魔法石に乾杯を
私は今、やっと戻してもらった自分の部屋で魔法石に向かい合い座っている。
目の前には領主様の部屋からいただいてきた高そうなお酒(渡しながら地味に涙ぐんでいたな、領主様)が二つのグラスに注がれている。
それと一緒にあるのはポッキーとチョコレートとピスタチオ。
瘴気を払った時を思い出して魔法使ったら出てきた。多分このお酒に合うつまみなんだろう。
「黒さん、ごめんね。ここでお別れになったよ。でも責任もってお持ち帰りしたから許しておくれな」
言いながら、カチンとグラスを合わせる。
魔法石の上に少しだけお酒をかけると、すぐに吸い込んできらきらと輝いた。
「石になっても酒が好きとは、さすがだわ」
私はというと、下戸だからちょっとだけ口をつけた。
うわあ、すごいアルコール臭。これだけで酔いそう。
「石が入るグラスがなかったんで、これで許してね」
グラスの酒を全部かける。石は脈打つみたいに震え、瞬いた。それだけ見てると生きてるみたい。
「ずっと連れていきたかったんだけどね。ここの人が困ってるの、見過ごせないんだ。黒さんと同じで、良くしてくれたん。だから、自分のできることをしたいと思う」
石が答えるわけないんだけど、言葉が止まらない。
「黒さんの石があったらね、このお城の魔力が回復して、とても助かるんだって。実はもうすぐ魔力が尽きちゃうところだったけど、言えなくて困ってたっていうのよ。笑えるよね。説明してくれたらすぐに渡したのに、へんな要求突き付けてきたから年甲斐もなく切れちゃったよ。まあ私も意固地になってて悪かったんだけどさ」
つまみと一緒に出したグレープフルーツジュースを飲む。ちょっと苦い。今の気分にぴったりだ。
「私は自分のことを守りたかったんだと思う。でもそれってさ、ただの頑固だったのかもしれない。私はここに召喚されて、一方的な誘拐だって腹を立ててたんだけど、ここの人たちにとっては私の存在が救いなんだってさ。笑っちゃうけど、そんなこと言われちゃったら張り切っちゃうよね」
誰かに聞いてほしかったんだと思う。
マー君とかベアモンとか、仲良くなった人はいるけど、まだこんなこと言えないもんね。
黒さんとは、まあ少し話ししたってだけの間柄だけど、お互い深いところまでさらけ出しちゃった感じだし、今更取り繕っても感はある。
「だからさ、頑張ることにしたよ。ここのために。ほら、話したじゃない。とりあえず今できることを全力でやっていこうと思ってる、くよくよしたり怒ったりところで結果は変わらないなら、楽しくやっていきたいなって。そのために、黒さんの魔法石をここで使ってもらうことにした。だからお別れになる、ごめん。でもしばらくここに留まるつもりだから、一緒にいられるね」
ふふふ、と笑う。
精一杯明るく言ったつもりだったのに、気が付いたら、涙が一滴落ちた。
「魔法石渡したら、私、どうなるんだろうなあ? 実は怖いよ」
魔法石は私の中で保険みたいになってたのに今気づいた。これさえあれば大事にしてもらえる、みたいな打算がなかったとは言わない。私しか作れないんだと驕ってたのだろうな。
それがなくなったら、ここにいられるのかなあ?
「聖女は瘴気を払う存在なんだって。いるだけでいいんだって聞いてたけど、やっぱりそれだけじゃ存在価値ないよねえ」
なんで私なんかがここに呼ばれたんだろう?
一つ落ちたら止まらなくなった。アルコールのにおいだけで酔ったのかも。私、泣き上戸なんだよね。薬酒で酔って泣きながら親に絡んだ記憶がある。そんな親とももう会えないんだよなあ。
いろいろ思ったらどうしようもなくなった。
私は自分の体を抱きしめて泣いてしまったのだった。
読んでいただいてありがとうございます。
切りが悪くて少し短めです。




