1.実験のため誘拐されました
カクヨムで完結済みの自作品を持ってきました。
ページ文字数少なめです。
そのため、1日複数話分散更新します。
しおり利用の際は話数にご注意ください。
「お! おお! 成功だ!!」
朝の通学途中、いつものサイクリングロードを軽快に走っていたはずなのに突然自転車ごと暗闇に投げ出されてひっくり返った俺の耳に、入ってきた言葉がこれだった。
ちょっと待ってくれ。色々混乱してるから、落ち着かせてくれ。
確か、前輪がいきなり下がって後輪が持ち上がった気がするから、もしかしたら前転一周したんだろうか。尻から頭までアチコチ痛いのは、地面に打ち付けられたせいだろう。すぐそこに愛車も転がっている。むしろ俺の上に落ちてこなくて助かった。ラッキー。打ち身はありそうだが出血はない。
で、周りを改めて見回すと、うちの学校の柔道場と同じくらいの広さのある室内らしい。床には円だの三角だのを組み合わせた模様があって、模様の外側では白衣を羽織ったオッサンが床に這いつくばって、分厚い本を横にしてめくりながら別の冊子に何やらせっせと書き込んでいる。
で、自分の現状を把握できたところで、室外から複数人の足音が近づいてきた。ノックもそこそこにバタンと扉が開かれて、そこに観音開きのドアがあったらしいと認識した。
入ってきたのは、そこに這いつくばっているオッサンと前後10歳程度のオッサンたち3人。
「マデラ教授! たった今こちらで規定外量の魔力放出を検知しましたが心当たりはあられますな!?」
「なんじゃ、なんじゃ、いきなり大勢で押しかけおって。大事な実験結果の解析中じゃ、後にせい」
「後にできませんよ、今すぐご説明を!」
ふむ。何やら揉め事のようだ。状況から察するに、そこの這いつくばったオッサンが何か問題をやらかして、施設の責任者あたりが飛んできたというところだろうか。
やらかした問題、俺がここにいるこの現象、だよな。多分。
状況把握したら落ち着いたので、とりあえずひっくり返った身体をえっちらおっちら起こしてみた。打ちつけた背中と頭が痛ぇ。尻の痛みはだいぶ引いてきた。頭はちょっと怖いな。脳内出血とか無きゃ良いが。
手足は問題なく動くので、起きたついでに自転車の側へ四つん這いで移動。現在地が見も知らないこの状況、私物は確保しておきたい。
俺が動いたことで後から侵入してきた人たちの意識がこっちに向いた。
3人がそれぞれに怪訝そうな動作をした。
「……キミは何者だ?」
うん、ですよね。見るからに文化圏が違う服装容姿で、そこのオッサンの共犯者にも見えなかっただろう。
返答待ち顔の人数が1人増えたのは納得いかないんだが。
「状況と今まで聞いた言葉から察するところ、そこのオッサンの実験の犠牲者? です。たぶん」
「犠牲者とはなにごとか! 超古代文明検証の貴重な実験結果である!!」
「実験の結果、誘拐されたんだと思うんだけどな、俺」
何ということを!てな感じに、悪びれないオッサン以外3人がますます大騒ぎだ。
騒ぐのも良いんだけど、ひとまず落ち着かせてもらえないだろうか。あと、打ち身の手当てもお願いしたいです。