第10話 二つの頭を持つドラゴン①
相手はこちらに気づいているが、それでもひるむことなく突き進むセリス。
真っ直ぐに、ただ直進する。愚直なまでに。
ドラゴンの二つある顔はセリスの方を向いている。
ゴウッと吐き出される炎。
それが二つ同時に彼女に襲いかかる。
セリスはその炎をギリギリのところで回避してみせ、相手の側面に回り込んだ。
「これまでなら攻撃を耐えていたところだが、フェイトのおかげで避けることができた」
なんと無謀な戦闘スタイル。
俺が【付与】してなかったら、今の一撃で死んでたかもな。
だが彼女の鎧はあれぐらいの炎なら弾き返してしまうのでないだろうか。
そう思えるぐらいには頑丈そうに見える。
と言うか頑丈にしか見えない。
敵の右前足に切りかかるセリス。
が、彼女の斬撃は相手の硬い鱗を裂くことはできない。
ガキンッという鈍い音と共に剣が跳ねる。
「硬いな……フェイト。攻撃はお前に任せる」
「おお! 任された!」
任されたからには任せておいてもらおう。
ドラゴンはセリスに気を取られているらしく、俺の方は見ていない。
この隙にやってやる。
俺は『爆発する剣』を握り、セリスとは逆方向に回り込む。
が、ドラゴンが突然、旋回を始める。
「何っ!?」
尾撃。
巨大な尻尾を振り回し、セリスを襲うドラゴン。
そうなると俺はドラゴンの正面に立つ形となる。
あ、意外と見られてたんだな、俺。
「セリス、大丈夫か?」
「ああ……問題ない」
壁に打ち付けれたようだが、意識を保っているセリス。
ただ尻尾を振り回しただけであの威力……攻撃力も侮れないな。
セリスの方に視線を向けている俺に対し、ドラゴンが炎をまき散らす。
灼熱の炎を俺は避けてみせるが、頭上から降りかかる炎は目にするだけで背筋がゾッとする。
当たったら痛いじゃ済まないな……
火傷ってヒリヒリ痛みが残るから嫌なんだよな。
痛いで済むかどうか分からないが、とにかく当たらないように気を付けよう。
ドラゴンの動きは鈍くない。
その巨体からは信じられないような速度で動く動く。
「おっと!」
左の爪で俺を切り裂こうとし、接近するセリスを尻尾で威嚇。
こちらに攻撃が来ると思ったら、次はセリスに炎を吐き出す。
そのついでに俺を尻尾で薙ぎ払おうとする。
「早い……接近する隙がないな」
「だな。なら、接近する隙を作るか!」
俺は『爆発する剣』をセリスの方に放り投げ、ドラゴンの尻尾に蹴りを入れる。
「ゴァアアア!」
痛みを感じたのか、ドラゴンがこちらに振り向く。
「あ、攻撃は任せてもらったけど、やっぱりそっちで頼むな」
「臨機応変というやつだな。なら、次は私に任せてもらおう」
出来る限り敵の注意をこちらに向ける。
『爆発する剣』を【複製】し、敵の炎に合わせて全力で振るう。
爆ぜる炎と剣。
俺と敵の眼前で爆発が起こり、ドラゴンはその熱波に顔を逸らす。
俺も俺とて吹き飛ばされてしまうが――しかし隙はできた。
「おおおおお!」
セリスがドラゴンの腹部に『爆発する剣』を突き刺す。
赤い輝きを放つ剣。
ドラゴンはその痛みに悲鳴をあげる。
「やったか!?」
「……いや、あまり効果がないようだ」
『爆発する剣』の直撃を受けたドラゴン。
だがセリスは剣を刺した部分を見て、一瞬硬直する。
爆発したかに見えたドラゴンの肉体は、皮膚を少し剥がしただけで終わっていたようだ。
あ、さっきの悲鳴じゃなくて怒りの咆哮だったのか。
ドラゴンは攻撃を仕掛けたセリスの方に振り返りながら爪を振るう。
「くっ!」
敵の爪を剣で受け止めるセリス。
だがその威力はすさまじく、また激しく吹き飛ばされてしまう。
頑丈な鎧のおかげか、セリスは再び起き上がる。
だが少しダメージを負ったのか、腹を押さえながら走っていた。
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃないと言えば、戦わずに済むか?」
「済みそうにないな」
「ならば、大丈夫と言っておくよ」
俺とセリスはドラゴンの周りを駆け巡る。
相手に正面を取られないように、相手の側面を取るように、位置関係で優位に立とう動き回る。
「ゴァアアアア!!」
ドラゴンは走り回る俺たちにしびれを切らしたのか、セリスに向かって突進を開始した。
だがそんな隙を見せてもいいのかい?
俺だっているんだぞ。
「これでどうだ!」
ドラゴンの左後ろ脚に剣を突き立てる。
が、効果は薄い。
やはり相手の鱗を若干剥がすだけに終わってしまう。
どれだけ硬いんだよ、こいつ。
いや、剣の方が弱いのか……?
火力はそこそこあるが、元は『鉄の剣』。
ドラゴンの鱗を切り裂くには少々力不足。
こんなのと戦う時は、伝説級の武器で挑むのがベターのはず。
こんな安売りしてた剣で戦おうとしてる方がおかしいのだ。
となれば伝説級とまではいかないが、それなりの装備を用意しないと。
「セリス! 少しだけ時間を稼いでくれ!」
「分かった! だが急いでくれよ!」
「ああ。セリスが死ぬ前にはなんとかする!」
「ふっ……頼りにしてるよ」
信頼と焦りが入り混じったような声。
彼女をガッカリさせるわけにはいかない。
あいつに勝てるだけの武器をすぐに用意するんだ。
俺は緊張しつつも胸を高揚させながら【収納空間】を開く。




