30.古代語なんてありません
週末。友人たちは冒険者として仕事に行ってしまったし、ひとりでは暇なので図書館に行くことにした。
図書館には、文学書から専門書から超古代文明遺跡から発掘された書物の複写物まで、学生が必要とする書物が揃っていた。さすが大学院まで共有の図書館だ。
なので、俺が向かうのは超古代文明の、現代人たちは読めない古代語で書かれた書物のエリアだ。
読めないものなので内容で整理されていたりはしない。そのため、手に取れる資料を片っ端から目を通していくしかない。
複写物も書籍で発掘されたものは書籍の形で複写されていて、一般書架と見た目は変わらない。俺には背表紙もちゃんと読めるので、その並び順が本当にてんでバラバラで、並び換えたい衝動に駆られるのを必死で抑える始末だ。
複写物の中で書籍化されていないものはとりあえず後回しとして、背表紙から地理に関係ありそうな本を抜き出していく。とりあえず、5冊ほど。
ちなみに、この世界には当然コピー機がある。しかもカラーコピー機だ。なので、複写物書籍も本物とあまり変わらない程度に丸写しでできている。違うのは使われている紙の種類と装丁くらいだろう。たとえば、ハードカバーだったらしき本がソフトカバーで複製されている、みたいな。
で。適当に抜いてきたその内の1冊が、なんとありがたいことに旅行ガイドブックだった。しかも、たぶん国外旅行ガイド。初めての国外旅行者向けに簡単な行政手続きの仕方が案内されていたり、目的地が世界地図中のどこに位置しているのかを図示されていたりするのだ。
つまり、この世界地図に現代地図を照らし合わせると、過去の住所を現代の住所に置きかえられる。
俺が今探しているのは、ガレ氏が発見したというリョー兄ちゃんの研究所だ。当時動いていたとされる状態保存の魔法陣を動かす魔道具がまだ生きていれば、そこに変わらず残っている可能性がある。
元々の俺が召喚されるはずだった目的地には、リョー兄ちゃんが持ち帰っていた日本語で書かれた資料がたくさん残っているはずなのだ。となれば、そこへ行くことを俺のさしあたっての人生の目標にしたい。
ガレ氏が書き残した研究所の住所は、国名から始まってはいなかった。残念ながら、このガイドブックには代表的な大国の国名までしか記載がないので、とっかかりがない。
地球でも、合衆国やロシア、中国とかの面積の広い大国は国名まで書かれていても、日本の国名は省略されると思う。日本語の本なら日本の国名も書かれるかも知れないが、海外本なら間違いなく東端の島国なんて省略対象だ。地図から見切れていても不思議に思わない。
なので、近い地域の小国の案内本が欲しい。該当国ならなお良し。
まぁ、それはともかく。
せっかく出した本を読んでみることにする。
これは、ガイドブックの発行国との物価格差だったり、大まかな国の歴史だったりまで網羅した、保存版的なガイドブック構成になっている本だった。後半は国内各地の見どころ紹介で、田舎に行くと訛りが強くなるのか、地名に表音文字が出てくるようになった。
その表音文字を読んでいて、あれ、と思う。
この文字、現代語と同じじゃないだろうか。
古代語の表音文字は折り返しが多いクネクネした文字になっていて、現代語の画数の少ない文字と比べると複雑に見えるが。これを書き崩すと、現代語になりそう。
つまり、あれか。字体が違うのか。
日本でも、江戸時代以前の人の手紙なんかは専門家でないと読めなかったりするが、あれだって漢字仮名まじりの日本語だ。
昔の文字を草書とすれば、現代語は楷書といえる。同じ言葉なんだ。
そうだよなぁ。リョー兄ちゃんから魔法陣を教わった時も、陣内に配置される文字は全て表意文字だったしな。さっぱり気付いてなかったけど。日本語と文字言語体系は同じなのか。
てことは、話し言葉は実は同じだったりしないだろうか。
これ、現代人に翻訳魔法陣、効くのかな。
不安になってきた。




