2 始まりの街エイネル
※この物語は不定期投稿です。
8/7『真RPやTRPと分けられていた略称をTRPで統一。またシリーズではなく単一タイトルを表すときはTRP:Gのようになる』
8/7『マジカル☆プリティダイアの情報を追加』
《【始まりの街】エイネルに転送します。》
アナウンスから数秒後、ライムの体が光へと包まれ転移させられる。
ライムはその光景にはっと息を呑む。
中世西洋風の街並みを満たすのは喧騒。度々鎧を着込み、武器を腰に吊す冒険者やハンターに該当する人が通り過ぎていく。
肌を撫でる風、鼻をくすぐる香ばしい匂い、いつもと違う気がする空気。
街道に目を向ければ商売逞しく客を大きな声で招き入れようとしている。小さな子供達がかけっこをしながら遊び、まるで自分が異世界に迷い込んだかのようだった。
圧巻の一言だった。前作が時の止まった世界で遊んでいたとするならば今作はその時が動いているのを五感で感じ取れた。
(さっきまでの草原も凄かったけどこっちはより凄い。全く……底が見えないね)
ライムは何処か呆れつつも目的を思い出す。実は行く場所はもう決まっている。ライムの友人たちと一旦合流することになっているのだ。
「おっ、あれ美味しそう」
吸い込まれるように寄り道をするライム。焼き鳥の屋台のようでタレの良い匂いが食欲をそそる。
初期の所持金が1万ギルあるため少し浪費しても問題ないだろうとの判断だ。
「おっちゃん、それ何ギル?」
「ん? あぁ300ギルだ」
八百屋で売っていたりんごが50ギルだからギルは円換算で大体2〜3倍だねと金額の価値を計算しつつ焼き鳥を購入する。
(焼き鳥で600〜900円は高いけど屋台価格だと納得できる値段だ)
「ほら、焼き立てだ。美味いぞ」
「ありがと」
(折角だしアーツ使ってみようかな)
アーツの使い方を試すついでに解析の使い心地も試すことにした。
《 研究心 : 解析Ⅰ 》
解析を発動するとウィンドウが新たに表示され、少しづつ情報が開示されていく。
品種はクォレクォレ鳥、評価は〈上位〉、特異な物を除けば上から3番目に良い評価となる。
「おっちゃん、これってクォレクォレ鳥って言うの?」
「ああ、そうだ。よく分かったな」
おっちゃんは少し驚きつつも熱いうちに食べなと食べることを促してくる。
確かに情報量が多いがこれは抵抗がなかったからだろうと推測する。抵抗があると解析時間が長くなるという話なので、失敗のリスクがあるが一瞬で情報を獲得できる鑑定との使い分けが必要そうだ。
ライムは考えることを一旦やめ、美味しそうな匂いを漂わせる焼き鳥を頬張る。
「はむ、んんっ! 美味しいっ!」
「そうかそうか、美味いか」
「良い腕前だね!」
「ありがとよ」
思わずもう2本お代わりしてしまうほど美味しかったようで贔屓にしようとライムは心の中で決めつつ焼き鳥を頬張る。
おっちゃんの話では水の日と風の日に屋台を出しているとの話だった。
曜日が火水風地であり、このゲームが四倍速進んで現実での1日が一週間という設定なため6時から18時までやってることとなる。
(ホント甘辛いタレは鳥肉と合うよね)
焼き鳥を頬張りながら町を見渡しているとライムが歩いている場所は商店街の屋台版のような場所らしく種類様々な商品で客を呼び込もうと声を張っている人で溢れていた。
「何ともギラギラした視線だね……」
商売人の熱意に呑まれないようにしつつたまに負けながらも目的地に足を進める。
そこはウッドデッキのあるオシャレなカフェである。木でできたこれまたオシャレなテラス席に座っているのは特徴的な二人であった。
周りの異邦人はだぼっとしたダサい服や着ているのにも関わらずなんとも奇抜な格好をしていた。
一人は黒を基調とした軍服に裏地が赤、表が黒で謎の魔法陣が描かれたマントという何とも厨二臭い黒髪紅眼のちびっこい美男子。
もう一人はフリルがこれでもかと付けられた魔法少女然としたロリィタ服に、パステルピンクの髪で空色の目というファンシーで痛々しい美少女であった。
どちらも異邦人、NPC両方から実に注目を浴びていた。
「二人とも早いね」
複数の視線が交わる中で堂々と注目の的に話し掛けるライムは肝が太いらしい。
「ふん。お前が遅いのだ亡霊よ。我と初代は4時間も待たされたのだ。反省しろ」
「いやぁごめ……何言っちゃってんのかな、ソロモンくん? そのダサい二つ名はやめてもらおうか。ボクはライムという可愛らしい名前があるからそっちで呼ぼうか」
「何を、遅刻した罰だ。しかもこの二つ名がダサいなど感性を疑うわ! ライムという名前なんぞ没個性にも程がある」
「あ?」
「ほう?」
彼の名はソロモン。旧約聖書に登場するイスラエルの王から取った名であり魔術王と言われる彼を象徴する名前だと言える。
当人は見た目通り度を超える厨二病患者であり、口調もおかしいが割と常識人でもある。
「大体ソロモンはね──」
「何だ怖気付いた──」
口論をしていた二人は隣から溢れるプレッシャーに体が勝手に動き戦闘体制となる。
そのプレッシャーの正体は魔法少女風の出立ちである少女、マジカル☆プリティダイアからであった。
そんな彼女が可愛らしい容姿から出るとは思えない獣の王とでも表すべき威圧感と深淵の如く真っ黒な笑みを見た二人は足が震えていた。
ちなみに中身の体は男であり、様々な事情からアバターの性別は女性となっている。
「二人とも?」
「ひゃ、ひゃい」
「な、なんだ?」
「公共の場で騒がないで、ね?」
「「はい」」
片や亡霊と呼ばれる暗殺者。片や魔術王と恐れられる術士。どちらとも強者ではあるが年上で世話になった人には勝てなかった。
落ち着いたところでライムも椅子に座り抹茶ラテを注文する。
「……んで二人とも何? その無駄に豪華な装備は」
ライムは先程から気になっていたことを聞いた。いくら二人が高いPSを持つからと言って4時間で高級そうな装備を手に入れれるはずがない。
「ふむ、一言で言うならば財力だな」
「ん?」
ソロモンの言葉が理解出来なかったらしくダイアに無言で問い掛ける。
ダイアは口で言いなさいと注意しながらと説明してくれた。
「課金装備よ。しかもデザインはカスタム出来るけど完全見た目だけの」
「2時間はこれに注ぎ込んだな。ふむ、そう考えると亡霊が遅れたことも良かったのか」
「ソロモン?」
「……前言撤回する」
「ふっ」
「ぐぬぬ」
軽い痴話喧嘩をしつつライムは抹茶ラテをちびちびと飲むと目を軽く開いて「これ美味しい」と呟く。
それを聞いたソロモンは自分の店でも常連でもないというのに何故か誇らしげに自慢する。
「だろう? 我のオススメの店だ」
「ふーん、じゃあオススメのメニューは?」
「抹茶ラテならば……やはり和菓子だろう。きな粉餅は美味かったぞ」
「へぇ、すみませんきな粉餅下さ〜い」
「全く、仲良いんだか悪いんだか……」
これが青春かと二十代がぼやく。最近は会っていなかったが旧友とだけあり三人の話は盛り上がっていきあのTRPはこうだったやあのVR面白いというゲームの話題から近況報告。そしてTRP:Gの話題へと移り変わっていく。
「ふーん。やっぱ魔力操作はシリーズ通して使えるんだ。ソロモンは試した?」
「うむ。前作同様使えたが変わっていたのは少し操作難易度が上がっていたくらいか」
「あとアーツ作成にも使えるわ。術アーツは術式を弄らなきゃいけないけど技アーツは初期からある【魔力放出】を操作すれば割と簡単に作れるから試してみれば?」
このTRPシリーズでは前作からの引き継ぎなどはない。しかし当然ながら知識と技術はPSとして持ち出せる。
その中でTRP独自の技術があり、それが魔力操作というものがある。
純粋なPSであるこれはTRPの主任がせっかく異世界みたいなんだから魔力を感覚として捉えられ操れるようにしてしまえという悪ふざけで出来上がったものである。
中級者から上級者に上がるにつれて必須となる技術だが未知の感覚なため、習得難易度は激ムズ。しかし扱えるようになれば劇的に強くなれるので出来れば使えるようになっておきたい技術だ。
ちなみにこの主任の話はスタッフがSNSで呟いたことで発覚し、プレイヤーが草を生やしながらも自由性を高めた主任を称えたという裏話がある。
「戦闘用アーツを使うならパーソナルエリアである訓練場を勧める」
「ん? なんで?」
「それがソロモンってば魔術陣を早速弄ろうとアーツ発動させて衛兵さんに叱られちゃったのよ。『街中でのアーツの発動は町民の皆様を怖がらせる原因となりますので町の外か、訓練場でお願いします』ってね」
「ソロモン……街中で魔術使って許されるのは魔狂いしかいないTRP:Fだけだよ……毒されたね?」
「……知らぬ」
現代で言うならば街中で抜き身のナイフを取り出したかと思えば砥石で磨ぎ出したということである。
故にライムは馬鹿にせず哀れみの視線を向けていた。よもやここまであの魔狂い共の狂気に呑まれたかと。
おそらくソロモンもTRP:Gが発売されると聞き、自分の得意分野を磨いていたのだろう。それであの魔窟に飛び込めるのだから凄いとある種の尊敬の念をソロモンに向ける。ソロモンに気味悪がられたライムが飛びかかるなどのハプニングがあったが平和にカフェ会は終わることとなった。
【Tips:魔力操作】
TRPシリーズのみに存在する架空エネルギー魔力を操る技術のことを指します。
主任の悪ふざけによって作られた魔力の第六の感覚こと魔力感知は良くも悪くもTRPの世界に影響を与え、魔力が世界を動かしてきたと言っても過言ではないほどです。
そのため主任は怒られるどころか、褒められたという㊙︎エピソードがあります。
全員20代なのに何でダイアはこんなに達観してるんだ?
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