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お城巡りをしてみよう:北棟 1

 そして朝が来た。

 昨日と変わらない出だしだよ、と思いつつ、大きく伸びをする。


 昨日は結局夕食の片付けまで手伝ってしまった。

 だってすることないんだもん。それにたくさんの人と話ができて楽しかったってのもある。

 私の料理知識は人並みだけど、こちらにはないものも多かったみたいで、参考になると皆さん喜んでくれた。今日も時間があったら厨房においでと誘われている。きっと時間はたっぷりあるだろう、邪魔にならない程度にお邪魔しようかな。


 クローゼットの中には素朴なワンピースが並んでいる。コルセットでウエストを絞める生活でなくてよかった。王都とかに行ったらわからない、油断は禁物だ。まあ、私の異世界知識はラノベ程度だから偏ってるけども。


 さくっと着替えて髪をとかしていると、ラビファたちがやってきた。自分で身支度していた私を見て申し訳ない顔をしている。


「おそかったですかなの?」

「ううん、目が覚めたから。それに前は自分でやってたからね。人にされるのってなんだか慣れなくて緊張するのよ」


 問題ない、と手を振ると、ラビファたちはほっとした顔で寄ってきた。うん、今日もかわいいよ、みんな!


「領主様たち、どうなった?」


 質問に、3人の顔が曇る。


「まだ、またせてって」


 フィーがたどたどしく答えてくれた。

 待たせてってすごいな。

 まあ仕方ないか。こうして徐々に懐柔していく作戦だったら困るけど、私も今後どうしようとか方針決めてないからねえ。


「とりあえずご飯食べて、そのあと考えよう」


 とまあこんな感じで西棟の食堂に行くことにした。実は食事は客室のある東棟でと言われていたんだけど、話し合いに来ている皆さんとはなんとなく顔を合わせづらい。下手すれば恨まれてそうだし。


 昨日は担がれて入った食堂、今日は自力でと思ったが、志半ばで挫折した。

 いいんだ、今日はウサミに担がれたけどいいんだ……。昨日よりはちょっと距離も稼げてたと思うから、本当にいいんだよ。フッ……。

 ちなみにウサミは縦抱っこだったので昨日よりはいい待遇だったと思う。




 厨房の皆さんに温かく迎えられ、ほっとしていると、食事が運ばれてきた。


「おおっ!」


 思わず声が出る。

 だって、皿の上には昨日作ったガレットが乗っていたのだ。しかも香草とか使ってアレンジしてある。他のメニューは相変わらず焼いただけのチキンと卵だったけれど、歩み寄ってくれた感じがたまらなく嬉しい。

 ぱくっと食べると、外側カリッ、中はフワッとしたとてもいい出来だった。塩加減もちょうどよくておいしい。


「ベアモンすごい!!」

「そうだろうそうだろう」


 厨房の奥から豪快な笑いが聞こえてきた。





 食事に気をよくしていると、先日会ったイチフジさんがやってきた。

 ちょいと息が荒い。探してくれていたらしい。


「こんなところにいるとか!」


 プンスカ、と音がしそうな顔で怒ってるんだけど、なんだかかわいい。おじさんなのにかわいいってあざといわー。


「まあまあ。イチさんは朝ごはん食べた? 一緒に食べようよ。ガレットおいしいよ」

「ガレットとな?」


 聞いたことがない料理名に首をこてんとするイチさん。


「昨日、メイが教えてくれた料理だぞー」


 厨房の奥からベアモンが言い、一皿持ってきてくれた。すでに朝ごはんを食べた後なのか、悩ましい顔で見ているので、ひとかけらフォークですくって口元に運んであげる。


「はい、あーん」

「!!!!」

「いいから口開ける」


 恐る恐る口に入れるイチさん。ゆっくり咀嚼しているうちに頬に赤みが差し、うっとりと目を細めた。


「ぉいしぃ~」


 うんうん、おいしいは正義だよね。

 蕩けきった顔のイチさんに満足していると、イチさんはフォークを咥えたまま我に返った。もうね、猫が「はっっっ!?」として気まずい顔をする動画のアレが人になった感じ。おもしろ動画に載るね、間違いない。


「いや、だから、こんなことをしている暇は、もぐもぐ、なくてな、もぐもぐ……」


 食べながら言われてもねえ。しかもそんなニヤケ顔で、ねえ?


 気づけば厨房にいたベアモンがこっちを指さして笑っていた。おいしいもの作ったベアモンも同罪、と舌を出したらもっと笑った。


 結局イチさんが完食するまでしばし待った私である。





 イチさんがフォークを置いて10分後、私は領主様の執務室に呼ばれていた。

 場所は北棟の3階の端っこ。森が見下ろせる見晴らしのいいバルコニーがある部屋だ。

 バルコニーの前に並んだ応接セットの豪華なソファに座った私は、渡された書類を見て眉間に皺を寄せた。


「これは?」

「話し合いの結果、こうなった」


 そこには箇条書きで昨日の会議のまとめらしいものが書かれていた。


 1. ピクセル辺境伯領土に瘴気が発見された場合は速やかに浄化する

 2. 領土における浄化の際は魔法石を領主に納める

 3. 聖女の身柄は辺境伯が身元引受人となり安全を保障する

 4. 聖女には貴族と同等の生活を送る権利を認め、辺境伯が責任を持つ

 5. 辺境を出る場合は領主である辺境伯の許可と護衛が必要

 6. 王宮への報告は不要と判断した


「………、喧嘩売ってる?」

「………、やはりそう思うだろうな」


 いや、そう思うじゃなくて、実際そうだよね?

 私か一昨日の夜に提案した点と真逆だよね???


「私の提案、聞いてくれてないんですが、気のせいですか?」

「……、身の安全はわしらが確実に保証すると誓う」


「瘴気を速やかに浄化って、確かあちこち瘴気出てるみたいな話してたけど、それ全部ってことですか?」

「領民の安全が第一だからな」


「それに、魔法石をただでもらうって話になってますよね? 奪うなって言いましたよね?」

「奪うわけではない。城の重要な魔力減として蓄えは必要だから提供してほしいと言っているだけだ」


「魔法石にはそれなりの対価をって言いましたけど」

「安全で不自由のない生活の対価だ」


「その割には私の生活を制限してませんか?」

「貴族と同等の権利と書いてあるだろう? 貴族は土地に縛られているからな。同等だ」


「辺境から出るときは許可って、行動を制限しないでって言ったよね?」

「制限ではない。聖女はどこでも喉から手が出るほど欲しい存在だ。見守っていこうと言う話だ」


「王宮に行くなってのは、王宮が呼びだした聖女を引き留めてこちらに戻さないリスクを思っているからでしょ?」

「それはもちろんだ。おかしくなかろう?」


 最初はわたわたしていた領主様、最後のほうになったら逆切れしたのかふんぞり返った。

 ………、こいつ、開き直りやがった!

 そうか、そうきたか……。

 なら私もきっちり返答しよう。


「わかりました」


 静かに言うと、領主様の顔のしわが一瞬伸びたような気がした。


「そうか、理解してくれたか」

「は? するわけないでしょ?」


 私は冷たく言い放ち、ソファから立ち上がった。

 手にした書類をびりびりと破く。どうせコピーあるんでしょ? 破るの想定内でしょ?


「あんまりふざけると、怒るよ?」

「!!」

「たしか、私がいるだけで大きい瘴気以外は浄化するんだったよね?だったら他国に行くよ。こないだの浄化の対価はもらってないから、馬車の一つくらい持って行ってもいいよね?」

「そ、それは……」


 領主様は青ざめているけれど多分イライラしてる。顔見たらわかるよ、そんなん。書類の間違いを指摘されて癇癪起こした係長と同じ顔してる。係長もそうだったけど、自分が言ったことを相手が飲み込むのは当たり前だと思ってたな。

 こんな無理な注文を私が「はいそうですか。生活を守ってくれるなんて感激ですぅ」と受理すると思っていたのね。自分の命令にこいつは逆らわないと思われていたのがなんとも癪だ。


「というわけで、聖女は拒否しました。よく考えてくださいね」


 にっっっっこり。

 目は笑わない笑み、昔は得意だったんだけどできてるかなー?


 私は領主様にお辞儀もせず、イチさんの前を通過して、さっさと退室した。






読んでいただいてありがとうございます。

更新が不定期で申し訳ありません。

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