4 冒険者総合組合と登録
※この物語は不定期投稿です。
今回は説明回となります。
「それでライムは町の外に行くのだろう?」
早朝。ゲーム内時間で2日目の7時ほど。
朝早くに目覚めたライムはライコフと食事を共にしていた。
「んー、まぁ昨日行けなかったし、外には行っておきたいかな」
「ふむ、町の外か」
丸一日を町探索に費やしたため、今日は外に出て思い切り戦いたいというのがライムの思いであった。
ライムの言葉にライコフは何処か悩んでいるような顔で食器を片付ける。
「ならば冒険者組合に寄った方がいい」
「冒険者組合ねぇ」
「うむ、異邦人はその腕輪が身分証にはなってるが一応組合に登録すると貰える組合証も持っていた方がいい。それに組合に入れば様々な特典がある」
「特典?」
「身分証としては勿論のこと、狩った獲物の買取や解体。依頼を受けて金銭を稼ぐことも出来るし、一部店舗で割引も行える」
メリットしかない話だった。どうやら組合に入っていないと例え魔物の素材を売ろうとしても買い叩かれることが多いが組合ならば正規の値段で買い取ってくれるため狩人などは入ることを推奨されているらしい。
ライコフはただと言葉を続ける。
「問題なのが異邦人が信用されていないことだ」
「信用されていない?」
「うむ、主神様がこの世界をより発展させる為に招いたこの世界とは異なる世界から来訪した者たち。それが私たちの認識だがいくら主神様が仰った所で今は盲信する時代は終わり人々は自分の足で立とうとしている時代だ。信用するのは難しい」
(なるほどね。その主神様は確かに敬い信じられているのだろうけど言わば今は時代の転換期。神という補助輪から人が抜け出し己の足で歩こうとしている時期、だから段々と人々も神の言葉を全て呑み込まず自分で考えるようになっている、と)
つまりは幾ら神が言ったところで信じない奴は信じないから自分で信用を勝ち取れということだ。
ライコフが言うには紹介状はその町で信用に足ると認識された者が異邦人に渡すことができる。またこの町、エイネルではほぼ全ての住人がその権利を持っているのだとか。
「まぁ長々と話したが私はこれを君に託す」
ライコフが手渡してきたのは冒険者総合組合紹介状と書かれたもので『異邦人(以下甲という)』などという堅苦しい文章が書かれた下にライムとライコフの名前が記入されていた。
これはもしもこの者がトラブルを起こした場合、入会届を渡した人間から権利を剥奪することが出来るようにとのこと。
「いいのかい?」
「うむ、もちろんだとも。君の行動を見ていて私は信用に足る人物だと判断した。だからライムには私の信用を裏切らないでくれよ?」
「ま、もちろん。ここまでしてもらって裏切るなんてボクには無理だからね」
精々頑張らせてもらうよと締め括り、ライムは席を立ちライコフに別れを告げた。
◇──────◇
職人町を抜けるとマップを確認しつつ大通りに出る。たまに馬車が走っていく為、左側に沿って歩く。
この町のメインストリートだけあり、人々は慌ただしくも熱気溢れており、騒がしくもあったがライムはそう言った雰囲気が好きなようで自然と頬が上がっていた。
(こっちは宿屋が多いな。人が行き交う場所だからかな)
また宿屋に混じるよう大型の店舗もあり、交通量が多いのはこう言った大型店舗がある利便性からだと分かる。
最近長時間に渡ってTRP:Cを遊んでいた弊害なのか、もしあそこに忍び込むならばあのルートを通れば人目につかないと考えていた自分を叱咤しながらも何故かこっそりと歩を進める。
暫く歩くと大きめな石造りの建物が連なるその一番大きな建物前で足を止めた。扉の上には冒険者総合組合という看板が掛かっている。
看板を確認したライムは扉に手を伸ばした時、嫌な予感がしたライムは全力で扉から遠のく。
扉が勢いよく開き、赤髪の豪華な鎧を着た少年が投げ飛ばされたかのように尻餅をつく。
扉の向こうからは軽装の冒険者が歩いてくると少年は慌てて何処かへ逃げていった。
「全く」
呆れたように声を漏らす冒険者は茫然と佇むライムに気が付いたのか目を丸くして「す、すまん。怪我は無かったか?」と尋ねてくる。
「あ、あぁうん。大丈夫」
「本当にすまなかった」
組合に入ると冒険者ことエクルドがさっきの出来事を説明してくれた。
どうにもあの少年は無理矢理組合に登録しようとして受付の人に暴言や暴力を振るおうとし、怒ったエクルドの手によって投げ飛ばされたのだとか。
「なんともまぁ」
馬鹿げた話である。ライムは早めに着かなくてよかったと面倒事を避けられたことに感謝しながら組合を見渡す。
組合内部は整然としており、受付が横一列に並び、中央にある太い柱には掲示板のようなものが付いていた。
また右手側は軽いカフェスペースとなり、冒険者たちが仲良く話し合って寛いでいた。
逆の左手側は全面ガラス張りとなっており、訓練場らしき場所に続いている。
区役所を彷彿させる雰囲気がある癖に思ったよりも窮屈ではなさそうだとライムは認識を改めた。
「そんじゃ、俺はさっきのこと報告しにいくから。おっと、冒険者登録すんなら3番の受付だぞ」
「あぁ、ありがとう」
「気にすんな、じゃ」
受付の人に怒られているエクルドの姿を見送ったライムは彼の言う通り3番の受付に行く。
しっかりと『新規登録受付』とカウンターに書かれていることを確認してちらっと横を見ると別の内容が書かれていた。
受付毎に内容が違うというとか、やっぱ区役所じゃねぇかとライムは考えを戻し、受付に話し掛ける。
「冒険者登録をしたいんだけど大丈夫かな」
「はい、大丈夫ですよ。新規登録でよろしいですか?」
「は、はい」
笑顔で対応する受付は端正な顔立ちを持つ女性で透き通った水色の髪をポニーテールで纏めている。胸に名札があり、クレアと書かれていた。
クレアの笑顔とほんのり匂う香水の香りでライムは一瞬ドキッとするが平静を装い頷く。
受付はちらりとライムの腕輪を見ると異邦人と判断したようだった。
「異邦人の方ですよね」
「は、はい」
「では、紹介状をお持ちですか?」
「ええ、っとこれでいいかな」
「拝見させていただきます……」
ストレージに仕舞っておいたライコフの紹介状を出すと受付が「えっ」という声を漏らす。
それに思わずライムはもしかして何か不手際があったのかとさっきの少年を思い出して体を緊張させる。
「あ、あのどうかしました?」
「あ、すみません。ライコフさんの紹介状を始めて見たもので」
「ライコフが出すのは珍しいと?」
「ええ、あの人はいつも素材集めに行ってますから。っと、すみませんではこの紹介状はお預かりしますね。それとこれを」
そう言いクレアは一昔前にあったプラスチックカードのようなものを差し出す。それにはライムの名前と太陽のような紋章の上に大きく「G」と書かれていた。
「これは冒険者であることを示す証、ユニオンカードです。身分証としての機能もありますので紛失にはお気をつけ下さい。これがなければ受けられないサービスもありますので……。また本来なら紹介状がない場合は仮登録をしてもらうのですがライムさんは先に住人からの信用を得たため、最初から本登録のGランクとなります」
クレアの話を纏めるとどうやら異邦人は仮登録ができ、町の中で依頼を何度もこなしていくことで紹介状を入手できるのだとか。
(ボクは幸運だったってことか)
「あれ、試験とかはないの? ほら試験官と戦って強さを示す、みたいな」
ベータ情報でそのような情報があったのでライムは拍子抜けしていた。
「いえ、昔は合ったようですが今はそれでは冒険者が戦闘力に偏ってしまうと言った理由で仮登録としての期間を設け、適正を見ることにしています」
「学力テストみたいなのを設ければよかったのに」
「一新したかったとのことですよ?」
何とも適当な理由だと思いながらも冒険者総合組合について説明を聞く。
冒険者総合組合は公共職業安定所ことハローワークの役割を持っている。まぁ言ってしまえば仕事を紹介したり組合に出された依頼を提供する場所である。
また冒険者総合組合は“総合”とだけあり、他にも組織が存在する。
狩猟安定組合、能力開発向上委員会などなどファンタジーとは思えない数多に渡る組織がある。
故に冒険者へのサポートは手厚く。ライコフが言っていた割引や解体だけでなく、一定金額を払えばスキルをレクチャーしてくれたり、アーツ習得のために師匠を紹介してくれるらしい。
これには思わずライムも頬を引き攣ってしまっていた。
(え、RPG? RPGってもっと不便じゃなかった? ……あ、そうだった。このゲームVRMMOとは言っていてもVRMMORPGとは言ってないわ。タイトルに騙された……)
TRP:Cでは機甲兵というロボットを思わせるゴーレムや電気の壁という高圧電流の壁なんかが存在していたため、文化が発展していてもおかしくはないがそれでもライムにとって衝撃的だった。
「あの、いつからこの形式になったの?」
「はい? 確か真暦1514のはずです」
「ちなみに今は何年?」
「1650年ですよ」
紀元前とされるTRP:Aでも高度な文明を誇っていたため発展は当然のことだったのだろうと自分を納得させる。
「では、最後にここにサインをお願いします」
「はいはいっと」
「確かに受け取りしました。これで登録は終了となります。お疲れ様でした」
「ありゃ、もう終わり?」
「はい、任意で受けられる初心者講座が訓練場でやっていますので心配ならばそちらを。冒険者として知識を蓄えたいというのならば資料室か、お金は掛かりますが図書館に行くことをお勧めします」
そう言いライムの冒険者登録はあっさり終わったのだった。
【Tips:冒険者】
元は未知領域への侵入を試みる者が自称していた職業です。討伐から採取、果ては子守までを請け負うため何でも屋と見られがちです。
現代では個人事業主として分類されます。
冒険者にはランクが振り分けられておりGを最低とし、Cで上級者扱いとなりAでは英雄と見做されます。
ライムの身長は171cmで受付のクレアは153cmなので中々の身長差があるという……。
冒険者カード的な扱いのユニオンカード。意味合い的には労働組合カードなのでちょっとあれ……おい、ファンタジー息しろよ。
試験的にステータスを後書きに置いておきます。
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【ライム】
【経験点】0
【所持金】7500ギル
【スキル】
《 手技Ⅰ(手に関する行動補正) 》
《 研究心Ⅰ(名前を見破ることがある) 》
《 精霊術Ⅰ(精霊術による魔力消費低下) 》
【アーツ】
《 手技 : 魔力放出Ⅰ(武器の保護や能力上昇) 》
《研究心 : 解析Ⅰ(時間をかけて情報を読み取る) 》
【能力パラメーター】
【HP(15/15)】
【MP(10/10)】
【SP(10/10)】
【EP(25/25)】
【総合力(5)】
【筋力(1)】
【体力(1)】
【魔力(1)】
【技力(1)】
【速力(1)】
【攻撃力(25)】
【防御力(20)】
【重量制限(8/10)】
【ストレージ(1/10)】
【ユニオンカード×1】
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