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第34話 ミューズの初陣

 馬車から出て前方を見据える。

 そこには緑色の小さな体をしたモンスター、ゴブリンが十匹ほどウロウロしていた。


「で、何がしたいんだ?」


 俺の隣に立つミューズはのんきな顔で話し出す。


「はい。私、普通に魔術を使おうとしたら力が暴走しちゃってダメなんですけど……でもこの間、フェイトさんの戦いを見てピーンってきちゃったんです」


「何に対してピーンってきたんだよ?」


「あのほら、大きな剣を投げつけたやつです」


「ああ……」


 『飛翔する大剣ツーハンデット・スロー』のことだな。

 しかしあれに対して何を感じたんだ、ミューズは。

 あれと魔術なんて……どうしたって結びつかないんだけど。


「私あれを見て思ったんです。魔術を直接しようするのは無理だけど、『投げつける』なら使えるかもって!」


「…………」


 キラキラした目で語るミューズ。

 俺は顔面蒼白となっていた。


 理屈も何も無い。

 ただ使えるかも!

 って、不安しかないんだけど。


 だがミューズはそんな俺の気持ちとは裏腹に、興奮した様子で続ける。


「ですから、何か投げる武器があればそれに魔力を込めて……ね、できるような気がしませんか?」


「まったくそんな気はしません。被害を被る気しかしません」


「き、きっと大丈夫ですよ! 私、これでも直感は優れてるほうですので!」


 彼女はやる気だった。

 俺も覚悟は決めたんだ。

 付き合ってやる覚悟を。


 俺は震える手で【空間収納】を開き、『ブーメラン』を取り出す。

 予備で購入しておいた物だったが……まさかこんな形で使用することになるとは。

 過去の自分がここまで憎いとは思ったことがない。


 『ブーメラン』を手にしたミューズはペンダントを外し、それに魔力を込めだした。

  

 警戒する俺は、ミューズから少し距離を取る。

 怯える俺であったが……意外と魔力のコントロールができているようだった。


「あれ……? 爆発しない?」


「みたいですね! 物に魔力を込めるなんて初めてでしたけど……でもやっぱりいけそうです――」


 そう思った矢先のこと。

 魔力は軽い暴走を起こす。

 周囲に稲妻が走り、温度が上昇していく。


 もう逃げられないと俺は早速自分の覚悟に後悔するが……

 しかし、『ブーメラン』が壊れるだけで爆発を起こすことなく無事にすんだ。


「ば、爆発しなかったみたいだな……」


「うーん……」


「なんで納得いっていないの!? 爆発した方が良かったんですか!? そんな破壊的思考の持ち主なんですかぁ!?」


「いえ、そうじゃなくて、イメージ通りにいかなかったなって……」


 どうやら暴走するようなイメージではないようで……

 『ブーメラン』を失った手を見下ろし、ミューズは難しい顔で思案中。


「うーん……もっとこう、投擲武器じゃなくて自分に合った武器なら……あ」


 閃いた!

 ミューズはそんな顔をして、一本の包丁を取り出す。

 それは今朝、俺に見せてくれた包丁で、彼女はそれを持ったまま俺の方を見た。


「これを投擲できれば、もしかしたら上手くいくかもです!」


「包丁を投擲ね……」


 俺は一度ため息をつき、そして再度『ブーメラン』を用意する。

 どれだけ用意してるんだよと自分で思いつつも、それと彼女の包丁を【融合】してあげた。


「これで投げられると思う。とりかえず、ミューズの気が済むまでやってみなよ」


「ありがとうございます! では!」


 ミューズは深呼吸し、包丁を握る手に力を込める。

 魔力が高まっていく。

 その膨大な魔力に、こちらを見ていた御者が怯え始める。

 俺も彼と同じで内心はビクビクしていた。

 だがそんなことは表に出さない。

 ただ整然として彼女の横に立つのみ。


「できました……イメージ通りにできましたよ、フェイトさん!」


 包丁に集中した魔力を暴走させることなく、ミューズは完璧に操作していた。


「すごい……本当にできたな!」


「はい! 後はこれを投げつけるだけです」

 

 俺と御者はゴクリと息を呑み、ミューズの投擲を見届ける。


「【アクアボール――スロー】!」


 ミューズの魔力は水属性へと変化し、ゴブリンの集団に向かって投げつけられる。

 まさにブーメランの如く軌道で包丁は飛ぶ。

 包丁を包む水は刃となり、端のゴブリンから順番に切り裂いていく。

 計十匹のゴブリンはその一撃で壊滅し、彼女の手に包丁が戻ってくる。


「……やりました! 完全に操作できました!」


「やったな! これなら十分戦力になるし、安心だ!」


 ミューズは興奮しピョンピョン飛び跳ねている。

 そして笑顔のまま、何故か俺の胸に飛び込んできた。

 

 彼女の柔らかさと甘い香りに胸をドキンとさせる俺。

 だがしかし、次の瞬間には胸の高鳴りが別のものへとシフトする。


「……ミューズ?」


「あ……あはは……勢いでフェイトさんの胸に飛び込んじゃいました……私……私……なんて恥ずかしいことを!」


 真っ赤に顔を染めるミューズ。

 そして彼女の魔力も赤く輝く。


 巻き起こる大爆発。

 またしても彼女の魔力は暴走をしてしまった。

 

 完全に操作できたんじゃなかったのかよ……

 俺は爆発に巻き込まれながら、ミューズはまだ魔力をコントロールできていないことを悟るのであった。

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