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お城巡りをしてみよう:北棟 2

「イライラする!!」


 某女性芸人のキメセリフを異世界で叫ぶことになるとは思わなかった。

 そんな私は今、北棟の一番上、つまり屋上で空に向かって叫んでおります。


「青い空なんて大嫌いだー!!」


 青春しているように見える自分が悲しい。

 これもそれもみんな、領主様を始めとするおじさんたちが悪い!

 しばらく喚いた後、私は座り込んでため息をついた。


 まず、なぜ屋上にいるか?

 答えは簡単、北棟を出ようとしたら拒否されたから。


 領主様の部屋をプンスコ怒りながら出てきて、西棟の食堂で愚痴ろうと思ってたら、階段手前で騎士さんに止められた。


「領主様の許可がない限り、北棟から出すなとのご用達です」


 騎士さんはきっぱりと言い、槍なんかをちらつかせて私を睨んだ。

 私が朝まで使っていたのは客間がある東棟。

 つまり、出した条件を私が飲むまで北棟に閉じ込めるってことね。なんということでしょう!


「ごはんはでる?」


 聞くと、騎士さんはなんとも困った顔をした。なんだろ? 槍を見たくらいで泣くとでも思ったのかしら? まあ、見た目は10代の可愛い女の子(異論は受け付けません)だもんね。


「寝るところはある?」

「……、すみません、聞いてません」

「わかったよ。仕方ない。下っ端は辛いね」


 同情したつもりだったんだけど、バカにされたと思ったのか舌打ちされた。


「だってこんなところで立ってるなんて下っ端以外何があるのよ? そもそも下っ端を馬鹿にするな!下っ端は大変なの!」

「うう、下っ端下っ端言わんでください」

「あ、ごめん」


 言葉選びが悪かったのね。反省。


「でもね、末端がちゃんと働けない職場なんてろくなもんじゃないのよ。その点騎士さんはえらい。ちゃんと「聖女をここから出さない」っていう自分の職務を守ってる。職場としては悪くないところなのね」

「ううう、なんか心が痛い」

「あああ、また言葉選びを間違った? ごめんなさい」


 そんな話をしていると、騎士さんは打ち解けてきて、ここからは出せないけれど屋上の見晴らしはとても良いので見てくるといいと教えてくれて、背中につけていたマントを貸してくれた。


「騎士さんが寒くなっちゃうのにいいの?」

「いい、いい。聖女様が上にいったら訓練所から取ってくるよ。だからその間、北棟から出ないでくれるとオジサン嬉しいな」

「了解。待ってるね」


 なんか丸め込まれた気もするけどいいか。


 言われた通り屋上に行く。

 途中の階段で私が出られないように封鎖している騎士さんたちに会った。えらそうにしている人と申し訳なさそうにしてる人といろいろて笑える。強硬突破してもいいと思ったけど、面倒だからやめた。魔石も部屋に置きっぱなしだしね。もちろんしっかりと盗人防止策はしてるから安心。ほんと、聖女の魔法ってすごいわ。自分で言うのもなんだけど、チートだよねえ。


 屋上は城壁みたいになってた。よく見るとほっそいつり橋みたいなので棟が全部つながってるみたい。あそこを落としたら連絡できないのねえとぼんやり見ていたら、むらむらと怒りがこみあげてくる。


 というわけで、冒頭のように叫んでみた。


 山は遠いのでやまびこは来ないけど、後ろから笑い転げる若い男の声が聞こえてくる。

 昨日からずっとおじさんばっかり見てたから、この城にも若い男がいるのね、と変に感動したのは内緒だ。


 振り返ってみたらそこには、そこそこの美男子がいた。


 うん、ごめん、そこそこ、です。

 異世界にありがちな「絶世の美形」とか「この世のモノとも思えない美丈夫」とか想像したので、フーンって感じ。

 でもまあ、そこそこいいよ。ハリウッドとかにいてもおかしくない系? でもジェームズ・ボンドにはなれない系。いいとこ脱獄してそこそこの美女を救出するB級ヒーローってとこかな。

 でも声はいい。私の好きな渋いひげのガンマンに当ててる声優さんの声に似てる。目をつぶればS&W:M19を構えたガンマンさんが浮かぶわ。こちらの世界にはないだろうけど。


「なんかすごい失礼なこと考えてるだろう?」


 はい、考えてます。何か文句でも?




 2分後、私は壁に寄りかかって座りながらそこそこ美形と話していた。

 そこそこ美形は領主様の3番目の息子だそうで、名前はマーク=ピクセル、年は18歳とのこと。

 まあまあのマー君と憶えたら怒られた。

 だってなんというか、すべてがまあまあなんだもん。顔だけじゃなく、中肉中背の体型とか、三男ってとことか。


「そんなこと言われたことなかったな」


 うっかり口に出ていたようで、マー君は苦笑している。性格は悪くないのかもしれない、というか性格もそこそこなんだろうなあ。


「親父様が失礼をしているようで、すまんな」


 そこそこマー君はそう言って頭を下げた。聞けば昨日の会議の間、ずっと端で話を聞いていたそうだ。


「いい年したおっさんたちが年端も行かない女の子のやり込められたのはおもしろかったが、こちらにも被害が飛んできてな。めんどくさいんで聞き流してたんだけど、兄上たちはもろに被弾して涙目になってたよ」


 くっくと笑う。あまり兄弟仲は良くないのかな?


「でもまあ、こちらの状況も話しておいたほうが歩み寄れるんじゃないかと思ってな。親父様には内緒で聖女様を探してた。本来なら膝をついて足元にキスでもしないといけないとこだけど許してくれ。俺、三男だからあんまり礼儀はわからんのだ」


 嘘つけ、と言いかけてやめる。足元にキスしてとか言ってるあたり、ちゃんと学習してるんじゃないの? そんなん、ぽっと出てこない言葉だよ。

 見た目通りのそこそこじゃないのかも、と思ったらなんか楽しくなってきた。


「いろいろ教えてくれるんなら聞きたいな」


 私はマー君の顔に近すぎるくらい顔を寄せた。鼻がぶつかりそうになってもマー君は動かない。ちぇっ、こっちが恥ずかしくなってきた。18歳のくせに生意気な。

 何だか負けた気になったが、仕方ないので顔を離し、ちゃんとパーソナルスペースを守る距離を取った。


「私だって今の状態は良くないのは知ってるけどさ。なんも知らないで連れてこられて、なんも知らないで搾取されるのは不愉快」

「だよなあ」

「でもね、イチさんとかラビファとかベアモンとか、仲良くなった人も増えてきたし、マント貸してくれる優しい騎士さんだっている。領主様とは今のところ冷戦状態だけど、ちゃんとお世話してもらってるのはわかってるからその分の恩は返したいよ。もちろん話次第では貢献したっていい」

「ふむふむ」

「だけどね、筋を通してほしい。私は無理難題を吹っ掛けたつもりはない。お互いwin-winな関係ができれば一番じゃない」

「ういんういんってなんだ?」

「あ、ごめん。私のいた世界の言葉で「どっちも勝つ」つまり「双方に利益があること」って意味でね、この場合は私にとってもこの辺境にとっても良い状態になるってこと」


 そういえば今更だけどこっちに来て言葉不自由してないな。自動で翻訳してくれる機能がついてるらしくてとても助かってる。たまにうまく変換できない言葉があるのは今わかったけど、ありがたいわー。

 まあ、書物はローマ字なんだけども。


「こっち来て最初に何したらいいのかは聞いたんだけどねえ。よく考えたら労働条件とかちゃんと聞いてなかったわー。失態だわー」


 ため息ついて言うと、マー君はしばらくあっけにとられた顔をしていたが、すぐに大笑いした。









久しぶりの投稿でした。読んでいただいてありがとうございます。


もう一つの話はだんだんまじめな感じになってきましたが、こちらはゆるくゆるくいきたいと思います。よろしくお願いします。

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