11 朝露の森
※この物語は不定期投稿です。
この投稿から12時に投稿します。
【 6月4日(地) 0:21 】
【 始まりの町エイネル / 北の銀時計塔 】
「んっー」
思い切り伸びをすると気のせいか、ボキボキと心地良い感覚がする。
現在、本を読み始めて12時間ほど。いや、EPが心許なくなるとソロモンにご飯を集りに行くのと仮眠を取っていたから正確には11時間弱。
ボクは山積みの本を攻略することに成功していた。
長時間苦戦してきたけどなんとか終わってよかったよ。おかげで経験点さえあればいつでも生産スキルがとれるようになっていた。
早速生産を! と言いたいところなんだけど現実だと夕飯時だし、食べないと怒られるからね。休憩ついでには丁度いい時間帯だ。
◇──────◇
【 6月4日(地) 4:37 】
【 始まりの町エイネル / 北の銀時計塔 】
はい、ログイン。速攻で食べて戻ってきたのでこちらでは大体4時間しか経っていない。
おっと、ソロモンに挨拶しないとね。フリースペースの机上で毛繕いしているカラスを手招きするとちょこちょこ近づいてくる。
「ソロモンにもう行くって伝えてくれるかい?」
カラスは分かったと返事するように小さく鳴き、吹き抜けを目指して飛び立っていく。
あれは「フレンド通話がファンタジーでは無粋」だと10時間前にソロモンが開発した音魔術【伝言者】である。効果は簡易的なAIを仕込んだ動物型の魔術に声を封じ込めて対象のもとで声を再生するものだ。
実に魔術士らしい魔術だと思う。使い魔っぽくてロマンあるよね。
「さて、ソロモンの依頼でもこなすかね」
確か必要なのは小瓶だったか。デパートで売ってた気がするが5時からの開店だったはずだからまだ時間があるし、少し散策する前に組合に行こうかな。折角森に行くんだし、依頼を受けていこう。
「うわっ寒い」
図書館から出るとまだ日が出ておらず、涼しいとは言い難いすこし寒い風が吹いていた。
デパートに行くため、大通りに行くと早い時間なのに馬車が走っていたり、開店準備をする商売熱心な人もいる。
いやあ、勤勉なこったね。変則的な不健康生活をしている現代人は見習った方がいいんじゃないかな。
早寝早起き病知らずなんて言うし、この世界の人は健康な人が多そうだね。
冒険者組合で朝露の森の討伐依頼を受けようと思ったのだがGランクは町の奉仕と言った内容が多く、Fで草原の討伐依頼、Eで採取依頼、Dでやっと森の討伐依頼が受けられるようだ。
まああくまでも推奨ランクだから受けようと思えば受けられるのだが推奨外の依頼が失敗した場合、罰金とペナルティを受けるそうなので今はやめとくことにした。
何事も地道にだ。それにGランク依頼は町の人から信用が得られそうだからそのうちやろうかな。
組合から出て、朝独特の雰囲気を楽しんでいると案外、時間が経っていたようで日の出の時間だ。
同時に5時となったため、急ぎデパートへ向かい小瓶を購入した。
草原の私可愛いよとアピールしているウサギどもを無視して数分、朝焼けに包まれた森へと到着した。
何故か森一帯に水滴が付いている。草木の香りと青くキラキラ輝く森は実に神秘的な雰囲気を醸し出していた。
水滴に近づいてよくよく観察するとそれは青い色水の様に加えて、銀の粉末でも入れたのかと思うほどに光を反射してきらきらとしていた。
ソロモンに読まされた本の山には観光本も入っており、この町の“朝の草露”が紹介されていた。なんでもこの森は夜、湿気を伴った寒さが襲うらしくそれによって霜がつき、朝には露となるのだとか。
“朝の草露”は光の屈折が180°に近い特殊な水で別名“水鏡”とも呼ばれるらしい。特別何かがあるわけでさなく、屈折率が凄いだけの水なので希少性はそこまでないとか。
ちなみに朝の草露の由来なのだがこの液体、異様に蒸発速度が速いようで太陽が上がると同時に霜が溶け、15分後には蒸発するという早朝にしか存在できない液体であるところから来ているらしい。
木の葉に乗る水滴を小瓶に出来る限り入れ、予想より量が多く、すぐに満杯となってしまった。
一応依頼の品なのか確かめる為に解析をかけるとしっかり“朝の草露”と表記されており、目標は達成した。
さて、これで依頼は完了なのだがせっかく森に来たのだし、行かないのはゲーマーの名折れだろう。
なに、情報ならある。食料は魔物を狩って食べればいい、なんならストレージに肉あるしね。懸念すべきことは何もない。さぁ行くぞっ。
木漏れ日が朝の草露を照し、光で満ちた森の中。
日の出からたった15分間だけ見ることが叶う、幻想的な景色である。そりぁ観光本に載ってるわけだわ、思わずボクも魅入ってたからね。
さてと、気を取り直してだ。
この森に出てくる敵は煽栗鼠、粋栗鼠と森緑狼だ。
人面怨樹は“呪怨塗れた洞窟”近くにしか生息していないのでそこまで気にしなくていいだろう。
こいつらで一番気をつけなければならないのは煽栗鼠である。こいつは名前通り煽ってくるのだがその妙にこちらを刺激する踊りは“ターゲット固定”の効果があるらしく、モーションアシストを付けてるやつらは剣を振ると勝手に吸い込まれていくので“某メーカーの吸引力”などとも呼ばれている。
アシストなしでも煽栗鼠が見えなくなるまでそいつ以外に攻撃できないという面倒な敵だ。
とは言え、所詮は栗鼠。出会ったとしても非常に脆く。
「えいっ」
踏みつけただけで倒せる雑魚である。というか、戦闘終了のインフォすらこないほどの雑魚で最早敵とすら見做されていない。真面目に戦えば戦闘扱いになるのだろうが遭遇率が多いのでそこまで構っていられない。
あっという間に15分は経過したころにはドロップの尻尾が60を超えていた。その間、他の魔物と出会うことはなかった。
ここ、栗鼠の森に改名した方がいいんじゃないかな。
「栗鼠はもう飽きたなぁ……おわっ!?」
何気なく遠くを眺めていると光の塊のようなものが目の前に飛んできた。驚いて後退りするとソイツの名前が見えた。
〈光臨蝶:レベル0〉
光臨蝶か。妖精の一種で欲深いものの前には出て来ず無欲なものに幸運を与えるものとして有名だけど、掲示板に書いてあったけどまさか実物に会えるとは……。
手を差し伸べてみるとひらひらと光の鱗粉を撒きながら人差し指に止まった。
この蝶、羽が光で出来ており、様々な色に変わることから極彩蝶などとも呼ばれる。
説に拠れば色が変わるのは感情だとか、会話だとか言われているがまあどうでもいいか。ちなみにプレイヤーからは、ゲーミング蝶々、幸運の残り香などと呼ばれている。
ボクは大人しい光臨蝶を様々な角度からスクショすることにした。
さて問題が起きた。突如、光臨蝶が飛び立ち、何処かへ行くのかと思いきや、空中で静止したのだ。
ボクが何処か行こうとすれば目の前に立ちふさがり、近づくと何処かに飛び立つ。
これは──。
「何処かへ案内しようとしてる?」
試しに着いていくと時たま、着いてきているか確認するように止まる。
先程までは人の手が入っていたのだが行手を阻むような木もあり、明らかに奥地へ向かっている。木を短剣で切り払い、光臨蝶に着いていくと木々がない開けた場所に出た。
そして広場の中央には異質な黒い球体が浮かんでいた──。
【Tips:魔物】
この世界の動物全てを指す言葉です。精確には魔素から魔力を生み出す魔石器官があるものを呼ぶ言葉ですがこの世界で魔石器官を持たぬものはいないため実質的に動物全体を呼ぶ言葉として間違っていません。
魔石が成長すると魔物は魔獣となることがあり、また魔石がなんらかの影響を受けて変容すると肉体が別の種族となることがあります。
感想が来ると作者が狂喜乱舞してリングフィットアドベンチャーをやります。
次回、『12 異質』。




