踊らない会議もある
会議(?)はスムーズに進んだのですぐに終わってしまった。
領主様(社長っぽいおじさまはやっぱり領主さまだった)の話だと、実は聖女召喚、1月ほど前に王城で行われたらしい。ちなみにここは王城から100キロほど離れた辺境だそうで、座標のいい加減さにくらくらしてしまった。まあそういうファジーなところもファンタジーなのかもしれない。
というか、よく無事に召喚されたな、私。
いろんな意味でやばかったとしか……。
うん、幸運だと思おう。
聖女の仕事は「この国の瘴気を払うこと」だそうで、こちらはまあ、テンプレだな。
瘴気というので魔物がらみなのかと思ったんだけど、どうもそうだとは言いきれないらしい。
「魔物がいる場合ももちろんあります」
と、ぽっちゃりころんなおじさんは言う。
瘴気は魔物が生み出しているのではなく、いろんなマイナス成分が凝り固まってできているのではと言われているんだって。
言われている、ってところがなんだかなあと思うけど、調査が進まないくらい危険なものなのかもしれない。ぽっと出の私が文句を言えるものではないわね。
で、具体的に何をするのかと聞いたら、そこにいればいいと言う。
「聖女様が瘴気の濃いところに行って呪文を唱えますと、瘴気が集まってきて結晶化します。結晶は純度の高い魔法石になりますよ」
「魔法石?」
ファンタジーっぽい、というかテンプレね。
「ええ。小さな魔法石でもこの砦を1年回せるほどのエネルギーがあります。できればたくさんあるといいですねえ」
いいですねってあなた、一財産稼げってことか。待てコラ。
というか、ここにいたら生きてるだけで富豪になれるのねえ。生きてるだけで丸儲けを体現するなんてそれはそれですごいな、うん。
「そして、ここが一番申し訳ないのですが……」
おじさんが口ごもったことで、ぴんと来てしまった。
「帰れないのね」
我知らず喉が鳴る。
鏡がなくてよかった。大変情けない顔をしているに違いない。
おじさんたちは私の顔を見ないように目をそらす。いろいろ辛いのでやめてほしい。
「はい……。おそらく、ですが、聖女様がこの地で幸せに暮らしましたという伝説は残っているのですが」
「ですが?」
「……、もとの世界に戻りましたという話は全くありません」
やはりか……。
右手を目に当てて呻く。
「あ、でも、帰ったから記録にないってこともあるのかもしれないですよ。気を落とさずに」
落とすわ!
と、叫びたかったが我慢した。私は大人だ。召喚したのがこの人たちでないって話が本当なら、八つ当たりになるから我慢しよう。
というわけで、王城に行ったら召喚者を一発殴る! 首洗って待ってろよ!!
私はひそかに決意した。
読んでいただいてありがとうございます。