8 夜空の町、朝空の町
※この物語は不定期投稿です。
── 始まりの町エイネル 東大通り ──
◇
《ログインしました。》
少しゴタゴタはあったが朝食兼昼食を済ませて戻ってきた。現在ゲーム時間午前一時とだけあり、町は真っ暗……ではなく、月明かりと街灯が優しく町を照らしていた。
「開いてるのは組合と図書館ぐらいかな……」
買い物したかったがこの世界にコンビニエンスストアなんてある訳がない。いやデパートあるからありそうだな、うん。
さてどうしようかと大通りをぶらぶらしていると東大通りの広場付近まで来ていた。
夜でも目立つ時計塔の側にはベンチが設けられており、異邦人たちが住人に配慮しているのか静かながらも楽しそうな表情で会話をしている。
「良い雰囲気だなぁ」
よし決めた。ここでしばらくのんびりと過ごそう。元々目的やら目標なかったからいいよね。
空いているベンチに腰掛け、数分ぐらい惚けながら星空を眺める。
夜風が優しく頬を撫でていく。穏やかな時間。周りの話し声もよいBGMとなって少し眠くなってしまう。
「夜だとやれることは無さそうかな……ログアウトして1時間後に来よっかなぁ」
そうは言っても中々ログアウトする気にはなれない。居心地が思いの外、良かったせいなのだろうか。
折角暇なのでこれからのことを考えてみることにした。TRP:Gはワールドクエストやメインクエストなどというものがない。故に何かに引っ張られて行動することなんて事件に巻き込まれない限りない。
強いて言うならば『この世界で生きること』だろう。何気ない日々の生活がストーリークエストということなのかもしれない。
とは言っても目標が無ければ人間は堕落していく。
出来れば何か目標が欲しいところだ。
「目標……目標か」
ここは趣味から繋げていくのが妥当だろう。ボクの趣味は旅行にゲーム、読書と運動か。まぁこの中だったら旅行かな。この世界を旅すること、観光とかを主目標としよう。
もう一つくらい行動の指針が欲しいから……そうだね、ひとまずは精霊と契約することにしようかな。
よし、決まった。そんじゃ一旦ログアウトしよっと。
《ログアウト処理完了。お疲れ様でした。》
◇
── 始まりの町エイネル 東大通り広場 ──
《ログインしました。》
一時間半ほど家の事をやって再びログイン。そして精霊術の熟練度を上げる為に既に開いていたデパートでとある物を購入し、町を巡ることにした。
町を巡ることが精霊術にどう繋がるかと言うと精霊術とは精霊という自然そのものが意思を持った存在に歌を捧げる儀式から発展した術だ。
声に魔力を込めることで意思を持たない精霊、微精霊を周りから呼び寄せることができ、詠唱通りの現象をMP消費と引き換えに起こすことができる。
ただ繋がり、縁とでも言えばいいだろうか。結ばれている縁が弱いとMP消費が激しくなる。要は好感度が上がると精霊術も強化されるということ、つまり今回はこの町に居る精霊と縁を結びにいくのだ。
また契約というのがより深く縁を結ぶ行為らしく、契約すれば少ないMPでも強力な攻撃が出来るようになる。
そして本題だが精霊は人類と共に歩んできた言わばパートナーだ。基本的に警戒されることはなく人懐っこい。過去作ではひょこひょこと悪人の前に現れて攫われてしまったこともあった。まぁ到着した頃にはもう悪人は倒されてたけど……強力な力を持つが故の慢心なのだと思われる。
しかし精霊というのは深い絆を結んだ相手ではないと契約をしたがらない。言ってしまえば契約というのは精霊にとっては結婚のようなものだ。どちらの意思でも破棄出来るがそれは縁を捨てることと同義、精霊にとって縁というものは大切らしくあまり契約も破棄もしたがらない。
というわけで精霊術は割と不人気らしい。契約しなければ魔術の機能限定劣化版でしかないからね。ボクからしてみれば魔術は難解過ぎてただ仲良くするだけでいい精霊術は楽で良いんだけど。まぁ人それぞれということか。
仲良くなるとは一言で言っても下位の精霊は一方通行でしか言葉が通じない。それでも話している内に仲良くなれるけどその肝心な下位の精霊を呼び出すには何をすればいいか。
それは単純明快、精霊術を使えばいいのだ。人が頼ってくれてるという気配を感じるといつのまにか現れるのだ。
ボクは大通りを抜けて民家街の方へ、そして町を巡っている水路は川へと変わり砂利道で足を止める。さらさらと流れる水は朝日にさらされ、きらきらと光を乱反射させている。
どうやらこの緩やかな川が流れているところにこの町は作られたらしく、水中には何かが泳いでいる姿を見かけた。
「よし、ここら辺でいいかな」
下位精霊を呼び出す前段階、微精霊と一緒に遊ぶことにする。残念ながら精霊術のパッシブ効果では微精霊を目視することは出来ないが自然が豊かならば精霊はそこに居る。
そして精霊術のパッシブ効果は精霊術の消費MP軽減、しかし精霊語の使用も含まれている。
精霊語とはより正確に言えば精霊に捧げる歌、つまりは精霊が喜ぶ歌である。普通に喋っても言葉は通じるからね。
『水は踊り狂い、風は葉を靡かせよう』
歌い出すかのように言葉を紡ぐ。口に発するごとにMP消費がされ、ここまでで5点は消費されていた。
しかし効果は確かにあったようで水は明らかに流れを無視して小さな渦を作り出し、穏やかな風が近くの木の葉を揺らし去る。
どうやら興味を少し引けたようで何処からか視線を感じた。この温かな気配は人間ではなく、精霊のものだ。
「よしよし、じゃあ本格的に遊ぼうか」
レザーアーマーを脱ぎ、ストレージに仕舞うと次は服を一瞬で脱ぎ去る。服が何処かへ消えるとボクは下着姿、ではなくウェットスーツ姿になっていた。
事前に着替えて置いたのだ。さすがに戦闘用のものは高過ぎて買えなかったがそれでも割と高価な魔物の素材を使っているらしく良いお値段がした。
おかげで所持金は1000ギルほどになったけどボクは後悔も反省もしていない。最悪、食料は兎狩って食べればいいからね。
さて先程の遊ぶと言ったが精霊は人類の友、友達とは遊べば仲良くなるだろうと水辺で遊んでみることにしたのだ。
まぁ根拠はない。過去作でも聞いたことはないのだが子供は精霊と仲良くなりやすいという情報がある。
そう、遊びの中で仲良くなれるのは人も精霊も同じなのであると判断した。
川の中に入る前に腰まで伸びる髪を纏めてお団子ヘアにしておく。川に入ると精霊も遊びたかったのか、水を被せ、すぐに全身ずぶ濡れになってしまう。いやぁ、買ってよかったウェットスーツ。
「冷たっ!? やったなぁ? とりゃ!」
お返しに気配を感じる場所に水を掛けると精霊は驚いたような気配を感じると同時に楽しそうにも感じれる。
精霊術で周りの微精霊にも応戦してもらいながらも水掛け合い合戦をしばらく続けることとなり、ボクはついに──。
──スキル《 川の精霊の加護Ⅰ 》を獲得しました。
加護を手に入れた。
「え?」
【Tips:精霊】
自然の化身。大いなる自然。人類の友と呼び慕われる存在です。非常に人類に友好的で、善く接されば同じく友好的に、適当に接すれば何処かへ去ってしまうか、痛い仕打ちを返されることになります。
仲良くなれば誰でも精霊の加護を得ることができ、精霊の属性に応じた効果を受けることができます。
加護とは精霊の好意であり、同時に精霊に認められたという証拠でもあるため、信用の証として使われている地域もあります。
水着回です。特段描写してないし、ウェットスーツなんですけど水着回です。
まぁ本当の水着回は湖や海にライムが行った時です。この章が終わればきっと……きっと!
アップデート情報
・素手の攻撃力が表記されるようになりました(筋力×5)
・素手の影響力が表記されるようになりました(魔力×5)
・攻撃力影響力防御力抵抗力が表記されるようになりました。
◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇
【ライム】
【経験点】20
【所持金】1250ギル
【特殊スキル】
【狂鬼(討伐する度にランダムバフが付与される)】
【加護】
【川の精霊の加護Ⅰ(水流の影響が少なくなる)】
【知識】
【解剖学(解体などに補正ボーナス)】
【スキル】
【手技Ⅰ(手に関する行動補正)】
【研究心Ⅰ(名前を見破ることがある)】
【精霊術Ⅰ(精霊術による魔力消費低下)】
【解体Ⅰ(討伐時に死体が残る)】
【弱点看破Ⅰ(相手の弱点を見破る)】
【アーツ】
【手技:魔力放出Ⅰ(武器の保護や能力上昇)】
【研究心:解析Ⅰ(時間をかけて情報を読み取る)】
【能力パラメーター】
【HP(21/21)】
【MP(0/10)】
【SP(5/10)】
【EP(10/35)】
【総合力(7)】
【筋力(1)】
【体力(1)】
【魔力(1)】
【技力(2)】
【速力(2)】
【物理攻撃力(5)】
【魔力影響力(5)】
【物理防御力(0)】
【魔力抵抗力(0)】
【重量制限(0/10)】
【ストレージ(10/10)】
【ユニオンカード×1】
【丈夫な縄×1】
【草原兎のもも肉×1】
【草原猪の毛皮×2】
【草原猪のバラ肉×3】
【草原猪のヒレ肉×1】
【草原猪のモツ×1】
【草原猪の魔石×1】
【アイアンダガー×1】
【レザーアーマー×1】
【装備】
〖武器:アイアンダガー(25)〗
〖防具:レザーアーマー(20)〗
〖服装:異界渡りの服(0)〗
【称号】
【初めての戦闘】【初めての不意打ち】【突撃の裏切り】【外道行為】【不可視の襲撃者】【繊細な狙い】【狂気の娘】【鬼畜行為】【慈悲者】【必殺解体人】
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