プロローグ
※この物語はフィクションです。
※基本、主人公の一人称視点です。
チロリン王国は東の人々から『蓮池の国』と呼ばれていた。
ーーー 一見、美しい花々が浮かび上がっているが、少し覗き込むと汚い泥が見える ーーー
蓮というのは泥沼に咲く花らしく、
この国の貧富を表す皮肉の言葉だそうだ。
事実、貴族や平民が暮らす明るい社会のすぐ横で、今にも倒れそうな子供や、裏社会の人間が住み着く黒い路地が見え隠れしている。
そんな路地にこの物語の主人公、テトラもまた暮らしていた。
テトラは少なくともここ3年、麻薬の売人をしている。
この世界の恩恵、耐性スキルが効かない薬なので、もちろん違法行為だ。
だがテトラが薬を売るのには理由があった。
簡単な話、両親も売人で1番金になるのがこれだからだ。
テトラの両親はテトラを酒瓶で殴ったり、首を絞めてくるような奴らだったが、テトラはそんな両親が嫌いじゃなかった。
生活をするために薬を売らなくてはーーーー
テトラは毎朝、そんな事を考えて目覚め、石段から起き上がる。そして、我が家のドアを叩いて『おはよう』を言い、薬の入った麻袋を持って行く。
夜中に母が詰めてくれている、大事な商品だ。
大通りに出て左に曲がり、しばらく行った噴水広場の横手の裏道。
そこがテトラの持ち場で"シマ"だった。
だがそれも、今日で終わりのようだ。
テトラは今朝、身体がふるえ、腕や足に赤々とした水袋ができていた。
不安に駆られ、ドアを何度も叩く。
怒鳴り声とともに現れた久しぶりの両親の目は、怒りから驚き、そしてゴミを見るような色に変わっていった。
そのあと覚えているのは口いっぱいの血の味だけである。