第2話 帰り道
帰り道、今にも泣き出しそうな思いをこらえ、唇をぐっと噛み締めながら電車に乗った。
いつもなら気にならないのに、携帯を楽しそうにいじっている女の子に目がいく。
…彼氏とメールしてるのかな。
私は翔太にメールしてあげないんだから。
大きなショッピングバックを片手に友達とおしゃべりしている大学生。
…ふぅん、明日は授業で朝早いんだ。
私なんてもっと早いよ。
軽く帰りに飲んだのか、顔が赤くなっているサラリーマンからお酒の匂いが漂ってくる。
…臭い。早く降りてよ。
私だって今日翔太と飲むつもりだったんだからっ。
やっと最寄の駅に着いて、とぼとぼと歩き出した。
今日はご飯どうしよう。
冷蔵庫に何か入ってたかな。
卵に…ソーセージに…レタス、トマト…あと冷凍食品があったはず…
それかコンビニに寄って…
うつむき加減だった顔をパッとあげて、右手に見えるコンビニを見る。
その時、ガラスに反射した自分の姿を見て、一瞬立ち止まって、目を見張った。
そこには仕事が終わって、急いでメイクした顔とブルーのシャツが寂しげに映っていた。
「…何してるんだろ、私…」
視線をはずして、震えるまぶたを閉じる。
そのまま虚しくて、虚しくて帰路を走り出す。
なんでっ
なんでっ
絶対に来るって言ってたじゃない!
先に帰っててって何っ!
待ってるのわかってたんでしょ!
ちょっと連絡出来なくっても、残業で遅くなっても、待ってて当たり前ってこと?
何それっ
私ばっかり待って
私ばっかり会いたいみたいじゃない!
「ハアハア…なんでっ…なんでっ」
会いたいのに…会って話したいのに…
次のデートの話だって
誕生日の予定だって
会社の先輩の話だって
いっぱい、いっぱい話したい。
抱きしめて欲しい。
キスして欲しい。
そうしてくれたら、なかなか会えなかったことも、悩んでることも忘れられるのに…
また明日から仕事頑張れるのに…
また翔太に会える日まで待てるのに…
「うわぁぁぁぁぁんっっ」
寂しくて
寂しくて
涙がボロボロと頬を伝い、乾いたアスファルトに染みていく。
「翔太のばかっ!私のばかっ!ばかっ!」
道端に座り込んだ私の頬を触って、風がふわっと駆け抜けていく。
この日の晩、ご飯も食べずに泣き疲れて寝てしまった。
朝起きて、翔太から「ごめん」ってメールきてるかなって思ったけれど、受信ボックスにはニュースしか入っていなかった。
ショックというか感覚がマヒしていて、その時はただ
「仕事に行かなきゃ…」
って、ぱんぱんに腫れ上がった顔を叩いていた。
翔太がデートをドタキャンした次の日から、私も翔太に連絡するのをやめたんだ。
<つづく>