102 実家は
小説にはちょいちょい自分の経験したことを織り込んでいます。
紗枝さんが病院で桂木さんに会えないシーン、私は実母で経験しました。
コロナが来る前のこと。
免許証見せて、母の生年月日聞かれて、母の名前を書いたけど、実家の住所が言えずに苦労。
実家は私が結婚してから引っ越したから、住所がすぐに出てこないんだよね。
顔が母と似てるんだけど、それはもちろん無効。
弟から連絡もらって母からも死にそうな声で電話もらって、旅行先から駆けつけたのに、手術前の母は「別に来てくれとは言ってない」とか言う。じゃあなんで死にそうな声で電話したのさ、と思ったけと、理不尽なのが母だよと無言で耐える。
私、いい娘だったよ。救急車で運ばれた母のためにあれこれ買い揃えて2日も徹夜で看病したよ。
脳の手術の後は付き添い必須なのよ。今でも。
開頭手術後、せん妄状態になった母が暴れないようずっと起きてた。
2日も徹夜した私に、落ち着いた母は開口一番「私のことよりあの子(弟)の食事の面倒を見てあげて」と言う。
「あいつの飯の世話するために旅行を打ち切って駆けつけたんじゃないわ! コンビニもほか弁もあるでしょうよ」と病室で言い争いに。
ふふふ。
家族ってさ、遠慮がないから面倒よねえ。
そして母と弟の中では私はいまだに、頼めばなんでも文句言わずに引き受ける便利な長女らしい。
こっちも年取ってるんだからね、昔と同じじゃないんだからね、と何度も言ってるのだが。母が手術するたびに呼び出され、看病は私に任される。
実家は遠くにありて思うもの。
そして悲しくうたふもの
よしや
うらぶれて異土の乞食となるとても
帰るところにあるまじや
です!




