3 鍛冶屋とはぶられ者
※この物語は不定期投稿です。
前話『2 始まりの町エイネル』のマジカル☆プリティダイアの情報が加筆されました。
ダイアは正確には女性ではなく現実の肉体は男性ですがアバターは女性というプレイヤーです。
今後のストーリー展開に支障はありません。
ライムはソロモンとダイアとフレンド交換し、別れると職人町のような場所に来ていた。
屋台が集結していたような熱気はなく、一部は客を招いていたが大体の店は一見さんお断りっぽい静かな威圧感を出しており、客を笑顔で出迎えてくれそうにはない。
そんな中、ライムは平然とした顔で見渡していた。
物珍しそうに見ている美人と言った風貌のライムは職人気質な人物が多いこの場所に合わず──。
「はっ、お前さんみたいな細腕に使える武器はウチにはねぇよ。そもそも元貴族様みてぇなやつにやる剣はねぇ!」
──と一方的に考えを押し付けて追い出す者。
「お? 嬢ちゃん、胸こそないが顔は良いな。一発やらせてくれよ……おい、何するぶほっ!? ちょ、股間を蹴るのはぐひぃ!? やめ、やめてくれぇ!」
──セクハラしてくる者(粛清もとい去勢済み)
「……帰れ」
問答無用で入らせない者などなど職人町は時代を間違えたジェンダー差別が入り混じっている場所だった。
「はぁ、せっかく武器を買いに来たのに散々だよ……天誅でもしようかなぁ」
ライムがストレスを溜めながら職人町を歩いていると急に空き地が続き、町の端を表す城壁が目の前にどかんと立っていた。
見上げるほど高い城壁を眺めていると鉄を打つ音が聞こえた。
職人町を歩いている時は耳が慣れるほど聞いたその音だったが防音がある程度備わっている鍛冶場から閑散としたこの場所で聞こえるのは少し意外だ。
「あれは……」
不思議に思い辺りを見回すと近くの鍛冶場から何件も離れる形で木作りの小屋とその奥に石を積み上げて出来た素朴な家屋の煙突からは煙が排出されている。
まるで意図して離されているようなその場所は何処か寂しそうにも見えた。
「やっぱり鍛冶屋だ」
エルハイン工房という看板が掲げられた鍛冶屋であった。今までの経験から少し顔を顰めながらも戸を開ける。
来店を知らす鈴の音が鳴る。店内は清潔が保たれており木で出来ているためか温かみを感じる。武器が値札と共に飾られておりその値段は──。
「アイアンダガーが……に、25万ギル」
とかなり割高。ライムの持ち金では全く持って足らない。そもそもライムは屋台で浪費していたせいで今の有り金は7500ギルと心許ない。またこの店での一番低い値段はアイアンダガーの25万ギルとゲーム初期では決して買えない値段だ。
ライムが落胆しながらも店内を見回していると綺麗に陳列されている中、何故か数個の樽の中に入れられている武器たちがあった。
よくよく見てみると1万という捨て値で売られている脇差と呼ばれる刀がある上、品質も悪くなさそうだ。
「これは掘り出し物的なコーナーなのかな?」
試しに持ち抜いてみると何故この場所にあるかがライムには理解出来た。
「これ……不良在庫じゃん」
ライムが持った脇差の場合は刀身の固定が甘い。このままでは刀身を固定する柄の木材部分がうまく削られていないのだろう。しかし刀身自体は業物と言って良いほどの出来であり木材部分のみが駄目な実に勿体無い作品だった。
「勿体無いなぁ」
「何故、そう思う」
「いや、だってどれもこれも武器本体は職人町でもそうそうない出来……だけどグリップやら鞘の品質が悪い。せっかくの良い武器たちが泣いてるね」
「ほう、そうかそうか」
「てか、誰?」
背後に居た人物に話し掛ける。ライムが脇差を見ているときに気配を隠して近づいていた不審者である。
振り向くと居たのは厚手の作業服を着た寡黙そうな男性だった。
「ふむ、失礼した。このエルハイン工房の主人、ライコフ・エルハインだ」
「あぁ、店主さんだったのか。お邪魔させて貰ってます」
そう言いながらもライムの目は何処か疑っていた。
会ってきた鍛冶屋の尽くがクソみたいな、失礼。人間としてどうかしている連中なため警戒しているのだ。
「そう警戒しなくとも私ははぶられ者だからな。客を選ぶ権利などない」
「へぇ、はぶられ者ねぇ」
「うむ、私は冒険者をしていたのだがとあるドワーフに弟子入りし、この町に店を開かせて貰ったのだが……荒くれ者が作る剣など大根も切れんという噂を流されてな。客足が遠のくばかりで私が注文した道具は粗悪品ばかりと村八分にされている」
(この人、実はお喋りだな?)
この男性。実はライコフは寡黙そうに見えてかなりのお喋りのようだ。
「故に棚に陳列されている武具は全て私が一から作り上げたものだ」
「そりぁ武器を作るんだから一から作る……待って、全てって言った? グリップの革も鞘を作るのも?」
それに頷くライコフにライムは思わず天を仰ぐ。
そもそも武器を作るのには様々な職人の手が必要だ。日本刀なんて刀身を作る刀匠に、鞘を作る鞘師、柄巻師、鎺師などなどその分野に特化した専門家達が魂を込めて作っていたのだ。
西洋剣を作るのにも様々な人の手が必要だ。それを“一人で”こなしたという。一つ極めるのに人生賭けても不可能だというのに掛け持ちするのは馬鹿である。
ゲームのシステムが組み込まれた仮想世界だからこそ出来る荒技だろう。スキルを使えば経験を積めば積むほどより巧くなるのだから。
「凄いことしてるねぇ」
「いや、師匠に比べたら私なんていう若人は足元にも及ばぬよ」
「その師匠もこんなことを?」
「うむ、全てを己の手で行い武器を作る。それが師匠の教えだ。素材調達から部品作成まであらゆることを行う。自分の手でしか作れぬ唯一無二を作れとはよく言われたものだ」
呆れた心構えである。ハッキリ言って頭おかしい。
まさかの素材調達までやっていたのかともはやライムの顔が驚きを通り越して呆れている。
「ところで何故このような場所に暗殺者がいるのだ?」
先程までのほんわかした空気が一変。空気が凍ったかのような錯覚すら覚える。
「……何のことかなぁ?」
「惚けなくとも既に分かっている。足音はおろか布が擦れる音すら聞こえず足は常に臨時体制。おまけに私を探る目は急所を狙っている。ここに何の用だ暗殺者?」
この瞬間ライムは心中でかなり動揺していた。まさかゲームを攻略するために身に付けた技術が仇となり自らを追い詰める形となるとは思っていなかったのだ。
ライコフが構え、ライムも戦闘体制に入る緊迫する雰囲気の中、ライムは降参と言わんばかりに手を挙げる。
「やめやめ、ボクはこんなことしにきたんじゃないんだ」
真面目な空気に耐えきれなかったのだろう。ライムはすぐに根を上げる。
そしてライコフに自分が異邦人であること、そして異邦人は元の世界で英雄や勇者の戦を追体験していることを告げた。
異邦人であることの証明はキャラメイク時に配られた《 無知の腕輪 》を見せることで終わった。
ライムにはさっぱり分からなかったがどうやらこの腕輪には異邦人であることを示す紋様のようなものが刻まれているらしい。
「なるほど、つまりライムの身のこなしはその暗殺者の物語での追体験をクリアするため身に付けた技術で夢幻に過ぎない試練のようなものに何度も挑戦していたと」
「まぁ、分かりやすく言えばそんな感じ」
「夢幻の試練……まるで英傑の試練のようだ」
「英傑の試練?」
「ふむ、簡単に言えば英雄に至るため神から与えられる試練のことを言う」
「へぇ、じゃあ何度も様々な試練を踏破したボクは大英雄な訳だ」
「そうなるな、ではそんな大英雄さまにこれを献上しよう」
そうしてライコフが手渡してきたのは肉厚なダガーだった。ご丁寧に鑑定した結果まで付いていた。
〈アイアンダガー【上等品】〉
攻撃力:25 影響力:0
防御力:0 抵抗力:0
耐久:300/300
重量:5
補正:頑丈Ⅰ -耐久が減りにくくなる-
『解説』
良質な鉄を腕の良い職人によって上等なものにした肉厚なアイアンダガー。
通常のアイアンダガーより重量が増えているがその代わりに威力はそれ相応。
艶消しがなされており光を反射しにくい。
「はぁ!?」
効力は攻撃力やら防御力やらを示すパラメーターであり、ライムが見た店売りの効力は最低で5、最高で15であるため25というのは異常である。
明らかに序盤に手にしてはいけない装備だ。
「これは一体?」
「お詫びだ。いくら暗殺者だと思っていても疑いをかけたのは悪かったからな。私ではこれくらいしか出せん不満か?」
「いやいやいや。そもそもボクはそこまで迷惑被ってないから!」
「ならば出会った記念だな」
「お金払うから」
「そうすると30万は下らんが?」
「ありがたく頂戴致します!」
退路を潰されたライムは大人しくアイアンダガーを背中の方に装備する。
ライコフは満足してカウンター先の工房に戻ったかと思うと工房の方からレザーアーマーを持ってきていた。
「……何それ」
ライムは少し嫌な予感がしながらも尋ねる。
「私手製のレザーアーマーだ。ライムはこれから町の外に出るのだろう?」
「まぁ、うん」
「ならばそんな格好は良くない。私からこれをやろう。何、練習として作ったものだから値段などは気にするな。これから頑張るだろうライムのためにプレゼントだ」
「…… 気持ちは嬉しいんだけど」
流石に申し訳なさそうな顔をするライム。そもそも初対面でここまでしてもらう訳がないのだ。
「気にするな、と言っても納得する顔ではないな? ではこれからも私の店を使い、そして宣伝してくれればいい」
「それだけ?」
「うむ、私は鍛冶はしているが実際は冒険者家業の方がメインでな。ほぼほぼ素材調達ついでに魔物討伐を行っているのだ。故に金銭には問題がないのだがせっかく作った武器達が埃をかぶるのは可哀想だ。武器は持ち主がいて初めて価値が出る。異邦者には離れていても通信する手段があるのだろう? それを使って宣伝してほしい」
「分かった。この剣に恥じない働きはするよ」
「まぁ、そこそこでな。私も1日にそう何本も作れるわけではないからな」
その後、異邦人の世界に興味を持ったライコフに話をしている内に夜になってしまったためライコフに今日は泊まっていけと言われたり、実はライコフが所帯持ちだと言うことが判明したりしたが少し騒がしい夜はあっという間に過ぎていった。
【Tips:重量制限】
筋力PLv×10で決定される装備限界です。
重量制限を超過すると動きが鈍くなり、さらに超えると動くことすら不可能になるため装備はしっかりと考えて選びましょう。
またストレージの収納限界には関係がありません。
何か凄い都合の良い展開になってる。
構想段階では乱暴な口のおっさんだったのに何か進化してる……これが見切り発車か。
ステータス公開とレザーアーマーの性能を載せときます。
またステータスは本編には一部を引用する程度でしか登場しない予定です。
〈レザーアーマー【良質品】〉
攻撃力:0 影響力:0
防御力:20 抵抗力:5
耐久:450/450
重量:3
補正:柔軟Ⅰ -しなやかに動ける-
『解説』
良質な革を加工して作られたレザーアーマー。
使用者の動きを阻害しない作りとなっており、作り手の真心を感じられる作品。
◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇
【ライム】
【経験点】0
【所持金】7500ギル
【スキル】
《 手技Ⅰ(手に関する行動補正) 》
《 研究心Ⅰ(名前を見破ることがある) 》
《 精霊術Ⅰ(精霊術による魔力消費低下) 》
【アーツ】
《 手技 : 魔力放出Ⅰ(武器の保護や能力上昇) 》
《 研究心 : 解析Ⅰ(時間をかけて情報を読み取る) 》
【能力パラメーター】
【HP(15/15)】
【MP(10/10)】
【SP(10/10)】
【EP(25/25)】
【総合力(5)】
【筋力(1)】
【体力(1)】
【魔力(1)】
【技力(1)】
【速力(1)】
【攻撃力(25)】
【防御力(20)】
【重量制限(8/10)】
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
【総合力】
全てのパラメーターレベルを総合したもの。
【HP】
総合力×3で決定される。
ダメージによって減少し、全て無くなれば死亡判定となる。
【MP】
魔力×10で決定される。
アーツを使うための元であり、0になれば気絶する。
【SP】
体力×10で決定される。
スタミナであり、軽い運動ならば十分で1、そこそこなら2、重い運動だと3消費する。全てなくなるとスタミナが半分回復するまで動けなくなる。
回復は3分間で1。楽な姿勢だとより回復しやすい。
【EP】
総合力×5で決定される。
空腹度であり、30%を切るとPLvが半分になる。また0%になると飢餓状態が発生し、一定時間経過後、死亡する。
【攻撃力】
武器の数値によって決定される。
表示されている数値は最大値であり、しっかり武器を使えなければその数値以下の攻撃力となる。
【防御力】
防具の数値によって決定される。
表示されている数値は最大値であり、防具の隙間から肉体を攻撃されればこの数値は判定に入らない。
【重量制限】
筋力×10で決定される。
どれだけ重いものを装備できるかというもの。また物を持つことでも消費される。