鹿しかいない
「人が誰もいないよ」
僕は、つぶやいていた。
「人気ないのかな」
そう、ぼそっと出た。
有名な観光地ではある。
まあまあ、認知されてる場所だ。
「それにしても、鹿が多いな」
それが特徴だけど。
鹿も観光客がいないと、寂しいと思っているだろう。
こうなったのも、ある事件のせいだ。
ここ一ヶ月で、不審火が10件以上も起こっている。
しかも、一日に何件も。
ずっと、しかめっ面で練り歩いている、足が細いヤンキ一。
その人物が、容疑者に入っているみたいだ。
でも僕は、知っている。
鹿たちが車に轢かれないように、いつも誘導してくれていることを。
「いつも感謝してる」
鹿である僕は、ヤンキーにいつも、そうお礼を言っている。