思うのですが、当時の私は「生まれも育ちも恵まれていて、いろんな才能があっていいなあ」としか思いませんでした。

外から見えることが全てではないことに、20代の私は思い至れませんでした。


当時私はなかなか楽器が上達せず、1日10時間練習する合宿は苦痛でしかなくて、卒業するときに(わー、やっと苦しまなくて済むわー)くらいに思っていました。

挫折感満載でその楽器を楽しめなくなって、大学卒業以来一度も愛用の楽器に触れることなく売り飛ばしました。


それから長い月日がすぎて、次に私が手にしたのはカリンバでした。

持ち方も知らない楽器です。

YouTubeを見ながら独学でカリンバの練習をしていたら、はるか昔に忘れたと思っていたその男の子の顔が、突然脳内に浮かび上がりました。

うりざね顔で演奏中に口を尖らせる癖まで鮮明に。


あの男の子は今、どんな仕事をしているのかなと想像することが今もあります。

数学の教授になってたりして? と楽しく思い出せる自分にホッとしています。

当時はその男の子と同席すると、強い犬の前で尻尾を股に挟む弱い犬みたいな気分でした。


忘れたと思っていた人の顔をちょっとしたきっかけでくっきりと思い出した経験から、「記憶を見る魔女」を主人公にした『古城で暮らす私たち』の話を思いつきました。

頑張ったけど魔法を習得できなかったニナ。

彼女の気持ちは、大学当時の私の気持ちです。


でも、ニナは師匠の家を逃げ出さず、修行を投げ出さなかったところが私とは違います。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
時々守雨さんの作品を読み返します。 強い女性、頑張る女性、弱い私、頑張れなかった私…… 背負って来た荷物を一旦下ろして読んて又背負って歩きだします。 書いてくださってありがとうございます。 (頭空っぽ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ