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お城巡りをしてみよう:北棟 4

 というわけで、マー君と二人で領主様の部屋に強襲した。

 べつに扉を蹴って入ったってわけじゃないよ。ちゃんとノックしたよ。げんこつだけど。痛かったけど!


 中には領主様の他に会議の時に見たおじさんたちが何人かいた。

 さっき座ってた応接セットに座ってる、というか埋もれてる。低いテーブルの上には私が破った書類があった。おいおい、控え取ってなかったのかい!と突っ込みたかったけどやめる。


「呼んでないぞ……」


 領主様は執務机に座ったまま、疲れた顔で言った。

 他のおじさんたちもだ。疲れの中には恨みも込められているみたい。八つ当たりだよ、まったく。


「マー君から話は聞いた!」


 私は領主様の前に立ち、机をバンと叩いた。


「そんな大変なことになってるなら、こんな書類を書いたり会議したりしてる場合じゃないんじゃないの?」

「……、どういうことだ?」

「方向性がおかしいって話!」


 私はもう一と机を叩く。体が小さいので迫力はない。

 それでも音で身を竦ませたおじさんたちはそろって私を見た。


「こんな書類を書く前に、事情を話すべきだったんじゃないかと思うの」

「事情? なんのことだか」

「父上、そんな顔をしても無駄です。俺が現状を話しました」


 隣に立ったマー君が領主様に言う。

 領主様は大きく目を開いたのち、肩を落とした。


「言えるわけがないだろう? 私は領主だ。辺境伯だ。聖女とはいえこんな少女に泣きごとなど言えるわけがない。しかもメイが出してきた要求は至極全うだ。難しいことは言われてない。それはわかっている」

「父上……」

「わかっているがな、聖女だぞ。この危機を救いに来てくれたのだと思うだろう? ずっとこの地を支えてほしいと思うだろう?」

「そして、便利に使えるって思ったでしょ?」


 にっこり笑って口をはさむ。


「辺境の瘴気はそこらにあるらしいから、たくさん魔法石を手に入れられる。しかも聖女がいれば無料。魔力使い放題。領地が発展して、領民も幸せで、みんな嬉しい。聖女はタタ働きさせるために囲いたいので王様には秘密にするけどねってやつよね?」


 にこにこ笑うと、領主様と周りのおじさんたち、そしてマー君までもうっと呻いた。

 図星でしたか……。

 わかっているけどちと寂しい。


「正直に言うとね、切ないです」


 私は大きくため息を吐いた。


「ここに初めて来たとき、右も左もわからない私に皆さんとても良くしてくれました。まだそんなに経ってないけど、ここで会った人たちはとても親切にしてくれたし、いろいろ教えてくれたし、一緒に笑ってくれた。私はそれがとても嬉しかった。もう帰れないとわかったので、ここで生きていくと決めました」


 正確に言うと諦めた。

 まあ、人間諦めって大事だよね。

 諦めたあと、前に進めばいいって話だもん。


「そんなわけで、瘴気を払うのも、魔法石を作るのも、お仕事なんだと思いました。お仕事なら対価が必要だし、労働条件って大事だから、私の言い分も聞いてほしい、それで提案したんだけど」


 提案だったんだけど、今思えば脅しだったのかもしれないなあ。

 そう思うと申し訳ない。

 事情を知ったら、魔石が欲しい気持ちもわかるし、出し惜しみしていると取られても仕方なかったかもしれない。


「……、その件に関しては、申し訳ない」


 領主様は机に頭をぶつけたほど深く頭を下げた。


「領主様!?」

「辺境伯!?」


 応接セットに埋まっていたおじさんたちが立ち上がる。怒りの形相でこちらを見るおじさんたちの前にマー君が立って庇ってくれた。マー君、なんて紳士なんだ。そこそこ言ってごめん。


「いいのだ。お前たちも頭を下げろ。メイには申し訳ないことをしているし、弁解の余地はない。現に先ほどまでこの要求を飲まないならこのまま北棟に閉じ込めなくてはならないという話すらしていたではないか」


 なんて物騒なことを……。


「そこまで切羽詰まってるんだよ」


 マー君が耳元で教えてくれた。ローマ字なので読むのがめんどくさかったけど、領主様の机の上にある資料にはとんでもないことが書かれていた。畑を維持する魔力が急激に少なくなっていて、あと1週間で危機的状況になるって、アナタ……。

 そんな状況でも私が出したささやかな条件を飲めないと?

 対価を払うことって言ったけど、対価ってのは私の言い値ってことだよ? そんなに吹っ掛けないよ!

 だいたい、聖女のプライドとここの皆の生活を天秤にかけるんじゃない!

 聖女とか言われてるけど、所詮転生した普通のおばちゃんなんだようう!


「ああああ、もう!しっかたないなあ!」


 私はその書類を手にして叫んだ。


「今回だけだからね! 今回だけ、あの魔法石をただで譲ったげる!」

「!!!」

「その代わり、魔法石をあげる前に、一つだけお願い聞いてほしいの! いい!?」

「わしらにできることだったらなんでもすると約束する!」

「聞いたよ、聞いたからね!約束したよ!」

「あ、ああ、でも、できれば、その、難しいことは……」


 おじさんたちがおろおろした顔でこちらを見る。

 マー君も困ったなあって顔をしていた。私そんなに信用ないのね。


「だーいじょうぶ! 領主様にはとっても簡単なことだと思うの」


 私はにっこり笑い、執務机の後ろにある小さな棚に並んだ瓶を指さした。









読んでいただいてありがとうございます。

メイが弾けてるのは仕様です、はい。


喪中なので年始の挨拶はできませんが、今年もよろしくお願いします。

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