13 闇を裂くは一筋の閃光
※この物語は不定期投稿です。
戦闘描写なんて大っ嫌いだ。そう叫びたくなるほど難産でした。
あと12時という時間帯は誰も見ないんじゃないかと気が付き、夜に投稿してみたのですがどちらがいいのでしょうね。
ちなみに三人称です。
『11/3』読み直して何か違うなとなったので大幅に変更しました。前のは彼女らしくなかったのでね。
少なくとも十年は遊んでいて時間加速でさらに何十倍もの時間遊んでいるのに弱くないわけないんだよなぁ。
ライムとブラスラは睨み合うように対峙する。両者共に仕掛ける気はなく、様子を見合っているようだった。
(おいおい……ボクの見立てではあれ。筋肉繊維まで再現してるぞ? とは言え、少々可笑しな構造だ。これが捕食と感覚だけの模倣差なのかな)
ライムの考え通り、ブラスラの筋肉構造や骨格などは人間とは思えない形をしている。しかしそれでブラスラが弱体化することはありえない。何せ、スライム種とだけあり、全身筋肉のようなものだ。筋肉の絶対量は変わらないのだから関係ない。
対するブラスラは力の感覚を確かめるように体を動かしていた。敵の前でそんなことが出来るのは負け無しの捕食者だからだろう。
準備が終わったと言わんばかりに最初から衰えぬ速さで迫り──瞬間、ライムの目の前に現れる。
ライムでは身体スペック的にこの攻撃は避けられない。しかし避けるどころか、腕をどかすようにいなすと素早く懐に潜り込み掌底打ちを放った。
「てやぁ!」
その細腕から放たれた衝撃はそれこそ常人並み、だが遅れてやってきた衝撃は違う。
──ドゴンッ!
──まるで何かが爆発したかのような音と共に解き放たれた一撃は確かな攻撃力を伴い、ブラスラにダメージを与えるに至る。
「────ッ!?!?!」
彼に明らかな動揺が見られただがそれも束の間、ブラスラは木に打ち付けられ、あまりの衝撃に木の葉が舞い散る。
彼女は構えを解くと──。
「これぞ我が武術の心得が一『閃』であるってね」
そう不敵な笑みを浮かべ、相手を挑発するライム。
ライムのこれまでの経験を元に様々な流派が混じり合わせた正に混沌のような武術が『閃』である。
『閃』は一対少数が得意な技が基本となる攻撃的な武術であり、先程の技は衝撃のベクトルコントロールすることで打撃ダメージを無効化する化勁とその衝撃瞬時に相手へと送り込む発勁である。
「────」
確かな一撃、確かな威力、だが強敵を倒すには至らない。
ゆらり。糸操り人形を思わせる不自然な動作で立ち上がる。ぱっと見は傷がないように見えるが確かにこの一撃は彼にダメージを与えていた。
「ふーん。なるほどね」
手のひらに訝しむような視線を向けるライム。だが考えている暇などなく、復活を果たしたブラスラが迫る。
いなし、返し、いなし、返し。
側から見ればライムが防戦一方に見えるが実際にはライムの一方的な蹂躙であった。
攻撃された際に発生する衝撃を包み込み、それをそのまま返す。
常人には針の穴にバットを入れるようなものである。つまり常人には不可能であるということだ。
彼女が特異な才能を持つから出来ることであって決して簡単には行えない。
このままではまずい。
そう考えたのか鋭い針を全身に張り巡らせる。あくまでライムの化勁は打撃ダメージにしか効果がない。
故に刺突系の攻撃となる、また肉体が武器である彼女にはトゲだらけの体を攻撃することは自爆することと等しい、彼の行動は大正解であった。
「小賢しいね。そういう小手先が通用するのは同格か、格下くらいだよ?」
さりげなく彼のことを見下しながらライムは《 手技 : 硬化鉄甲 》を発動させる。陽炎が揺らめけばライムの腕には半透明の籠手が嵌められる。
魔力の障壁となっている硬化鉄甲は物理的な防御も行うため当然ながら棘の体の優位性は少なくなる。
技も何もなしにがむしゃらに向かってくるブラスラの腕を掴むと突進の勢いを利用し、進行方向へと転ばせる。
起き上がらせまいと踵落としを腹部に狙いを澄まして落とすと助走をつけ踏み付ける。するとビクンッと痙攣して力無く倒れてしまった。
震脚という技で本来は木造系の建造物にて使う相手のバランスを崩す足版の発勁なのだが建物を揺らすのはそれ相応の力が必要で相応に威力も高いため攻撃に転用したのだ。
「むぅ? 思ったより弱いぞ? この魔力な感じだとまだまだ力を残してるみたいだけど使わないと……死んじゃうよ?」
ぶるり。絶対的な捕食者である彼が震えた。それがなんなのかは彼は分からないがそれに屈してはならないと本能が囁いていた。
ゆらりゆらり。ゆっくりと立ち上がるブラスラに対してライムは容赦の無い拳が襲う。それはダメージこそ与えなかったものの吹き飛ばすには十分な威力があった。
「破岩拳っと、遅いよ君。すっごく遅い。人が折角戦ってるのに最初から本気出さないなんて……そういうのは慢心って言うんだよ?」
確かに彼は慢心していただろうがそれはあまりにも傲慢であり、理不尽過ぎた。彼はよろめきながらも懸命に立ち上がる。
それは、その感情は誰からでも分かっただろう。彼の身体から噴き出すは紅蓮の炎が如き怒り。
「バーサクモードか」
一定の条件を満たすと起こるボスの強化形態。
ライムの目には異邦人とは比にならない量の魔力が渦巻いているのが見える。
それは明らかに彼の限界を超えていた。おそらく敵わないと悟り勝負に出ようと考えたのだ。
(さすがに竜なんかと比べれば少ない。そこらの魔物よりかは遥かにマシだけれどやはり彼は──)
結論を出す前にブラスラ。正体不明粘液体は飛び出していた。
手を変形させる。その形状は馬上槍を思わせる作りだった。
確かに速い。確かに力は強い。けれど、けれど──。
魔力を、練り上げる。練って練って限界まで練り上げる。
同時に紅き粒子が体から溢れ出す。それは闘志であり、燃え盛る焔のようでもあった。
(魔力操作の技が一『錬魔闘法』続けて)
スローモーションですら目に見えて速い彼を目に捉えて──。
(閃が最奥の一『龍閃ッ!!!』)
龍が現れた。それは幻視であり、本物ではない。しかし本物さながらを見ているような威圧感が場を支配する。
「らあぁぁぁぁ!!!!!!」
「────ぁぁぁぁ!!!!!」
龍の拳とランスがぶつかり合う。それは一瞬の攻防、僅かではあるもののランスが押した。
しかし単なる魔力放出と錬魔闘法の出力の違い、そして魔石の出力限界すら超えた放出についには──。
──ピシリッ。
ヒビが入った。だがまだやめない。諦めない。彼はこの身を与えた彼の神がために。なんとしてでも勝ち残らなくてはならない。
「────ぁぁぁっ!!!?」
例えこの身が散ろうとも。死する身になろうとも勝たねばならない。
そんな執念が故か、命を燃やした最期の一撃は重く、また重くなっていく。
「らぁぁぁぁああ!!!!」
「────ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
限界のさらに限界を超えた。それでも、それでも目の前のバケモノには敵わない。もっともっと力を──。
──パリン。
無慈悲な音が聞こえる。それは弾けた音。それは魔石が限界を迎えた音。あまりにもあっさりと訪れたそれは彼の身を非情にも崩していく。
「────ぁぁぁぁ!?!?!?」
魔力生命体スライム。魔法にて生命の維持を行なっているスライムは魔石を砕かれれば死に絶える悲しき種族。それはスライムをベースとした彼も例外ではない。
コールタールを思わせるどろどろとした液体は渇いた地面にいともたやすく呑み込まれていく。
これは精霊の報復だろうか、命を奪った罰だろうか。今の彼にはそんなことを考えることすらできない。
バケモノが目に入る。何故か哀しい目をしていた。
「君は弱い──そう言うつもりだったのに君は誰かの為に戦っていた。それが悪であれなんであれ、それは強いものの生き方だ。認めよう、君は君の思っている以上に強いとも。何せ神すら殺した者が言うのだから間違いないさ」
その言葉は不思議と心に染みて、何やら温かいものが湧き上がってくる。
嗚呼、もし違う世界ならばどうか彼女と共闘する世界に──。
そう願ったかは分からない。けれど思うところがあったのだろう。どこか満足げに光となって消滅した。
この戦闘が終わったらほのぼのさせるんだ。
錬魔闘法は龍が如くの戦闘時に出る謎のオーラを思い浮かべてもらえば
ちなみ、ライムちゃんは結構強い方ですが上には上がいるものです。
彼女の兄は剣を極めたが故に斬れぬものはなく、その剣は概念すら斬り裂く魔剣と化していたり……現実は異能と異才があるファンタジーなのでね。仕方ないね。
次回「14 森の精霊と伝承」
しばらく18時投稿で行きます。投稿日は未定。




