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とりあえずお試しから

 そんなこんなで一日目が終わった。

 会議の後、客間に通された私に生活用品の使い方を教えてくれたのはかわいい兎耳を垂らした女の子で、名前はラビファというそうだ。


「よろしくお願いしますなの」


 ぴょこんと頭を下げると、大きな耳も遅れて垂れる。すごくふわふわそう。ああ、モフモフしたい。ロップイヤー可愛すぎる。ウサギいい!

 実は子供のころにウサギと暮らしていたんだよね。あの子はロップじゃなくて小型のネザーランドドワーフだったけど、可愛かったなあ。

 ラビファをみていたら不覚にも泣きそうになってしまった。いかん。


 生活は思ったより快適だった。

 水魔法が進んでいるとのことでトイレもお風呂も元の世界と同じ水洗だったし、食事も好みの問題ってだけで不味くはなかった。ベッドも思ったよりふかふかだったしね。

 異世界に飛んでまずこれらが心配だったのでクリアできたのは素晴らしい。

 戻れないなら少しでも楽しく暮らしたいもんね。

 何より若返って人生再スタート的な感じだし!

 テンションが下がったらいろいろと泣きたいことも出てきそうだけど、とりあえず寝よう。

 私は幸せな気持ちで目を閉じた。




 次の朝、早速瘴気を見に行くことになった。

 瘴気は領地の外れ、隣の国との国境にある森の一画で確認されているらしい。

 そこは樵さんたちが休憩所にしている小屋のすぐ近くで、最近になって岩の隙間から黒い霧がわくようになったそうだ。

 最初は気にしていなかったけれど、霧に触れた樵さんが体調を崩して寝込み、その後も数人が働けなくなってしまった。

 ゆっくりとわいているので町までは被害が届いていないが、霧が広がり始めているため、小屋は使えなくなってしまい、そのせいで森に入れない生活が続いているそうだ。。

 領主さんの国は林業がメインで、良質な木材を輸出しているため、木が切れないと生活に響く。森も定期的に手入れしないとよい木が育たないので、できれば早めに浄化してほしいと言う。


「幸い、まだそこまで大きな瘴気ではないので、お試しに行ってみよっか?」

「オッケー! とりあえずやってみないとね!」


 領主様が軽いノリで言うので、私も軽くOKした。ま、何事もやってみなくては。

 後ろで課長(仮名)が大きく溜息をついたのは聞かなかったことにした。




 というわけで、森に到着。

 領主様はお仕事で手が空かないからと、課長(仮名)とおじさん数人がついてきてくれた。

 おじさんたちは騎士様、と言いたいところだけど、それにしては肉付きがよい。なんだろう、たとえて言うとマトリョーシカ体型? すごく親しみがわくのは気のせいだろうか。


 それにしても領主様、自分が来ないからあのノリだったのね。素敵な性格だ。後でぜったいしばく。

 気の毒なのは責任者にされた課長(仮名)だろう。小屋が近づいてくると露骨におびえだした。それでも逃げないのはえらい。多少中間管理職の悲哀を感じるけど。


「あそこが小屋です」


 おじさん1が指をさした。

 おじさん1.2.3、と呼ぶのも申し訳ないので名前を聞いたら、イチフジ、ニタカ、サンナスビというそうだ。どう突っ込んでいいのやら。とりあえず1.2.3でいいか。

 ちなみに課長(仮名)はカチョ=フゲツさんというそうだ。読みだけなら(仮名)ではなかったよ。

 家名があると庶民ではないとのことで、私も最初は貴族だと思われていた。元の世界は庶民でもみんな家名が付くんだと言ったらびっくりしていたな。


 小屋は墨を塗ったみたいに真っ黒だった。

 小屋だけではない、周りにある道具までもが黒い。塗料をぶっかけてそのまんまみたいな黒さだ。


「うわあ、黒い」

 うっかり呟いたら、カチョさんたちは首をこてんと同じ角度に倒した。同時だったのでなんかの体操かと思ったよ。


「黒いですか? 私にはただの木の小屋に見えますが」

 みんな不思議がっている。


 そういえばこの辺りすごく霧が濃いのだけど、それも気づいてないっぽい。聞いてみたらなんとなく靄がかかってるなあくらいだった。怖がらせてもアレなので、言わないほうがいいかもしれない。


「とりあえずこの辺りを浄化してみましょうか。どうしたらいいのか教えてもらえますか?」


 このまま霧を吸っていたらカチョさんたちの心身に不調が出るかもしれない。

 ふと見ると、早くもニタカさんの目がおかしい。サングラスをかけたみたいに目の周りだけが黒い。

 あ、サンナスビさんの禿げかけた頭、黒くなってる!? ちょっと見カツラっぽくなってるけど笑っちゃダメ。

 ちょっと焦っていると、カチョさんが荷物から古い本を取り出した。


「前聖女様方の記録です。普段は聖女様がいるだけである程度の瘴気は晴れますので浄化の必要はないとのことですが、緊急を要する際に唱える瘴気を払うための呪文がこちらに書いてあります」


 ふむふむ。

 読めるかな、と覗き込んだ本は、全部ローマ字だった。

 う、うん、時間かければ行けるけど、これ読むの大変だなあ。

 というか、ローマ字かよ! ハングルとかじゃなくてよかったけど、ローマ字って……。


 まあいい、読めるのはありがたい。

 私は呪文のページを読んだ。


 テーレッテレー!

 サカキ・メイは浄化の呪文を憶えた!


 頭の中で練ったらおいしい駄菓子を作る魔女が浮かんで消えた。






読んでいただいてありがとうございます。

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