学校に行かなかったころのこと
たぶん、読むのしんどいと思います。
記憶の混乱はあるかもしれませんが、大体こんな事をいつも考えていたように思います。
体が重い、気分が晴れない。
そんな事にも気が付かないで、鏡にうつる自分の顔が無表情であることだけは気が付いていた。
本当は鏡なんて見たくない。
お風呂場の横にある小さな鏡に、毎回毎回気が付かされる。
見なきゃいいけど、見なくても気が付く、ブッサイクな面が映ってる。
今日も学校に行かなくちゃいけない。
行かなくちゃいけない。
行かなくちゃ。
学生服は型にはめたようにして作ってある。
学生服を着るけれど、暑くて、固くて、重いんだ。
カバンも重いし、持ちにくい。
学校までは歩いて行くけれどもとっても遠い。
『ねえ、学校行きたくない』
そんな話は通らない。
『学校には行くものだ』
そんな事分かってる。
学校は行くものだ。
仕方ないから、家を出る。
学校に着くと、少し遅れ気味だった。
各学年9~10クラスもある。
先生も沢山だ、何人もの先生に怒られる。
『遅い! 早く来なさい』
『なにやってるんだ』
『早く並びなさい』
一回でよくない?
良くないんだろうな、学校に行きたくないなんて言う自分は。
良くないんだろうな。
授業も分かんない、二乗とマイナスの数とプラスの数。
あ、なるほど!
『こいつ分かんないんだって、バカじゃね?』
今、分かったんだけどなぁ……
算数好きだったのに、数学ってバカにされるの?
すぐ分からなかった自分が悪いんだな。
◇◇◇◇◇
今日は絶対行かない。
無理矢理でも学校を休んだ。
学校は行かなくちゃいけないのにも関わらず。
なんて酷い事をしてるんだろう。
なんで、自分は行けないんだろう。
やらなくちゃ行けない事も出来ないなんて。
『辛い事があっても学校には行くものだ』
『そうそう、行かなくちゃいけないの』
悪い事をしているのは自分なんだろうな。
なぜか、手にささくれが出来てる。
最近、よくできるように思う。
『ささくれは、親不孝をしてると出来るんだよ』
そうか、学校に行かない自分は、親不孝な事をしているんだ。
親を不幸にさせてる悪い奴。
学校に行かない悪い奴。
それが自分だ、それは嫌。
明日は行かなくちゃいけない。
悪い奴は良くない、良い人間にならなくちゃ。
明日は学校に行かなくちゃいけない。
勉強が分からなくても。
先生に怒られても。
誰かにバカにされても。
◇◇◇◇◇
『いいから行きなさい!』
怒鳴られて、怒鳴られて
無理矢理着替えさせられた。
しょうがない。
水の中を歩いているみたいに、体が重い。
疲れたという感じだけど、一歩目から疲れてるなんて。
『学校に行かないから、体も重くなる』
そうだよな、学校に行かないから体も重い。
アスパラガスが花壇に植わっているのが見えた。
昨日より、ちょっと大きくなってる。
なんとか学校についた。
教室はどこだっけ。
『職員室にきなさい』
呼び出し?
入った瞬間怒られた。
『ノックが聞こえない』
『失礼しますと言いましょう』
『敬語が正しくありません』
ごめんな……
『すみませんでした、です』
すみませんでした。
多分自分が悪いんだ。
いや、多分じゃないな。自分が悪い。
ちゃんとできない自分が悪い。
『ずるやすみは終わったか~』
すみません。
ずる休みして、すみません。
すみません。
すみません。
ちゃんとできなくてすみません。
◇◇◇◇◇
『いいから! 行きなさい!』
行きたくないと言っても通じない。
ごめんなさ……
すみません、学校に行きたくないなんて思ってしまって
考えてしまって、すみません。
水の中を歩くのも慣れて来た。
アスパラガスが大きくなっている。
へー、あんなふうに育つんだ。
もう、アスパラと言われても分からない。
『こんな時間! 君はまた遅刻か!』
すみませんでした。
『悪い癖だ! 直しなさい!』
すみません。
『○○は××になるから、この線は△△になります』
『予習と復習はやっておきましょう』
『もちろん宿題も忘れないように』
もう何言ってるか分からない。
予習も復習もしていなくてすみません。
頭が悪くてすみません。
学校にこれなくてすみません。
今日も水の中を歩いてく。
アスパラガスは根元から切られてた。
こんな事でショックをうけててすみません。
弱い心ですみません。
◇◇◇◇◇
今日も水の中を歩いてく。
『嘘をつくな』
すみません、空気の中です。
水なんてありません。
嘘をついてすみません。
この横断歩道を越えれば学校だ。
あれ? 足が出ない?
信号はないけど、右も左も車はいない。
簡単にわたれるはず。
渡れない。
壁があるみたい。
『嘘をつくな』
すみません、壁なんてありません。
壁があるみたいに進めないんです。
『学校に行きなさい』
だって進めないんだ。
仕方ないから、振り向いて歩く。
ほら、こっちには行けた。
家が見えて来た。
門を通って……
あれ? 通れない?
また壁がある。
『学校に行きなさい』
そうだよな、学校に行かないから
学校に行かないから、通れないんだ。
また、学校まで歩く。
横断歩道まで来る。
やっぱり壁がある。
『嘘をつくな』
すみません、壁なんてありません。
壁があるみたいに進めないんです。
『学校に行かないなら、いらないな』
『いらないな』
『いらないな』
多分、自分はいらない人間です。
進めなくてすみません。
学校に行けなくてすみません。
『行かなくてだろ!』
『世の中には学校に行きたくても行けない子もいるんだ』
すみません
学校に行かなくてすみません。
◇◇◇◇◇
『君、何してるの? 学生服?』
すみません。
なんでもありません。
走って学校へ行くけれど
やっぱり横断歩道で足が止まる。
家の前でも足がとまる。
けど、家に帰る。
叩き出されるかもしれない。
初めて殴られるかもしれない。
むしろ、怒って刺されるかもしれない。
学校に行くくらいなら。
殴られたり、刺されたりしたほうがいい。
たぶんいらない人間だから。
それで死んでも、学校に行くよりはいい。
家に入る。
『おかえり』
普通だった。
学校に通報があったらしい。
多分声かけてきた人からだ。
学校に行かない自分。
そりゃあ、通報ぐらいされる。
だって、悪い奴だもん。
通報されるよりはいいのかな。
学校休めるようになった。
悪い自分ですみません。
◇◇◇◇◇
『学校に行かないなら、世の役立たない』
役立たずでいいです。
学校に行きたくないです。
『ろくな大人にならない』
『こいつはダメなやつだ』
それでいいです。
学校に行きたくないです。
『大馬鹿になる』
『犯罪者になる』
それでいいです。
学校に行きたくないです。
死んだ方がいいんだろうけど。
自分で死ねる勇気もありません。
臆病ですみません。
だれか、お願いします。
学校に行くか、俺に刺されるか選べって
聞いてください。
すぐに刺される方を選びますから。
学校に行きたくないです。
学校に行きたくないです。
行けなくてすみません。
勉強できなくてすみません。
みんなと一緒にできなくてすみません。
すみません。
すみません。
すみません。
死ぬ勇気なんて、なくてよかったと心底思います。
死ぬのは勇気ではありません。
絶望と絶望を天秤にかけて、死ぬ方がましと思ってしまった結果です。
ピーターは現在、福祉関係の国家資格を2つ持って仕事してます。
死ぬ方がまし、と思わず生きていたから今があります。
もちろん、賄賂や虐待で訴えられた事もありません。
今も健全に仕事をしています。
国家資格をとったんだから、バカじゃない。
仕事も続けているから、ろくでもない大人になってない。
一応証明できてると思ってます。