84.魔法を斬ってみました
今朝の出発から手元の携帯端末の時計で3時間後。
俺たちは再び王都上空に来ていた。昼近い時間帯で大通りは人も多く、姿を現したドラゴンを立ち止まって見上げているのは道行く人の過半数だ。
王城へ続く大通りは、ドラゴンを見つけて追いかけてきた人たちで段々と人口密度が増していく。冒険者の武装姿が多く目に付いた。未知の魔物と判断して警戒しているのか、ドラゴンスレイヤーを狙っているのか。ドラさんも狙われているのが分かっているようで、一定の高さから高度を落とさない。
王城前広場は詰めかけた騎士でいっぱいだった。これではドラさんが降りられないし、ヘカトンケイルの頭を落とすと人を潰しそうだ。
広場を埋める騎士たちが場所を空ける気配もないので、携帯端末でリダイヤルをかけた。
『おぉ、リツよ。よくぞ戻った! 何かぶら下げておるようだが、それが討伐したという魔物か?』
通信に出たのは陛下だった。まさかと思うが、この端末番号は陛下の個人携帯なんだろうか。
広場のほぼ中央で周りを騎士に囲まれてこちらを見上げる陛下が耳に携帯端末を当てているのが見えて、俺もドラさんの上から手を振った。
「ただいま戻りました。広場に着陸したいのですが、場所を空けていただけませんか。羽ばたきで強い風が起こる可能性もありますので、広場全体を無人にしていただけると助かります」
『確かにそうであるな。気が利かず済まなんだ。ドラゴン殿。人払いさせるゆえしばし待たれよ』
それから、通信を切断して周りを取り囲む騎士に指示を出したようで、ザッと人がいなくなった。広場を囲む壁の各入り口が騎士たちによって固められているのが見える。
そうして広く空いた石畳の広場に、ドラさんはゆっくり降りた。まずはヘカトンケイルの頭を広場の角の方に下ろし、俺が肩の方から腕伝いに滑り降りるのを待って、上空へ戻っていく。胴体を出す場所を空けるためで、そのように打ち合わせしてあったからだ。
ポケットに手を突っ込んでカプセルの魔石に指が触れた瞬間だった。
ゾクリと悪寒を感じ、身体が反射的に腰の刀を抜きながら半回転し、何かを斬り払う。俺を中心に左右後方で、爆発が起きた。爆風に背中を押されて地面に伏せる。
グワアッという鋭い怪獣の咆哮が聞こえて顔を向けると、ドラさんが王城側の広場を囲む城壁に襲いかかるところだった。
「ドラさん待って!!」
その一瞬、空気が静まっていた。俺の声がよく通って、ドラさんが城壁の一部を崩しながら着地し腕を振り下ろしかけた姿勢で止まってくれる。
ドラさんが着地した衝撃で崩れた城壁の一部が地面に落ちて、ズンと鈍い音を立てた。
ドラさんの鋭い前腕の爪の先にいたのは、魔術師っぽい暗色のローブを着込んだ初老の男だった。目の前に迫ったドラゴンの爪に、男はその場でへたり込んだ。
「騎士隊! 確保せよ!!」
号令一喝。ワッと集まって抑え込まれ、あっという間に縄がかけられる。
それは案の定、俺をこの世界に誘拐した教授のおっさんだった。どうやら、広場にひとりになった俺をおっさんの魔法が襲った、ということのようだ。自分の反射神経に感謝だな。爆発がヘカトンケイルの頭まで燃やさなくて良かった、というべきか。
城壁上に後からゆったり現れた国王陛下は、元々城壁上で警戒に当たっていた騎士隊の責任者らしい人物に報告を受け、頷いて手をパタパタと振った。まるで野良犬を追い払うような仕草だった。陛下の下知を受けて、縄で縛られた状態でおっさんが連行されていく。広場を挟んで反対側にいた俺からは、それ以上の様子は窺えなかった。
まぁ、犯人も捕まったことだし、やること片付けてさっさと退散しますかね。
改めて、ポケットからカプセルの魔石を取り出し、魔素を流してポイと地面に放り投げる。
山の斜面にあった時でも巨体だったヘカトンケイルの胴体は、広いとはいえ壁に囲まれた限られた空間の中ではさらに巨大に感じられた。広場を囲む城壁の上といくつかの入り口に待機していた騎士を始めとする人々からどよめきが走る。
携帯端末が着信音を鳴らし、通信の向こうから興奮した様子の陛下の声が届いた。
『なんと巨大な魔物であるか! このような怪物をそなたが倒したと!?』
「ドラゴンの協力があってこそです」
『その協力を得られたのもそなたが頼んでくれたおかげであろう。よくやってくれた。改めて礼を申す』
「御言葉に感謝します。これなんですが、買い取っていただけますか?」
『うむ! 勿論である! 是非とも売ってもらいたい!!』
剥製にでもして、魔物の脅威が去ったことの公示と合わせて一般公開したい、だそうだ。
お買い上げありがとうございます。




