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次元災害で異世界へ  作者: 真草康
ダンジョン編
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88. ダンジョン決戦 2


 一気に数を減らしたオーガ軍は、ストロングオーガの統率なのか、一旦攻撃をやめ、引き上げていった。

 引き上げたといっても広場の中央に固まって、こちらの様子を見ているといったところだ。


 ノコージ(わし)の仕事は、休憩中のボコシラとプコチカが戻ってくるまでの防衛と、オーガの攪乱だ。


 一八人の冒険者の内、本当に戦力になるのは、ケガの具合を考えると、いいとこ五、六人だ。

 あとの奴らは、もちろんケガの具合を考慮するとだが、強さの実質は“50”前後かそれ以下で、逆に守らなければならない奴らばかりだ。

 下手をすればストロングオーガやサイクロプスオーガの威嚇の雄たけびで、動けなくなってしまう奴らだ。

 全員何らかのケガを負っているし、重傷者が三人と、オーガ(あやつら)を撃滅するしか脱出する手段が無い。


<プレッシャーボム>


 プレッシャーボム。

 錬金と土と風魔法の複合個人魔法で、微細な石を含んだ空気を極限までに圧縮した空気の球だ。

 着弾と同時に膨張爆発して、微細な石をまき散らす。

 ちなみに石は成型後に粉砕したのもだから、鋭かったり角張ったりと殺傷力を高めている。


 ボーーン、と爆発すると地面が揺れた。

 オーガ軍がパニックに陥る。

 数匹は倒したようだ。


 ノコージ(わし)も二人が戻ってくるまで、魔法の無駄遣いはできない。

 パニックに陥ってくれれば見学するだけだ。


 セージスタ坊やか、面白い奴もいたもんだ。

 思い出すだけでも、ボコシラに模擬戦を任せたのが(しゃく)(さわ)る。

 しかし、子供があれだけの強さとは…。

 テレポートⅦとはいやはや、ノコージ(わし)と一緒じゃないか。


 お、そろそろ動き出すか。

 それとも援軍でも待っているのか、どうも気に入らん。

 背中がピリピリとしおる。


「じーさーん」

 ボコシラが起きてきたか。テトテトと駆け寄ってくる。

 誰が爺さんじゃ。まったくもう、あやつは。


「行く」

「まあ、待て、もうすぐプコチカが起きるころじゃ」

「プコまだ?」

「…ああそうじゃ」

 ついつい、ぶっきら棒になってしまう。


「あいつら何?」

「わからん」

「行く」

 ボコシラの直観は侮れん。プコチカが来たら早速やるか。

「もうチョット待ってろ。そうすりゃ一気に叩き込む」

「あぶない」

「そういうな」

 実際不気味だ。

 下っ端のオーガがギャーギャー騒いでいるが、出てくる気配が無い。

 後方のストロングオーガやサイクロプスオーガが戦闘に出てこない。


<プレッシャーボム>


 けん制にもう一発ぶっ放す。

 ボーーンと爆発。地面が揺れた。


 またも数匹を倒した。


「ズルい」

「そういうな」



「遅い」

「そういうな。状況はどうだ」

 待ちに待ったプコチカが来た。ボコシラはお怒りモードだ。

「じゃ、行く」

「待て待て…」

 で、待つやつじゃない。

 ボコシラが飛び出した。レイピアは魔法力を過剰に受けているのか、刀身が発光している。

「気を付けろ、何か企んでるようじゃ。それと徐々にだがオーガが増えておる」

「了解」

 プコチカが羽を広げ、飛び出していく。


<ニードルバルカン>

 腰のポーチから、一本一二センチメルほどもある太目の針の束を出し、目の前に浮かべ、一斉に撃ちだす。

 針――魔法で金属は創れない――を打ち出すためだけに作成した専用の魔法だ。

 針は、真っ直ぐに突っ込んでいったボコシラとプコチカの左右に分かれて、オーガに突き刺さっていく。

 針はあまり拡散できないが、相手が密集しているときには有効な魔法だ。

 左右合わせて一〇匹程を倒したか。

 神経を使うから、多用したくないが仕方ない。


 それじゃあ、わしも行くか。

 岩で囲まれた仮の基地? いや砦か、まあ何でもいいが、を後にしてテクテクと歩き出す。


  ◇ ◇ ◇


 ボコシラが二本のレイピアでオーガを突き刺していくが、数が多く、囲まれていて、止めを刺せないでいる。


「ボコシラー、一人で突っ込み過ぎだー!」

 プコチカ()はいつものことだと思うが、叫ばずにいられなかった。


 鞭で左右のオーガをぶちのめすが、こいつらはこの程度じゃ死にはしない。

 退路を確保しながら、ボコシラの囲みを突き破るため、魔法を放つ。

<小石竜巻>…<小石竜巻>

 オーガ相手じゃ殺傷力は低いが、攪乱するにはいい魔法だ。

 まずは右側、そして左側。

 ボコシラへの攻撃の手も緩む。


 風(移動)魔法が無いと攻撃魔法は成り立たないが、風魔法だけだと威力が弱い。

 土や火に氷などを風に混ぜて威力をアップするのは常套手段だ。

 大本の“砂竜巻”を改良した魔法だ。


 オーガの包囲が乱れる。

 ロングソードでオーガの頸動脈を切り裂く。

 頑強なオーガはこれでも一〇秒や二〇秒程度は反撃してくる。

 気を抜かないことだ。


 鞭で叩いて、ひるんだところを袈裟懸けにロングソードをたたきつける。

 浅いか。


「ボコシラ、一旦引けー。オーガが増えてる」

「もうちょっと」

「ダメだ。下がるぞ!」

「リョカイ」

 ちゃんと了解って言え。不満があるといつもこれだ。


 オーガの群れの奥で爆発が起こる。

 ノコージ、いいタイミングだ。


「下がれー」

「リョーカイ」


 二人で包囲を切り破り、いったん外に出る。

 ボコシラだってバカじゃない。彼我の戦力差を見極めて突っ込んでいるから、それほど踏み込んじゃいない。

 それにしても厚い。

 ここのオーガが戦略的なのか、それとも何かを狙っているのか。


 四〇匹以上は倒したが、まだ五〇匹以上残っていやがる。

 それに上位種はほぼ無傷だ。

 ここにアイツがいれば……、って、七才の子供に何を期待してるんだ。


 (どうでもいいことだが、五月生まれのセージは、誕生日前でまだ六才だ)


「ノコージも戻るぞー」


  ◇ ◇ ◇


 プコチカ()が岩の仮砦に戻るとまだセージは眠っていた。

 瞑想はどうしたって突っ込みたいところだ。


「ボランドリー、ここは何層だ。入り口までの距離は、戻るのに困難はあるか」

「お前らはどうやってここまで…、というより、よく俺たちの場所がわかったな」

 プコチカ()の質問に、ボランドリーが反対に問い質してきた。


「セージスタのテレポートだ」

「外から飛んだのか」

「魔法学校のグランドだ」

「また、とんでもねーことを、セージはまったく…」

 そう、ボランドリーの何とも言えない表情は理解できる。


 通常、異界宮とも呼ばれるダンジョンの中にはテレポートできない。

 その逆も一緒だ。

 それとダンジョン内でもテレポートは制限が多く、違う層には移動不可能だ。


「それじゃあ、セージが起きれば全員出られるのか」

「いいや。

 なんでもフェアリーに呼ばれて、ここに飛べたそうだ」

「そうか。そりゃー、セージがダークフェアリーとか言ってた奴だろう」


「最初の質問だ。入り口までの距離は? ここは何層だ?」

「それがわからん。

 無理せずにダンジョンを調査しててたんだが、突然の地震があったかと思ったら、ダンジョンが歪んで、あっという間にこの岩の広間に運ばれたんだ」


 ボランドリーたちは岩の広間に飛ばされる前は、ボランドリーとニガッテをリーダーに二つのチームで調査していたそうだ。

 飛ばされた先のここで合流して、更にオーガの群れに遭遇した。

 最初はオーガの数も少なく押していたが、次々とオーガが出現し、押されて岩の仮砦に逃げ込んで守りを固めて何とかしのいでいたところに、俺たちが救援に駆けつけたんだそうだ。


 その説明の間に、ノコージの魔法による二度の爆発があった。


「おい、サイクロプスメイジオーガが三匹出現したようじゃ」

 オーガを観察していたノコージがコッソリと告げに来た。


「まずいな、逃げるのにいい案があるか」

「できればじゃ、上層への階段を見つけ、わしとセージスタ坊やの二人で、そこへせっせと運ぶのが一番じゃろうな」


 ノコージには岩の仮砦に帰る途中、ボランドリーと同様のことを説明しているので、セージスタに一気に運び出してもらう案が使えないのは承知している。


「それしかないか。ノコージ一人で全員運べるか」

「何とかなるじゃろうが、飛び先じゃ」


 ダンジョン内だとテレポートの距離も短く、運べる人数も減少する。

 テレポートⅦだと自分を含めて六人に二五キロだが、少なくとも一人は減る。

 魔法量も若干増加して、安定して飛ぶには四人に一二キロといったところだそうだ。

 まさかとは思うが、階段までそれ以上だとは思いたくはないところだ。

 妖精(フェアリー)の誘導があったとはいえ、よくもまあ、ここに飛べたもんだ。


 ノコージも人生長いことやってるといろいろと面白いもんじゃ、と笑いながらのたままわっていやがった。

 何が長い人生だ、爺い、と呼ばれると怒りやがるくせに。


「できればサイクロプスメイジオーガだけは片付けたいな」

「わかった。それは早急にやりたいが、いい作戦は有るか。

 同じことの繰り返しじゃ、イタチごっこだ」

「ところで奴らは新種か?」

「わからん。やけに愛嬌があって不気味だ」

「弱点もわからんか。そうなると最初に特大のを見舞う。それしかないじゃろうが」

「三人でか」

「セージスタ坊やが寝てるから、そうじゃな。

 ボコシラは喜んで飛び込んでいくじゃろうて」


  ◇ ◇ ◇


 なんだかよく寝た。……って、瞑想中に僕眠っちゃたんだ。

 シッカリと100%回復している。

 魔法量は“702”と若干増加している。

 空間魔法が“13”になった他は、あまり変化はないけど、たった一つスキルに“浮遊眼(フローティングヴュー)”が“2”となって発現していた。

 今度はオン/オフ可で、視界を任意に飛ばすことができる。

 それと“思念同調”が“0”で、ニュートとの意思疎通が楽になった。

 スキルを上げればテレパシーのように相手の思考を読むことが可能になる可能性もあるそうだが、レベルが低いと信頼、好意、嫌悪、悪意ような漠然とした感覚が良いところなんだった。

 ニュートに確認したら、いろんな生き物と仲良くなれるよ、だってさ。

 まあ、ニュートの力に頼りっきりだけど、ニュートとはテレパシーでの会話ができるんだけどね。


『疑似テレパシーだから』

『テレパシーとどう違うの?』

『あいての考えが良く伝わるでけだよ』

 ヤッパリテレパシーとの違いが理解不能だ。 


 テントを出るとプコチカさん・ノコージさん・ボランドリーさんが話し合っていた。

「おう、セージ起きたか」

「うん」

「回復したか」

「うん、いいみたい」


 どうやらセージ()は四〇分ほど眠っていたようだ。


「ねえ、サイクロプスメイジオーガが魔法陣を描いてるよ」

 早速、浮遊眼を使っている。情報は重要だ。


「なんの魔法陣かわかるか」

「見たことない精霊文字に精霊記号だからわからない」

「想像は付くか」

「精霊文字は分からないけど、精霊記号は時空魔法系に似ているのが幾つかあるみたい」

「セージはボコシラと戦った時の特大火魔法は連射できるか」

「二発なら同時に撃てるけど」

「「「…えっ…」」」と三人が絶句する。


 あ、そりゃそうか。

 イメージの相克、普通は魔法陣を二つも持たないし。


「セージスタは二、三回特大火魔法をオーガに向かって放ってくれ」

「火魔法いいの?」

「そんなこと構っちゃいられなそうなんでな。

 ボランドリーは、ここの守りを頼む」

 ボランドリーさんがうなずく。

 息苦しくなってきたら止めろって言われたけど、そりゃあー止めるよ。


「ボコシラー、突っ込むぞー!」

「オーッ!」

「セージスタが特大火魔法を連射する。俺がセージスタに合図したのを見て、突入だ。

 その前に突っ込むんじゃねーぞ!」

「理解、うるさい」

「ノコージはサイクロプスメイジオーガの攪乱(かくらん)に、魔法陣の破壊」

「了解じゃ」


「セージスタは俺たちがオーガに近づいたら気にせずぶっ放せ。

 頃合いを見て俺が手を上げたらやめてくれ」


「うん、了解だけど、サイクロプスメイジオーガが分厚いシールド張ってるよ。

 先に別の魔法を撃ってから、特大火魔法を撃つね」

「それは任せた。ボコシラ、わかったか!」

「聞いた、うるさい」


  ◇ ◇ ◇


 ワンダースリーのみんなは準備OKのようだ。

 僕もチョットだけオーガの群れに近づいている。

 地面から盛り上がった岩の隣で、いざという時には、隠れることも可能だ。


「やるよ」

『いつでもいいよ』

 肩にはニュートが乗っている。

 一緒に監視をお願いしているし、魔法陣の解析もお願いしている。


 鉄菱(ひし)に高周波ブレードを補助した。これだけ小さいとまとめて補助できるからお得だ。

 スフィアシールドの上に並べた鉄菱(ひし)、五〇個。


<ハイパーストリーム><ハイパーストリーム>


 マシマシで撃ちだす。いつかレールガンにもチャレンジだ。

 極端に曲げる必要が無いからこの数が可能だ。

 それでも相当な負担だ。


 高くない天井、飛び出す岩。

 それを注意しながら、弧を描いて鉄菱(ひし)が高速で飛ぶ。


 サイクロプスメイジオーガから、迎撃の竜巻系の魔法が放たれる。

 更に魔法力を込める。

 四、五個はサイクロプスメイジオーガの放つ竜巻に巻き込まれて地に落ちたが、残りが、ドガガガガガとスフィアシールドに激突して、幾つもの穴をあけ、ボロボロにする。

 降りそそぐ鉄菱(ひし)が、何匹ものオーガを貫く。


<ハイパービッグバン><ハイパービッグバン>


 一メル超の凝縮した炎の球体。プラズマ化に雷光付き。

 それがダブルだ。

 並列思考(実際はトリプル思考だ)と加速のなせる業だ。


 マシマシで魔法力を込め、イッケーーッ!

 現実では初めて放つ魔法で、今までは臨界行使して破棄して、魔法力を使っていただけの魔法だ。


 それなりのスピードで飛び、サイクロプスメイジオーガの火魔法を飲み込んで、ボボボーーーーーンン、プラズマ化した炎が大爆発。

 膨れ上がったプラズマ球がオーガを飲み込み、雷光がオーガを焼く。

 それもダブルで、かなりグロイ。

 それでもビッグバンには程遠い威力だ。


 岩陰に避難。

 荒れ狂う熱風・爆風が通り過ぎる。

 トリプルスフィアを張っていても、爆風に対面したくはない。


<ハイパービッグバン><ハイパービッグバン>

 もう一回。


<ハイパービッグバン><ハイパービッグバン>

 更にもう一回。

 速度重視で、放つ。

 

 ボボーーーーンン。

 熱風交じりの爆風が過ぎる。


 ほこりでプコチカさんが見えないけど、そこはレーダーと浮遊眼(フローティングヴュー)で、……合図は?

 なんだかもう一回行け……だと。


 ならば、もう一回。

<ハイパービッグバン><ハイパービッグバン>


 ボボーーーーンン。

 熱風交じりの爆風が過ぎる。


 もういいでしょうと思った。あ、もう一回行けのサイン。そしてワンダースリーのみんなも魔法攻撃を行っている。

 え、突入じゃ……、あ、理解。

 何この灼熱地獄。オーガだけじゃなく地面も焼けて、あれじゃ無理だ。


 この辺の空気大丈夫かな。

 息苦しくないか? 空気を軽く吸い込んでみるけど大丈夫そうか。

 チョット強めに空気を吸い込んでみたけど、これって大丈夫ってことだろう。


 そしてオーガがこっちに向かってくる。


 それじゃあ、遠慮なく、いっきまーす。

<ハイパービッグバン><ハイパービッグバン>


 ボボーーーーンン。

 熱風交じりの爆風が過ぎる。

 近場の爆発の熱気はかなり熱い。

<ハイパービッグバン><ハイパービッグバン>


<ハイパービッグバン><ハイパービッグバン>


 ワンダースリーからも魔法が飛ぶ。


  ◇ ◇ ◇


 焼けただれた地面に、焼けたオーガ。

<大水散弾><大水散弾>

 ビッグウォーターの散弾を何回か放ったが、熱気が冷め、(むくろ)と化したオーガの群れを確認したのは一時間ほど後だった。

 すでに夜中……だと思う。

 僕はオーガの魔獣石を適当に回収――かなりの魔獣石が割れていた――して、ボランドリーさんやワンダースリーのみんなと相談しながら、みんなの治療も行った。


 ボランドリーさんやワンダースリーのみんなに幾人かの冒険者が時計を持っていて、僕の時間間隔に誤りのないことを確認した。


 そして、果物を食べてまたまた眠りました。

 眠ったのは二三時だった。


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