1 TRP:Gと亡霊
※この物語は不定期投稿です。
連続投稿中。明日の8時に投稿したらしばらく更新はない。
8/7『真RPやTRPと分けられていた略称をTRPで統一。またシリーズではなく単一タイトルを表すときはTRP:Gのようになる』
9/8『場所や時の表記を追加』
【True Romance Project: G】
現代で新たに発売されたゲーム。某有名企業がTRPシリーズとしてリリースしている新作である。
アルファベットをナンバリングとする少し特徴的なタイトルであり、今作は7作目。
多種多様なジャンルを提供するTRPシリーズのジャンルはVRMMOであり、RPGではない。
WSを使用しており、これまでのシリーズは過去の出来事をゲームとしてアレンジしていたのだが今作はリアルタイムで進んでいく。今後のシリーズは別世界線として保存してある世界で行うと発表されている。
このゲームの謳い文句は『異世界のような体験を』実に使い古された文言だが良作を量産しているだけあり、ファンや業界からの期待が上がってきている。
本作の魅力は何と言ってもその自由度。今まで自由を謳ってきたVRは幾度となく見かけたが精々オープンワールドが限界だった。
しかしこの真RPGは独自のエンジンが組まれており、ベータプレイヤー曰く「異世界に行ったかのようだった」や「異世界を謳い文句にするゲームは山程あるがこれは期待を超えてきた」などなど肯定的な意見が多数あった。
何と言っても──
◇──────◇
【 4月4日(水) 10:24 】
【 地上東京都三工川区 / マンション 】
「教授、タブ閉じといて」
『了解した、凛』
椅子に腰掛ける少女が誰もいない部屋でそう呟くとナノマシンが視覚上に投影していたTRP:Gに関する複数のタブを閉じる。
彼女は机上にあるVRデバイスを起動させようとするが脳内に響く声によって静止される。
ナノマシンに搭載された学習型精密医療検査AI。愛称『医療従事者』である。
『メディックより健康検査の申請をします』
「メディック……確かボクは2日前にしたばっかだよ?」
『葉波凛』
「は、はい?」
何処か硬質な声で呼ぶメディックに凛が気圧される。
『凛は2日前、時間加速を最高倍率で行ったため定期的なチェックが必要です。以前も最高倍率ではないとはいえ約3日間にも及ぶ長時間高倍率で遊んで倒れかけたという私の存在意義に関わる事件が発生しています」
「う、うん」
『私も健康状態は把握していますがあくまでそれは簡易であり、精密検査には凛の許可が必要となります。幸い凛が楽しみにしているTRP:Gはサービス開始まで時間があります。大人しく許可することを要求します。』
(プロフェッサーヘルプ)
(無理だ。大人しく説教されてるがいい)
『凛?』
「いえ、何でもないです」
メディックの猛攻に耐えきれなかった凛は30分程拘束されることとなる。また長時間遊ぶ為の準備をしている間にTRP:Gのサービス開始は始まってしまいスタートダッシュを切ることは諦め、のんびりと遊ぶことにしたようだ。
「VRデバイス起動」
『承認。ナノマシンとの接続を開始……完了。続けてロックの解除を開始……メディックよりレポートの提出を確認。栄養状態クリア。症状無し──』
メディックがVRデバイスに仕掛けたロックが次々と解除され、予め入れておいたデータが読み込まれる。
『全てのロックが解除。【True Romance Project: G】を起動します』
VRデバイスがそう宣言すると凛の意識はプツリと途切れ、仮想世界へと沈んでいく。
◇──────◇
【 ?/?(?) ??:?? 】
【 初心の草原 / 創造の間 】
《TRP:Gへようこそ。》
ログインが完了すると目の前に広がるのは青々とした草原。空に浮かぶ雲が形を変えながら流れ、柔らかい風が頬を撫で、何処からか鳥の囀りが聞こえて来る。
まるで仮想世界とは思えない風景。どこまでもリアルを追求した偽物の世界はついにはリアルを追い越してしまったかと錯覚してしまうほどに完成度が高い。
「ふぁ〜!」
本名葉波凛こと亡霊と呼ばれた少女、ライムはこれまで積もりに積もっていた期待が興奮に置き換わっているらしく感動に打ち震えるように肩を震わせていた。
先に説明しておくがこのゲーム、TRP:Gには典型的な職業のシステム、レベルを上げれば勝手に使える技が増えて能力が上がるなんてシステムはない。
能力パラメーターはPLvというものがあり筋力PLvならば筋トレやそれに該当する行動をすれば上げることができる。
またスキルは熟練度があり、対応した行動をしなければ熟練度が上がることすらない。しかもそれで上がるのはモーションアシストの強化とパッシブ効果のみ、技であるアーツは増えることがない。
ならばどうアーツを増やすかと言えば端的に言えば修行である。初期からあるアーツを使い続けて新たな道を切り開くもよし、教えを乞い誰かからアーツを教えてもらうもよし。
プレイヤーは努力と柔軟な発想力が問われると言う。
「ふぅ……元々グラフィックが神懸っていたけどさらに磨きがかかってるね、さすがは天下のTRPシリーズだっ!」
やっと興奮から冷めたかと思いきや相も変わらず興奮が冷めないようだ。
従来のVRからすればとんでもない技術なのは確かなため彼女が興奮する理由も頷ける。
《アバターを作成してください。》
ライムが興奮している裏で世界観の設定を説明し続けていたアナウンスがアバターを作ることを促す。
「キャラメイクかぁ……どうせなら性癖全開にしちゃおうか」
肌は褐色に、銀髪を腰まで伸ばす。そして目を紅眼にすれば完成。同士ならば確実に魅了してしまうであろう容姿にライムは頬がだらしなく緩んでしまう。
身長こそ何処ぞのモデルかと思うほどすらっとしているが胸は小波の立たない海のように平坦であった。
アバターには胸の大きさの欄もあったがライムはそこから一ミリたりとも動かしていなかった。
これは現実の容姿から引き離すと重心が変わってしまい上手く体を動かせないという問題があるため現実に忠実にした方がいいという要因があった。
「ぺったんこもアバターを引き立てる要素になってるからいいんだけど、いいんだけどね」
自分に言い聞かせるかのように呟きつつストンと何もない真っ平らな胸を見て何処か悲しそうであった。
──アイテム《 無知の腕輪 》を入手しました。
──アイテム《 初心の服装 》を入手しました。
──アイテム《 10000ギル 》を入手しました。
メイキングを終了させるとアバターのフィギュアにだぼっとしたダサい服装とベルトにポーチが装備させられた。
初期装備がダサいのは当然として無知の腕輪はメニュー機能が付いている腕輪であり、10種類×99個のアイテムを重量関係なしに収納できるストレージという機能が搭載されている。
類似品のアイテムポーチやバッグは安い物でも100万は超える高級品なため、初期で貰えるもので一番ありがたいものだろう。
ちなみにこの腕輪は冒険者協会で上位版が入手出来る。
スキルリストを開くとアナウンスが響き、スキル習得チュートリアルが行われるがライムはもう知っているとスキップしてしまう。不憫である。
──スキル《 共通語 》が習得可能です。
初期経験点は15であり、初期では3つスキルが取れるようになっている。
《 共通語 》は必要な経験点がスキルでありながら0となっている。これがなければ現地人と喋ることができず普通にゲームが出来る様にという配慮だろう。
クローズドβではこのスキルを取らずに旅行気分で遊んでいた人もいるらしいがそこを見越していたとも考えられる。
「ベータ民からの情報だとスキルにはパッシブ効果があって任意発動出来るのがアーツだったっけ」
ここから自由にスキルを選べるとウキウキのライムは膨大なスキルが表記されるボードを流し見する。
「確か、経験点が入手できるのは新たな行動や、クエスト報酬、あとは戦闘行為と生産活動だったかな?」
その前提を忘れないようにしつつ膨大なスキル画面をスライドしていくが下げても下げても底に辿り着く様子がない。
「話通り多いなぁ……そんじゃジャンルで見てこうねっと」
ジャンル分けに切り替えると武術、術式、補助、生産、知識、その他と大きく分けて六つあるようだ。
武術カテゴリでは王道の《 剣技 》や《 弓技 》など武器を使うスキル。
術式カテゴリは術と名が付く物を放り込んだようで《 魔術 》というものから《 占星法 》といったマイナーなものまで取り揃えてある。それに何故か生産系である《 錬金術 》もこのカテゴリに分類される。
補助カテゴリには《 医療 》というパッシブ効果が医療系アイテム強化と良さそうなものがあった。
生産カテゴリはライムの興味を惹くものがありすぎて選びきれないようだったが《 鍛治 》に目が引かれていた。
自分で作った武器で敵を倒したいという思いが湧き出てしまい非常に悩んでいたが思い切って諦めることにしたようだ。
知識カテゴリは《 植物知識 》や《 動物知識 》といった専門知識や《 布団知識 》といったネタ枠まで大量に存在していた。
「ん? これは──」
ライムにとって非常に面白そうなものばかりで目が移っていくが知識カテゴリを覗いていると面白そうなスキルを発見した。
その名も《 研究心 》、鑑定に類する任意発動系情報開示アーツ解析を持つスキル。時間はかかるが判定失敗などが起きづらく時間が経つごとに情報量も多くなるという鑑定の上位互換とも下位互換とも言い切れない微妙なスキルである。
テスター達曰く「時間はかかるが知識系スキルが要らないため節約には便利」「時間をかければかけるほど情報が出る有用スキル」等々、肯定的な意見が多い。
ちなみに鑑定は《 植物知識 》など知識系スキルに付随する専門知識のようなものなので経験点消費やスキル習得に使う時間を考えたらこっちがお得に見える。
攻撃用として《 精霊術 》という詠唱で精霊に語りかけ環境に依存した術を扱うスキルと《 手技 》という手でのダメージが上がるスキルを獲得した。
次は進むと《名前を入力してください》とアナウンスが入るが愛用しているライムという名前を入力する。
その後は設定をいじる項目となったため、時間をかけつつ調整していく。
ここでこの作業をサボると例えば痛覚設定の場合、極端な事を言えば敏感になりすぎて静電気程度の痛みでも小指をぶつけたような痛みとなることがある。
あくまで設定は標準的な成人を基準としているので個人によって変わる感覚などは自分で合わせなければならない。
設定の調整が終了したがどうやらこれで初期設定も終了のようで何処からか男性の声が聞こえて来る。
《この世界は幻想であり、幻想ではない。キミ達プレイヤーにはどうか良識ある行動を、そしてこれは幻想を突き詰めたリアルであることを夢々忘れることがないよう願っている。》
「ええと要するに現実でしてはいけないことはゲームでもしてはいけないよ。ということかな?」
最近のゲームは利用規約をしっかりと読んだという契約書を書かされるのでルールを破り、それで不利益を被っても自己責任ということになるためその心配は杞憂だろうと判断したライムは対して気にしなかった。
《【始まりの街】エイネルに転送します。》
アナウンスから数秒後、ライムの体が光へと包まれ軽い浮遊感が過ぎ去ると景色が変わった。
【Tips:スキル】
常時発動効果を持つ特殊能力です。対応する行動で習得可能となり、経験点を消費することで習得できます。
また学習や練習を繰り返すことでも習得が可能です。そのときに経験点消費はありません。
ライムの見た目はキリッとした顔立ちだけど本人の性格でふにゃっとしている残念美人だよ
本編の補足説明を載せておきます。
【Tips】と本編でちびちび設定を流していく予定。
【Tips:異邦人】
異界からやって来た神の使徒というプレイヤーのことを指す名称です。