二回目は観光地とな!
というわけで、次の朝、さっそく瘴気があると言う場所を教えてもらった。
「ここと、ここが今のところ最大かな」
領主様の執務室の壁にかかっている大きな地図に赤いピンで印をつけながらマー君が説明してくれる。
印をつけているほうは辺境伯領の地図だけど、隣にはこの世界の地図が一回り小さい紙に書かれて貼られていた。こうしてみると王都はここからかなり離れている。どんだけ座標間違えたらここに着くんだ、と魔術師の腕に残念さを感じた。そういえば時間軸も間違えてたんだっけ。ドジっ子か?
しかし、こうして見ると辺境伯領にはたくさんの瘴気だまりがあるなあ。
マー君は手にしたメモにある場所にせっせとピンを刺している。こうしてみると隣国との境目に多いようだ。境目に溝でもあるのかね?
その中でもマー君が示したのは砦から割と近い大きな山の絵の真ん中あたりだった。山の反対側は隣のルスツ侯爵領になるらしい。
「ここまで行くの大変そうだね」
山の中腹かあ。富士山だったら四合目くらい?
今の体なら歩いても苦にならないかもしれないけど、体力的にどうかなあ……。
そんなことを思っていると、マー君はにやあっと笑った。
「大丈夫。ここ、うちの領地で数少ない観光地だから」
数少ない言っちゃったよ!
まあ、領主の息子のお墨付きなら問題ないだろう。砦からも近そうだし、さっそく荷造りしますか。
荷造り、と偉そうに言ったけれど、よくよく考えたら私物何も持ってなかった!
着替えも毎日ラビファからもらったものだったよ……。
いいんだ、資産のない生活だけど生きていける! 食べ放題確約でよかった。
そんなわけで何も持たずに待っていたら、大荷物でふうふう言いながらタッちゃんがやってきた。昨日は王都帰りだったからかすっきりしたシャツとズボンだったけど、今日はがっつり着込んでいる。さらにタッちゃんの身長の半分くらいある大きなカバンはめちゃくちゃ重たそうだ。いったい何入ってるんだ?
「おはようございますー」
とりあえず挨拶すると、すごい目で睨まれた。
「なんで何も持って行かないんだ!?」
「へっ!?」
「それにその恰好は何だ!? 瘴気だまりに行くんだぞ!それなりに防護する服とかいろいろ準備があるだろうか!!」
肩で息をしているタッちゃん。なるほど、あの大荷物は鎧とかマントとかいろいろ入ってるわけだな。というか装備着込んでいるのにまだなんか持っていくのか? 偉そうな男だと思ってたけど、意外に繊細なのかもしれない。
私は先日、イチさんたちと瘴気を見に行った時のことを思い出した。
……、うん、みんな着の身着のままでした。むしろ軽装?
「こないだ行ったときはみなさん特に何の準備もしてませんでしたよ?」
「へっ!!?」
「領主様、めっちゃ軽いノリで『まだそこまで大きな瘴気ではないので、お試しに行ってみよっか?』って言ったし」
「うっ」
「まあ、一緒に来てくれたカチョさんたちは普通にびくびくしてたけどねえ」
「……、あああああ!!」
その場にへたり込むタッちゃん。
「父上……。せ、聖女相手になんてことを……」
頭を抱えて呻いている。
なんだか可哀そう。長男と言っても言ってて25くらいだろうし、王都から急いで戻ってきた次の日にこれじゃ気苦労も多いのかもね。
それによく見たらタッちゃん以外の人は誰もいない。こないだはカチョさんだけでなくおじさんたちが三人ついてきてくれたんだよね。タッちゃん、跡取りだと思うんだけどこんなラフな扱いなのかしら?
「ところで、今回の連れはタッちゃんだけでいいの?」
「タッ、タッちゃん?」
「あ、ごめん、タークさんだけ?」
心の呼び名が出てしまった。マー君は本人も納得して確定だからいいとして、タッちゃんは昨日会ったばかりだし、なにより跡取りだもんね。あまり親しく呼ぶのはまずかろう。
などと思っていたら、なぜかタッちゃんはほっぺたを赤くして横を向いた。
「タッちゃんでいい」
腹筋が六つに割れてそうなしっかりした肉体の若い男 (そこそこイケメン) が顔を赤らめてチラチラとこちらを見ている。
尊い……。
萌え死にするかと思った。
話し合いの結果、タッちゃんは軽装に着替え、荷物も軽くして現地に向かうことになった。だって砦の魔法石、私の記憶が確かなら残り5日でピンチだ。近いとはいえ現地まで半日は馬車に揺られると聞いたから馬の負担にならないほうがよかろう。
荷造りをしていると小さめの馬車が来た。馬車の前にある小さな御者台には小柄なおじさんが座っている。初めて会う御者さんで、ピピーンと言う名前だそう。
「馬はヒヒーン、私はピピーン。みんなの御者さん、ピピーンです、オッケー♪」
明るいおじさんだ。ちょっとだけラーメンイケメンの人を思い出した。おじさんはかわいいタイプの人だけども。
馬車は4人乗りで対面になるように作られている。進行方向向いてないと酔いそうだったので、先に乗らせてもらった。
乗るときにタッちゃんが手を貸してくれるが、お手をどうぞタイプの手ではなく、ひょいっと子供のように腋に手を当てて持ち上げられたのがなんとも残念だ。いや、たしかに入り口高かったから台が必要だったけどさあ……。
「あ、やべ」
中でぶつぶつ言ってたら、タッちゃんが飛び込んできた。
「ピピーン、ダッシュ!」
「アイアイサー!」
唐突に馬車が動き出す。
「そうはさせーん!!」
いきなりの加速でシートに押し付けられていると、扉が開いて誰かが飛び込んできた。
「あ、マー君、おはよ」
若者は元気だなあ。
そんなことを思っていると、マー君はタッちゃんの頭をげんこつで殴った。
「ターク兄の馬鹿!」
なぜかマー君、ご立腹らしい。肩で息をしながら、ぷりぷりした顔をしている。
「あ゛? 何がバカなんだ?」
「今回の遠征は俺がついてくから砦で待ってる約束だっただろ? なんでメイと一緒に馬車にいるんだよ? しかも俺を見つけたら急いで走らせるとか、信じられん」
マー君、とっても饒舌に怒っている。
話を聞いていると、どうやら夕べ、兄弟三人で浄化についていく順番を決めたらしい。
まずはマー君が行って手順を調査し、その後カッちゃんが安全を確認し、最後にタッちゃんが次期領主として見学ということになっていたそうだ。
それなのに、ということなんだろう。まあマー君は最初に仲良くなったから私も一番気楽なんだけどね。
「だって、見てみたかったんだから仕方ないじゃんか」
「仕方ないって……、まったく、カーク兄になんて言ったらいいか……」
「ああ、大丈夫ですよー。私もいますから」
頭を抱えているマー君の後ろ、御者台のほうから新たな声がした。
「カーク!」
「カーク兄!」
「よかった。私達三人、ちゃんと兄弟でしたねえ。はっはっは」
どうやらピピーンさんの隣にはちゃっかり次男がいるらしい。
「な、何でカーク兄まで!?」
「そうだ!帰れ帰れ!」
「いやあ、二人で楽しそうなことしてるなーって思ったらつい。いいじゃないですか。みんなで楽しくいきましょうよー」
……。
なんだこの兄弟、仲良しだな!
って、んなわけあるかーい!!
「ピピーンさん、すみません。ちょいと馬車止めてください」
「はーい♪」
「そしてそこのカッちゃん!さっさとこっちに来なさい!」
「「「か、カッちゃん???」」」
あ、心の呼び名が駄々洩れしてしまった。まあいいか。
それから現地に着くまで約三時間、私は目の前と横にいる三兄弟にきっちりと説教をしたのだった。
読んでいただいてありがとうございます。
ちょっとタイトル替えました。特に問題はないのですが温泉ネタは次回でした。すみません。
風邪でダウンしてすっかり寝込んでしまいました。今は風邪で病院に行くと医者に「風邪の患者なんか診たくない」と言われますよ(実話)
皆様ご自愛くださいませ。




