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お城巡りをしてみよう:西棟 2

すみません、うっかりして投稿してしまいました。後半は加筆部分です。次から気をつけます。。。

 畑ってさ、平面だと思ったけど、違うんだね。

 そういえば最近はトマトの木とかあるって聞いたよ。ミカンやリンゴも木だし、そういうものなのかな。

 それ考えたらさ、キャベツとかレタスとかが実になる木だってあるよね、うん、ここ異世界だし。


 ……。


 って、すごいよ、これ!!!

 異世界とかそういう概念すっぱ抜いてもすごいよ!!


 興奮する私の前には3本の大きな木がある。

 木、でいいんだよな? なんというか、ジャックと豆の木みたいなすごい植物ですよ。


 1本は野菜がなってる。

 1本は果物がなってる。

 1本は調味料ができるそうだ。


 野菜の木には見たことがある野菜がたわわに実っていた。うん、実っているとしか言いようがない。隣の果物の木とおんなじ状態でぶら下がっているのだから。

 果物の木も壮観だ。ブドウや柿やリンゴがすべて同じ木でできている。

 根菜は見えないけどどうやら根っこ付近にあるみたい。根菜だからな、と小声でつぶやいたら料理人さんに不思議な顔をされた。いいんだ、何でもないんだよ。

 同じ木でいろんなものが取れるってすごく合理的だけど、季節とかどうなんだろう?

 聞いてみたらオールシーズン採れるとのことで、逆に「旬ってなんだ?」と聞かれてしまった。なんだ、この敗北感。

 ちょっとだけ、ハウス栽培とか水耕栽培とかを思い出したけど、おかげですごい遠い世界に来たんだと改めて実感したよ。

 野菜や果物は実になったり根っこを掘ったりして収穫するとのことだけど、調味料は実だけじゃなくて樹液や葉っぱのしぼり汁まで使うそうで、木につけられた蛇口みたいなところに各調味料の名前みたいなのが付いている。

「しょうゆ、みりん、酢、って醤油とかあるんだ。すごいな」

 シロップとか塩の蛇口もあった。結晶化しないでそのまま使うから『砂糖』でなくて『シロップ』らしい。塩は塩なのに不思議だ。こちらも逆に「砂糖って何?」と聞かれてしまった。文化の差だよねえ。

 根っこのほうに「みそ」と書かれた札もある。この辺使うと味噌なのかな。

 調味料の木はいろんなところに色とりどりの札が貼ってある。色によって使用法が違うみたい。緑のなんて柚子胡椒とか書いてあるよ。焼き物にぴったりだね、とかそういう問題なのか。

 それぞれなめさせてもらって味を確認すると、元の世界のものと同じだとわかった。いろいろ気になるが、理屈は忘れて素直にありがたがろう。調味料に不自由なさそうで助かった。


 私の中の畑の概念はもろくも崩れ去ったけれど、この木があれば食糧難にはならないなあと思ったらとてもありがたい気持ちになって、つい拝んでしまった。

 一緒にいるフィーに聞くと、こういう木は普通農村で育てられているのだけど、ここは辺境で食材の入手が難しいため、植えられたのだそうな。

 なるほど、自給自足型のお城なのね。

 さらに、この木は魔法石の力を栄養にしているので、石の力がなくなったら枯れてしまうとのこと。今はまだ平気だけど、あと10年持つかどうか、と案内してくれた料理人さんが言って、目を伏せた。

 ごめん、と言いかけてやめる。

 確かに魔法石は持ってるけれど、簡単に渡せない事情もある。というか、簡単に渡してしまったらきっとすぐに次の石を求められるだろう。そして次を渡したらさらに次を。だってあればあるほど生活が楽になるならあったほうがいいんだもの。ガラケーからスマホになっていくのと同じことだ。人の欲に果てはない。

 それに、いつかは他国にばれる。戦争になったらどうするんだ?私は責任取らないよ。

 そんな感じで、私にも譲れない部分はあるのだ。


 大きな木は一回りするだけで結構な時間を取った。私がいろいろ見るのに時間取ったせいでもあるのだけど、充実したひと時だったな。

 そうしていると厨房からランチができたと声がかかったので、私達はそちらに引き返した。


 ここのことをもっと知って、交渉材料にしたいなあと思う。

 まだまだここの人たちのことは知らないけれど、少なくともさっき会った人たちはとても親切だった。私は善人ではないから無条件で物を差し出すことはしないけれど、恩はちゃんと返さないとね。






 ランチ後、食器を片付けるのを手伝いながら、食堂で働く皆さんと交流を深めた。


「メイ様は聖女なのだから」


 と、フィーたちはおろおろしていたけれど、することがないのだからこれくらいさせてほしい。


「私いた世界では『働かざるもの食うべからず』という言葉があるの。何もしなかったら夕食食べられないんだよ。協力して」

 と言ったら諦めてくれた。ついでに様もやめてもらうようお願いした。寂しいからね。

 まあ手伝い程度なので大袈裟なことはさせてもらえず、皿を拭いただけなのだけど、聖女としてはたいへん珍しいと呆れられた。


「そんなこと言われても聖女の自覚ないし、そもそも庶民だし」


 溜息をつく。

 一通り終わると、ベアモンがお茶を入れてくれた。ついでにバナナらしい果物が出てくる。甘くておいしいけど、直径が10センチあるよ。

 木でできる野菜や果物は遠かったから見慣れた大きさだっただけで、実はすごく大きかった。キャベツは北国の漬物用キャベツぐらいあるし、リンゴは直径が私の腕の長さくらいある。豪快だと感動した。


「そういえばさっきの話なんだがな」


 と、切り出したベアモン。何の話かと思ったら料理のことだった。

 こちらでは料理と言ったら食材を焼くか茹でるかで、バリエーションもさほどないそうだ。食材の味が濃くておいしいからってのもあるんだろうけれど、調味料がたくさんあるので焼いたりゆでたりしたものに醤油でとか味噌でとかで満足できるらしい。

 なんというシンプルな。


「油で揚げたり、蒸したり、煮込んだりしないんだ」


 感心していると、意味が分からないという顔をされた。というか、なんかすごいしかめっ面をしている。

 これは作ってみるのが一番かも?


「食材分けてくれて、キッチン貸してくれるなら、試しに一つ作ってみるよ」


 そういうと、ベアモンは興味津々で頷いた。

 よく見ると料理人さんたちもこちらを見ている。

 これは、異世界物でありがちな飯テロ的なやつですか?

 まあ、元の世界でも外国に行って知らないもの食べるのは楽しかったから、食に関する興味はどこも一緒ってことかもね。


 食材を見せてもらうと、大量のジャガイモを発見した。

 ランチ後だし、重たいものは嫌だし、ジャガイモなら色々使えていいか。


 そんなわけで、ジャガイモを1つ分けてもらう。1つって言っても大きさが私の顔と同じくらいあるよ。すごいなあ。


 シンプルなのが一番だと思い、思い浮かぶ簡単な料理を作ることにした。


 まずはジャガイモを4等分に切る。

 1つはこぶし大の大きさをさらに半分にしてふかし芋にすることにした。蒸し器はないけどお鍋とお皿とお椀で代用できるしね。

 1つは同じくらいの大きさで煮っころがし。醤油があるって素晴らしい。

 1つは短冊切りにしてフライドポテト。

 1つは千切りにしてガレットにしよう。


 というわけでさっそく作り始める。

 お鍋にお椀を入れて水を入れ、その上にお皿を置いてジャガイモを並べる。ふたをして火にかけたら、周りから驚いたような声が上がった。そうだよねえ、お椀とかお皿も茹でてるように見えるもんね。大丈夫、食器は食べないよ。

 次に煮っころがし。こちらは切ったジャガイモと適当に合わせた醤油とシロップと水を入れて火にかける。煮えたら出来上がり。楽でいいね。

 短冊切りにした分は水にさらして、その間に千切りジャガイモを作る。

 どちらも……、すごい量になってしまったが気にしないことにしよう。食べきれない分は夜に試食してもらえばいいさ。

 千切りジャガイモは水にさらさないで(水にさらすとバラバラになっちゃうから)塩コショウで簡単に調味後、油を敷いたフライパンに広げて焼いていく。

 その間に短冊切りじゃがの水けをきって、油を入れた鍋に適当に入れて火にかける。うちは冷たい油に入れてそのまま上げるスタイルだったからしばらくほったらかしなのだ。


 というわけで調理前半終了。後はできるのを待つ。

 手間はこれだけだからすごい簡単で申し訳ないのだけど、これでおしまいなんだよね。


 煮っころがしが焦げないように混ぜたり、ガレットをフライ返しで押し付けたり、わいてきた油の火力を調整してかき混ぜたりしているだけなのに、皆さん興味津々で見ている。


「思ったより難しくないんだな」

「手抜き料理だからねえ」

「これでか!?」

「やってることは食材を適度に切って一手間かけてるだけだもん。焼く・茹でると大差ないよ。ほかの調理法ってだけ」


 話している間にフライドポテトとガレット完成。煮っころがしもいい感じに煮えた。ふかし芋は、もう少しかな。

 さっそく盛り付けて試食してもらう。ふかし芋用にバターがあればと思ったら、パターは知らないけれどマーガリンならあると言われた。なるほど、マーガリンか。ついでに聞いたら生クリームは知らないけれどホイップクリームはあるそうだ。う、うん、植物性ならいいのか。木の恵みだもんね。

 そうこうしてるうちにふかし芋も完成。マーガリンと一緒にどうぞ、と。


「できたよー。食べてみて」


 ランチ後でおなかがいっぱいだろうと思ったが、料理人さんたちは興味津々で試食してくれた。


「お、なかなかいける!」

「外側カリっとしてるのに中はホクホクしてるよ!」

「このふかし芋っていうの、ほっこほこでお塩とマーガリンとどっちもおいしいですぅ」

「ガレットもパリパリでおいしいー」

「煮っころがしのしょうゆのシミシミ具合に甘い後口。しみる……」


 気に入ってもらえたようでうれしい。

 ベアモンはそれぞれ食べながらうなっていたけれど、急に私の背を叩いた。痛いよ!


「すまなかった。実は変なことをして食材を冒涜するのかと腹立たしく思っていたんだ。食材は素材の味を生かす方法以外で食すのは許されないことだと思っていた。でもこれは食材をおいしく、大事に食べられる方法でもあるんだな。先入観で凝り固まり、工夫が足りなかったと反省している。ありがとう」


 それであんなしかめっ面だったのね。納得。

 でもまあ気持ちはわかる。おいしい食材はそのまま食べるのが一番って話もあるし。生魚は刺身が一番ってところもあったしね。

 だけど、調理法で今まで食べずに捨てていた部分とかも使えたりする。無駄を減らせることもある。

 ベアモン達みたいに自分の仕事に誇りを持ちつつも、新しいことを受け入れる柔軟性を持ってるのは素敵だと思うな。


「こちらこそ、受け入れてくれてありがとう。これからもいろいろ作りたいのでよろしくお願いします」


 この後、夕食の仕込み時間までいろいろおしゃべりをしていたのだけど、途中、休憩時間でやってきた使用人さんたちが残っていたフライドポテトをつまみ食いし、明日はこれを作ってほしいと頼まれるのだけど、それはちょっとだけ先の話。







遅くなってすみません。読んでいただいてありがとうございます。

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