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次元災害で異世界へ  作者: 真草康
ダンジョン編
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86. 魔法展覧武会 3


『さあ、魔法展覧武会も大詰めになってまいりました。

 皆様お待ちかねの、特別選抜者と先生の模擬戦です。

 今年は、な、なーんと、上位六名による模擬戦です。

 ルデン先生、見どころは』


『今年の特別選抜者は全員、身体魔法を使えます。

 そういった意味では、高度な戦闘が見られると思います』


『そ、そうなんです。極秘の情報では、今年は八位の生徒会長までの八名が身体魔法を使えるそうです。驚きです』


『一位のセージスタ君は万能ともいえる魔法の才能があって、身体強化もお手の物のようです。素晴らしい戦いが期待できます。

 二位のミリアーナさんも身体強化が使えますので、見どころ満載だと思います』


『身体強化というと?』


『身体魔法のレベル2で、これを使えると肉体的な強さが倍増します』


『すごいですね。ちなみに裏情報、極秘情報ですと、セージスタ君は身体魔法のレベル4、身体強化Ⅲまで使えちゃうそうです』


『三位のミクリーナさん、四位のロビナータさんの姉妹も多彩な魔法の才能があります。

 錬金魔法が得意な五位のライカさんは、技巧派ではないかと思っています。

 六位のエルフのルードティリアさんは、魔法発表のときの弓矢を使用するのではないでしょうか』


『それは楽しみですね』


  ◇ ◇ ◇


『六位の一A一クラス、ルードティリア・ナルア・フィフティーナさんでーす』

 で開始された、模擬戦の相手は、武術教師のサンチョ先生だ。

 武術教師といっても魔法ができないわけじゃない。


 模擬戦は生徒たちの模範生としての意味合いが強い。

 強いところをいっぱい見せるために、受けが上手いサンチョ先生が良く受け持つそうだ。

 魔法担当の先生全てが、魔法戦闘が得意って訳じゃないのもある。

 ちなみに魔法や武術担当の先生の総合(強さ)は下は“37”、“38”の三十台後半から、上は“45”程度だ。

 もちろんサンチョ先生は“45”前後と最強レベルだ。


 弓を射させ、魔法を撃たせ、接近戦で剣劇を行い、サンチョ先生が勝つ。

 生徒も達成感に満足し、観客である家族も子供の成長に満足し、サンチョ先生は生徒と家族から信頼・尊敬されるというWin・Winの関係を築ける最良の場でもある。

 それでも代表生徒の成長は、わが身や我が子でなくとも、目標とも、憧憬とも、全員に影響を与える。


 五位のライカちゃんの相手は、魔法の先生で、ルデン先生の双子の妹のラディン先生だ。

 ライカちゃんの放つ魔法を見極めて、対消滅するように魔法を放つラディン先生は、ルデン先生と同様に魔法解析能力が高く、多彩な魔法を使いこなす。生徒と先生に信頼のある先生だ。

 ライカちゃんにできるだけ魔法を使わせ、得意な魔法の見せ場を作ってあげて、ラディン先生が勝つ。

 基本はサンチョ先生と一緒だ。


 四位のロビンちゃんはサンチョ先生と、三位のミクちゃんはラディン先生と模擬戦を行った。


 二位のミリア姉は、いつもなら一位と戦うルデン先生と戦った。

 もちろん結果は全て同じだ。


  ◇ ◇ ◇


「やってまいりましたー。

 最終戦、メインイベントです」

 本部前で立ってアナウンスする生徒会広報のマロンさん。


「それではご紹介しましょう、一位の一A一のセージスタ・ノルンバック君でーす。

 こんにちはー」

「はい、こんにちは」

 マロン先輩の横には僕。

 その横には、校長先生とルデン先生が立っている。


 ちなみに使った魔法は“瞑想魔素認識法”で全回復済みだ。

 睡眠より若干劣るけど、回復が早い。

 バナナとキーウィで軽く軽食も摂った。


「調子はどうですかー」

「普通です」

 あ、この回答いいかも。

「フツーですか。セージスタ君って、どのくらい強いんですかー」

「普通です」

 やっぱ、この回答いいな。

「フツーですか。それでは、魔法のレベルはどくらいなんですかー」

「えー、普通です」

「知ってます、ウフフ」

 え、なに?

「わたし、魔法核と魔法回路がもうチョットで“2”になりそうなんです」

「はー、そーなんですか……」

「フツーって幾つ何ですかねー。果てし無さそうーなんですけど、ハハハハハ…」

 タ、タラリ。

「ごめんねー。チョット意地悪でしたねー。

 でもセージスタ君が、自分の強さや、魔法が内緒ってことはよーくわかりましたー。

 頑張ってくださいね。応援してまーす」

「あ、ありがとうございます」


 ここで突然地震が発生した。

 震度三程度とやや大きい。

 一瞬会話が止まる。

 誰もが、モンスタースタンピードを思い出したと思う。

 数秒の沈黙から、みんながざわつき出す。


 ルデン先生に肩を叩かれ、マロン先輩が復活する。

「…校長先生、対戦相手の特別ゲストは誰なんですかー?」

「冒険者で名高いワンダースリーの皆さんです」

「え、ホントーですか!

 皆さんも驚いたことでしょう。…と、いうことでランクA冒険者のワンダースリーの皆さんでーす。どうぞー」

 本部前にワンダースリーの面々が登場する。


「兎人族でワンダースリーのリーダーのボコシラさん、天人族のプコチカさん、発明家のノコージさんでーす」


 ワンダースリーの三人が、校長先生の握手の出迎えを受ける。

 装備をキッチリ身にまとっているのは、冒険者としての心がけなのか、魔法展覧武会(イベント)のために頼まれたかだ。


 セージの伯父のフォアノルン伯爵の住むヴェネチアン国の冒険者たちで、オケアノス海周辺の依頼を受けながら渡り歩いている。


 兎人族の真っ白い毛皮に、見た目はややぽっちゃり系のボコシラさんは、実は筋肉の塊りで、筋肉の弛緩・硬化が自由自在だ。

 戦闘スタイルは最前線をぶち抜くと兎人族独特の身体強化に筋肉自由自在のパワーがあり、魔法もできる万能タイプだ。


 プコチカさんは天神族にしては小柄だが一般の人族程度の身長をしている。

 天神族は背中に羽があって、いかにも勇者っていでたちだが癖のある顔をしていて、目つきが鋭い。

 赤みを帯びた銀髪は、キラキラと輝いている。

 戦闘スタイルは俊敏で縦横無尽の、攪乱戦が得意で、魔法も幻覚や幻影系を得意とする。


 初老で人族で発明家のノコージさんは長身で、長い白髪を後ろで束ねている。

 茫洋(ぼうよう)とした馬面だが、頭脳派の天才だ。

 戦闘スタイルは魔法重視の支援タイプで、一撃必殺、強烈な魔法を得意とする。


 僕の印象と、ルデン先生から紹介だ。


 それと看破は使っちゃいないけど、なんとなくだけど強さは僕と同レベルっぽい気がする。


「ぶちゃけた質問ですがー、どうしてこの模擬戦を受けてくださったんですかー」


「リユーは二つ。

 ボティス密林ダンジョン調査、オーラン市(ここ)に来る予定あり。

 知人の先生に頼まれた」

 ボコシラさんは、会話が苦手なのか、ぶっきら棒に淡々と、()つ簡潔に答える。


「それじゃあ、わからないだろう」

 天人族のプコチカさんがマイクを奪い取る。

「このオーラン市の隣のボティス密林にダンジョンが出現したことは、すでに全員聞き及んでることと思う。

 俺たちはその調査に呼ばれたんだが、マリオン市の上級魔法学校の知り合いの先生に、ここに将来有望な生徒がいて、ここの先生が対戦相手が見つからないからってんで、頼み込まれたんだ」

「わかりやすい説明ありがとうございます。

 ご覧になってていかがでしたかー」

「まあ、最初は初等教育の子供がいくら頑張っていたってって思っていたが、先ほどまでの対戦を見てて上級魔法学校の生徒かって驚いていたところだ」


「それじゃあ、二位のミリアーナさんよりもよっぽど強いとされるセージスタ君と戦ってみたいと思いますか」

「そんなめんどくさいことは、リーダーの仕事だろう」

「それじゃー、リーダーのボコシラさんは戦ってみたいとは」

「仕事」

「はあ、そうですか。ノコージのお爺さんはいかがですかー?」

「おじさんじゃ」

「はあ?」

「おじさんじゃ」

「ああ、素敵な小父様のノコージさんはいかがですか」

「わしゃー、大魔法が得意じゃからのー。ウッハッハッハー」

「要は、手加減が難しいということですねー」

「ああ、そんなところじゃ」

「素敵なおじぃ…(ゴホゴホ)…小父様なのに、子供に厳しいんですね」

「人生はそんなもんじゃ」


「…はあ、そうですか。

 それでは、セージスタ君。誰と戦いたいですかー」


 こ、これで選べって、一人しかいないじゃん。

 別の名前を言っても、ってー、マロンさんだけでなく、校長先生もメガ、否、目が指してる。

「えー、ボコシラさんです」

 なにこの出来レース。ま、いいか。


 僕とボコシラさんの二人で防御結界のゲートを潜り、グランドに立つ。

 審判はルデン先生が遅れて入ってきた。


「チョット待ったー。

 ボコシラ、お前なーって、…なんの武器持ってんだ」

「いつもの」

 両手にはそれぞれ鋭そうなレイピアを持っている。


「あのなー、子供との対戦だ。木剣だ!」

「理解」

 腰のフェイクバッグ? いや、ソロボックス――暗証機能付きの高級アイテムボックスバッグ――か。

 そこに二本のレイピアを放り込んで、中を覗く。

「無い」


「ほらこれを使え」

 プコチカさんが、二本の木剣を放り投げてよこした。


 天然か?

 訊かない方がいいのか。人選間違ったか。


 ルデン先生からルールの説明があった。

 試合時間は一五分間。

 セージ()がボコシラさんの体に武器なり魔法を当てれば、僕の勝ち。

 僕が“まいった”をするか、一五分間ボコシラさんが攻撃を回避したり、受け続ければボコシラさんの勝ちだ。


 真っ白な鋼線が織り込まれた戦闘服に、軽量な部分アーマーは動きを重視している。

 左腕のガントレットと、両足のソルトレットは盾の代わりだ。

 ハンディとして、ガントレットやソルトレットに当てても僕の勝ちだ。

 右手には長い木剣(レイピア)、左手の物は三分の二ほどの長さだ。

 ソロボックスに仕舞う前のレイピアとほぼ同じ長さだ。


 フル装備の僕も、木刀を持つ。

 簡易チェーン下着に、魔法学校のジャージみたいな体育着。

 防具は胸、腰、両手、両足の部分アーマーにヘッドギアに、左腕に装着してる小さなシールドだ。

 簡易チェーン下着だけじゃなく、ボコシラさんのような鋼線入りの戦闘服も作ってみよう。


「はじめ!」

 ルデン先生の声が響く。


「まずは受けだ。セージスタに手を出させろ」

 プコチカさんはグランドに入ったままだ。

「苦手」

「いいから受けだ」


 なんだか気が抜ける。

<身体強化><トリプルスフィア>『加速』『並列思考』

 身体強化は体内の活性化、魔素と魔法力の運用でレベル5にまでアップする。…とボコシラさんの表情が変化し、目がランランと輝き殺気を帯びる。…こ。こわー。


 身体強化をもう一段上げ、身を屈めて突貫。と見せかけ、サイドステップで左に、更に左に回ってボコシラさんに切りかかる。

 右手の長いレイピアで木刀が弾かれる。

 それに逆らわず、右手を話して受け流す。

<ポイント>

 飛び上がりながら、流れた刀を頭上で再度両で手持って、魔法力を流し込み。

 オリャーッと切りかかる。


 ボコシラさんが半身を開いて、左手の短レイピアで突きあげてくる。

 気合を入れながら、トリプルスフィアに一点に魔法力を集中する。

 む、無理。

<ポイント>

 空中で横に跳びながら、木刀は右手だけで振り下ろす。

 それは想定済みのようで、ボコシラさんが軽く体をひねって回避する。


<ポイント>

 一旦距離を取る。


『サンチョ先生、な、何があったんでしょう。全ー然見えませんでしたー』

『今のは……、あ、また戦闘が……』


<ハイパー粘着弾>

<ハイパー粘着弾>

<ハイパー粘着弾>

<ハイパー粘着弾>

 ハイパー粘着弾を嫌ったボコシラさんの逃げる先にもハイパー粘着弾をお見舞いする。


 ボコシラさんが今度は突貫してくる。

 細剣(レイピア)は突きに特化した武器だ。

 そして、剣や刀では防ぎにくい攻撃でもある。

<ハイパー粘着壁>

 粘着壁を立ち上げると、ボコシラさんが左に跳んで、回り込んできた。


 おわーっ。

 ドドドドドドドドドと、ロックバレットが頭上から降ってきた。

<マジッククラッシャー>

 消せなかったものは、かろうじてトリプルスフィアがはじき返す。


 そしてレイピアの連続突きが来る。

 体をひねって、刀と左腕のシールドではじくが、更なる突きに、前方に転がりながら、ボコシラさんの足を切りつける。


 日本の戦国時代の荒業で、どんなに武芸が達者なもので、足を防ぐことは難しく。転がりながら足を切る武芸ともいえない技があった。


 さすがにボコシラさんも、跳んで下がる。

 僕は素早く起き上がり、身体強化を現在の最高レベルの“9”まで上げる。

 そしてアイテムボックスから予備の木刀も取り出す。

 並列思考で三つの思考が同時に行える。

 右手、左手に、体の攻防で、魔法は臨機応変だ。


「おいおい、受けだ」

「こいつ強い」

「それにしたって、受けだ」

「無理」


『すみませーん。解説できません。サンチョ先生、何とかしてください』

『ボクだってよく見えてないいんだから、無理ですよ』

『せ、先生も見えたないんですか』

『恥ずかしながら…』

『えー、皆さん。真剣にご覧下さい』


 魔力系の感知や察知を使ているのは明白だけど、目の前の映像には多少なりとも騙されるはずだ。

<イリュージョン><イリュージョン>

 僕のフェイクを二体作成して、

<カタパルト>…<カタパルト>

 意識を魔法に向け切らないから、一瞬の時間さを付けて直線的に突っ込ませるだけだ。


 オリャーッ。

 イリュージョンに隠れながら、右に回り込んで…と思ってこうどうしたら。

 ボコシラさんが大きくジャンプした。


 いやな予感がして、前に飛び込む。

 僕のいた場所に、ドドドドドドドドドっと石の雨が降る。ハイストーンバレットだ。

 威力を上げてきたようだ。やべー。


<ハイパーメガフラッシュ>

<ハイパーファイアーキャノン>

 空中で停止するボコシラさんに、目つぶし&火球砲を見舞う。


 ボコシラさんが横にスライドする。物理法則無視だ。まあ、魔法ってそもそもそんなもんだ。


 ボコシラさんの右手に魔法力が集中する。

<マジッククラッシャー>

 魔法の行使速度は僕の方が早いみたいだ。

 ボコシラさんが一瞬驚いた。


<ハイパーメガフラッシュ>

<テレポート>


 ボコシラさんの上空に出現する。

<ステップ>

 空中を蹴って、落下を加速する。

 今度こそ、二本の木刀を前面に突き出し、ボコシラさんを狙う。


 危機感知か、ボコシラさんは頭上を見上げる前に、再度のスライド。


<ステップ>

 僕も空中で止まる。


『せんせー。メチャクチャ頑張って見てるんですけど、なーんにも見えません。わかりませーん』

『大丈夫だ。ボクも半分も見えないからな』

『せんせーで、それでいいんですかー?

 あ、また見えなくなりました』


 ボコシラさんが三角跳びで切りかかってくる。


<ステップ>で、空中を駆けて<ステップ>。

 回避中に追いつかれて、突きが向かってくる。

 それを二本の刀ではじいていく。

 神経が擦り切れそうだ。

『解除』

 自由落下に身をゆだね、地面に立って、ジャンプ。

 そこに急降下のボコシラさんが降ってくる。

 再度のジャンプ。


<ハイパー大粘着弾>

<ハイパー大粘着弾>

 やったか。

 粘着液が盛り上がって、トリプルスフィア? いや、外側の一枚を脱ぎ捨て浮かび上がる。


 灼熱化した石の雨が飛んでくる。

<マジッククラッシャー>

<マジッククラッシャー>

<テレポート>

 遠くに飛ぶ。


 ボコシラさんが膨大な魔法力をため込みだす。

 剣を持つ右手に真っ赤な球が出現して徐々に膨らんでいく。


 しかたない。こうなったら。

<ハイパービッグバン>……のマシマシで…って。


 ハイパービッグバン。

 唯一レベル10の火魔法で見つけた、レベル10のスーパービッグバン(プラズマ火球)だが、いかんせん、火魔法だ。

 個人魔法で風(移動)魔法と合成したのがハイパービッグバンでレベルは“12”とおぞましい魔法だ。

 ただ、これじゃなければ、対抗できそうにないんだ。


 目の前に一メル超の凝縮した炎の球体。プラズマ化した炎は雷光も帯びていら。


「ボコシラのバカヤロー! 止めろ!」

「中止! 中止! 止めだ、止めだ!」

 プコチカさんとルデン先生が、僕たちの間に割り込み、大きく手を振り叫んでいる。


「なぜ止める」

「お前馬鹿か」

「よくはない」


「お前の“ボルテックプラズマ”と、あの大火球がぶつかたらどうなる」

「わたしは無事」

「いや、お前じゃなくって、ここら一帯がどうなるかだ」

「おっきな穴ができるが、防御結界がある」

「防御結界をよく見ろ」

「吹き飛ぶ」

「そうだ。周り中が吹き飛ぶんだ。

 セージスタ、その物騒な魔法を解除してくれ」

「はい」

「ボコシラ、お前もだ」

「決闘はこれで終了か?」

 いやいや、違うから。模擬戦だから。

「面白かったのに」

 いや、だから違うから。

「ああ、終わりだ」


『あのー、あのメチャクチャでっかい火魔法はなんなんですか』

 マロンさんが恐る恐るサンチョ先生に訊ねるが。

『ラディン先生ー、あの魔法は何ですか?』

 サンチョ先生の伝言ゲームだ。

『ワタシも知りません。

 ただレベルでいうと“10”をはるかに超えているようなんですが…』

『“10”を超えるって、セージスタ君ってレベル8? あれ“10”でしたっけ?

 それ以上何ですか?』

『わかりません。

 ランクAの冒険者と対等に試合をしていること自体、想定外ですから』


『本当に対等の試合だったんですか?』

『そりゃわからんよ、な?』

『そうですね』


『えー、ランクAの冒険者ってどのくらい強いんですかー』

『一説では【基礎能力】の総合が“100”程度といわれていますが、本当かどうか確認できるのは本人だけですから』

『ひゃ、ひゃく……』

『誰が訊いても教えてくれないから、そう言われているだけですから』

『そ、そうなんですか……』


「セージスタ、すまなかったな」

「えー、えーと、そうですね」

 タハハ…と笑うしかなかった。本当にどうしようかって思っちゃってたもの。

 プコチカさんって思っていたよりいい人みたいです。


「それにしてもオマエ何もんだ」

「えー……フツーの子供ですが…」

 棒読みになってしまった。

「フツーが聞いてあきれる。ボコシラ、セージスタがフツーに見えるか」

「楽しい子。好き。気に入った」

 まあ、複雑だけど……悪い気はしない。

「またやる」

 前言撤回。この人は関わっちゃいけない人だ。



『……#$すけて%=¥…』

「え、なんですか」

 突然の声掛けに思わず声が出た。

 

『……たすK&T@@&*#…』

「なに?」

 またも聞こえた。挙動不審に、キョロキョロと見回してしまった。

「セージスタ君、どうしました?」

 ルデン先生に不思議そうに声を掛けられた。

「いえ、チョット…」


『…助けて!』


「あ、ニュート、生きてたんだ」


『…助けて! …けて! 助け…』


 レーダーで捉えようとしたけど、見当たらない。

「え、どうしたの。見えないんだけどどこにいるの」

「セージスタ君大丈夫か? なにがあった」

「よくわかりませんが、チョット集中させてください」

「ああ、わかった」


『助けて! ……けて!』

『どこ?』

 更に意識を集中すると、かすかなつながりを感じる。


『助けて! 助けて! 助け…!』

 もっと集中だ。

『レーダー』『並列思考』『加速』をマシマシで。

 そしてこのつながりを追って……。


『助けて! 助けて! 助けて!』

 声は捉えた。かなり遠くだ。

 更に集中だ。


 ぼんやりした映像が脳内に浮かぶ。

『助けて! 助けて!』

『待ってて、直ぐ行くから』

『助けて! 助けて!』

『直ぐ行くからってばー!』

『あ、やっと通じた。待ってるから』

『うん』


「あ、ボランドリーさんに冒険者のみんな…」

 突然、岩に囲まれた場所が見えた。そう、脳内で。

 それと苦戦するボランドリーさんや冒険者たちが……。


「セージスタ、今ボランドリーって言ったか!」

「はい、ピンチのようです」

「それでボランドリーはどこにいる」

「ダンジョンの中みたい…いえ、ダンジョンの中です」

「ここからそれがわかるのか」

「そこから情報を教えてくれる者がいるんです」

「そうか、ボコシラ、ノコージ、急いでダンジョンに駆けつけるぞ」


「<テレ……>」

「チョット待て!」

 テレポートⅦ、空間魔法のレベル13で、二五キロ程度飛べるはずだ。

 空間魔法は現在“12”だけど、精神を集中すればテレポートⅦを使える…はずだ。

 それを、プコチカさんに止められてしまった。


 えー、なんで。

「そのまま行くつもりか」

「ああ、そうだった」

 木刀を持ったままだ。

 木刀はアイテムボックスに放り込んで、小太刀の銀蒼輝を腰に差し、鉄菱(ひし)の袋をぶら下げ、黒銀槍を手に持つ。

 準備OKだ。


「おい、俺たちも一緒に運べるか」

 さすがに難しいか……、いや、ニュートとつながっている今だったら、行けそうな気がする。

 安定させるために魔法量は多めの“16”で、その四人分の“64”だ。

 僕の最大魔法量が“698”で現状“531”だから模擬戦での使用が“167”か。

 それで飛んだ後が“467”と、充分戦えそうだ。


「何とかなりそうです」

「心もとない、何とも言えない返事だな」

「だってこれだけの距離を飛ぶのも、人を運ぶのも始めてだから」

「それでいけるってんだな」

「はい」

「わかった任せる。それで向こうの状態は」

「大きな岩だらかの広間で魔獣に囲まれていて、全滅しそうです。

 数はよくわかんないけど一〇〇匹以上はいそうです。

 飛ぶ先はその空間の端で、魔獣までの距離は一〇メル無いってところ」

「そりゃー豪勢なお出迎えだ。

 おい、ボコシラ! ノコージ! 急いで集合! それと戦闘準備だ!」

「今度は真剣か」

「なんだ、魔法系でわしの出番か」

 あっという間に二人が駆けつけてくる。

 ボコシラさんは二本のレイピア。

 ノコージさんは魔法石の指輪が左右の手に、それと手には特大の魔法石のステッキ。腰にショートソードだ。

 プコチカさんはロングソードで、腰に鞭だ。

 それにしても物騒な人たちだ。


「今からダンジョン、それも魔獣一〇〇匹の真っただ中に飛んで、魔獣退治だ。

 ボコシラとノコージも準備は良いな」

 二人は嬉しそうにうなずく。

「じゃあ。さっさとやってくれ」


 ワンダースリーのリーダーって、本当にボコシラさんなのかな?


「あ、チョット待った。

 パーパー、マーマー、ボランドリーさんが危ないのー。

 今からワンダースリーのみんなと救助に行くねー」


 観客席のパパとママに手を振ったら、手を振り返してくれたけど、突然慌てだしちゃた。

 まあ、仕方がないよね。


 脳内の映像は健在だ。いや、徐々に鮮明さが増して、周囲も良く見える。

 間違いなくピンポイントで飛べそうだ。

「じゃあ、僕につかまって。行くよ! <テレポートⅦ>!」


『テレポートⅦってレベル幾つなんですかー』

『テレポートのⅠが、時空魔法のレベル7です。

 ですから……』

『……“13”ですよね…』

『そうですね』

『セージスタ君の魔法ですよね』

『…そ、そうみたい…ですね』

 マロンさんとラディン先生の声をマイクはシッカリと拾っていた。


 校長とルデン先生が真っ青になて、無事な防御結界――レベル12の攻撃魔法まで耐えられる――にホッとしていたのは内緒の話だ。


 そして、翌週にはマロンを中心に、魔法展覧武会のことが壁新聞として学校の複数個所で掲示された。


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