82. 異界宮(ダンジョン)発生
三月三日黄曜日。
修理した魔獣監視装置の設置に行く。
今日がワニ池とルルドの泉で、明日が七沢滝の底壺の予定だ。
運搬用に大容量フェイクバッグがあるとはいえ、総合制限のためにエルガさんがボティス密林に入れないため、僕も同行することになった。
ボランドリーさんとニガッテさんは、底壺の奥に発生した異界宮に行っているので、同行者はリエッタさんにホーホリー夫妻にレイベさん、デトナーさんとアランさんだ。
最初に訪れたワニ池では相変わらずの魔獣の多さだ。
まだモンスタースタンピードの影響が残っているようで、魔素と負の魔法力が濃厚だ。
回収した一台を設置して、その他四台のメモリーパッケージの交換を行って作業は完了だ。
簡単に周辺を確認したけど特に変化は見受けられなかった。
ルルドの泉も同様で魔素や負の魔法力の濃度が高く、魔獣が多い。
設置と四台のメモリーパッケージの交換を行へば作業は完了だ。
こちらも同様に周辺を確認して帰宅した。
それとハチミツ入りのルルド聖水をやっと回収した。
回収前というか、到着直後に再度魔法力を込め、ホイポイ・マスターの修理・回収を終えてからの回収だ。どうやら無事にリバイブウォーターになってるみたいだ。
長かった。
ルルド水も三トンほど汲む。
ヤッパ、何とか長距離テレポートを使えるようにしないと。
デストロイビーから毒針攻撃を受けてこの方、メガテレポートで飛ぶ方法を模索してきたけど、スキル的には遠隔視や遠隔感知なんて手に入らないかと思って、レーダーを思いっきり伸ばしてみたり、テレポートや空間接続を使てレーダーと組み合わせられないかと頑張ってみている。
一番可能性のありそうなのがホワイトホールとの連動だけど、うまくいっていない。
空間を超えるときにすべての魔法が解除されてしまうってことはテレポートと同じだけど、何かの感覚が向こう側をつかめそうな感じがする。
ただホワイホールはテレポートの三分の一程度しか距離が無い。
それとホールっていっても、穴のサイズともあるけど、通れる最大時間と重量があってあまり使い勝手が良いものじゃない。
人を大量に運べるわけじゃないし、物を運ぶんだったらアイテムボックスに入れて運べばいいだけだし。
ちなみにホーリークリーンをしたハチミツを入れたルルド聖水は二ビン沈めてきた。
今度はハチミツにも前もって魔法力を込めた。
イメージ付与の“苦み消し”はビンに付与した。
家でルルドキャンディーを作成してみたらある意味成功たけど、まだまだ改良の余地がある。
四つ食べて枯渇から“133”前後まで回復した。
以前は“120”程度だったから一割程度増えたことになる。
苦みは半減したような気もするけど、ヤッパリ甘さと苦みの混在する複雑な味だ。
◇ ◇ ◇
三月四日緑曜日。
ララ草原に移動して、注意深く底壺に向かう。
魔素や負の魔法力の濃度が高く、魔獣に遭遇し、ジャイアントホグウィードは見つけられなかった。
ボランドリーさんたちが来ているんだから、そのようなことはないとわかっていても底壺までくるとホッとする。
手早くホイポイ・マスター二台を設置し、メモリーパッケージの交換を行って、小休止をする。
「ねえ、ダンジョンどうなったかなー?」
「ダメだ」
僕の言葉をガーランドさんが一蹴した。
周囲のみんなも厳しい視線を向けてくる。
こりゃーダメだ。絶対にパパかママに何か言われてるや。
休憩を終了して周囲を確認すれば今日の作業は完了だ。
ぐるりと巡っていると、
「おう、元気にしてたか」
ボランドリーさんたちと遭遇した。
有角人のニガッテさんに、半数ほどは見覚えがある冒険者だ。
何で子供が…って驚いている人もいるから、知らない人がいるのも確かだ。
三パーティーか四パーティーのチームのようで、ボランドリーさんとニガッテさんを含めて総勢二二人だ。
「何かあったんですか」
「ああ、有る事は有るんだが、それが良くわかんねーんだ」
困惑気味で何とも要領を得ない。
それがボランドリーさんだけじゃなく、ニガッテさんや他の人たちも似たり寄ったりだ。
出直し、って声が聞こえるから、そうみたいだ。
「あれっ、ニュート」
どういう訳か、ボランドリーさんたちにニュートがまとわりついてた。
『やあ、セージスタか。また会ったねー
随分と言葉が滑らかに伝わってくる。それもチョット響くように。
中性? 無性? あ、単性生物って言ってたか。
黒っぽい妖精のニュートは、ラメ交じりの光沢のあるミニワンピに、レギンス姿と女の子ぽいけど、態度が男の子なんだ。
「あれからどうしたの」
『あっちこっちと飛び回ったんだけどぉ、誰も自分と話ができないんだぁ。
この人たちもそうなんだぁ』
「それで戻ってきたんだ」
『うん、でもセージスタが来てくれてよかったよぉ』
ニュートが僕の肩に腰を下ろした。
「おいセージ、またフェアリーがいるのか?」
「うん、いるよ。この前と一緒でダークフェアリーのニュート」
『ダークフェアリーじゃなくって高次生命体の幼体だよぉ! こっちの世界じゃただ単にフェアリーって呼ぶみたいだけどぉ』
「そうか。そいつにダンジョンのことが訊けるか?」
『そいつでもないよー!』
「ごめん。
それと叫ばないで。チョット頭に響く。
それでダンジョンのこと何か知ってる?」
『ダンジョンって…??&%…次元¥%K…空間のことかい?』
「えー、何の空間? それとも世界? よくわかんないよ?」
意味不明な思考が流れ込んできた。
空間のような世界のようにも感じるけど理解不能だ。
『次元¥%K…空間だってぇ』
「わからないってば」
『セージスタが言っているのは多分あそこのことだよねぇ。
あそこは完全な…?次元…K¥%…空間じゃなくって・・・』
なんだかニュートが思案しだす。
『……まあいいや。
あれは、多分セージスタの言っているダンジョンだっけ。その中途半端……ああ、なりかけっていうんだっけ』
「ダンジョンの…なりかけなの?」
『中途半端な…?次元…K¥%…空間。
たぶんダンジョンでいいと思うけど、その中途半端ななりかけみたいな空間の、@%…入り口だけが具現化したんだよぉ』
「入り口だけなの?」
『うん。中はそんな感じだよぉ』
「あれは、まだダンジョンになりきってねーってことか?
そんなもの聞いたことねーぞ」
「あー、うん。なんかそんな感じみたいだけど、よくわかんない。
言葉が通じないんだ」
黒い塊からは時たま魔獣が出現するそうなんだけど、中には入れない。
触った感触は、プルンとしてスベスベしたり、べたついてたりと、人によって印象に違いがあるのか、本当に感触に違いがあるのか回答がまちまちだった。
魔獣が出現するんだから、ダンジョンもどきの物に間違いはないらしいんだけど、何なのか不明で、調査がとん挫してしまっていた。
現場でキャンプを張っていたけど、手詰まりで、一旦帰還するところだった。
「……なあセージ、ダンジョンを見てみねーか」
思案顔のボランドリーさんが、悪戯小僧の顔に代わってニヤリと笑った。
「ボランドリーさん、それはダメだ」
「ええ、社長と副社長に絶対にと強く止められてます」
ホーホリー夫妻が交互に制止する。
「セージ君帰りますよ」
マルナさんが、マルナ先生の顔になっている。
こりゃー絶対にダメだ。
あれっ。
「ねえ、ダンジョンって動いてるの?」
前回は底壺から一.三キロほどの場所だったはずが、無理やり引き延ばしたレーダーに引っかかる。
よくははからないけど、ここから八〇〇メル程度か。
「ああ、よくあそこがわかるな。
あいかわらずの飛んでも索敵だな」
再度の、あれっ。
ダ、ダンジョンが…。
「みんな気を付けて。<トリプルスフィア>」
…目の前に転移してきた。
「戦闘態勢!」
ボランドリーさんの指示に、冒険者各位も瞬時に防衛体制に入る。
僕も小太刀の蒼銀輝を手に持つ。
直径は一メルほどだった黒い塊が、成長したのか直径ニ.五メルほどになっている。
うねうねとうごめく状態はずいぶんと落ち着いているようで、動きは遅くなっている。
黒い表面は光沢が出ていて、光を反射するからか様々な鈍く色が模様を作っている。
いや、反射じゃなく、内部の色が透けているのか。
魔力眼で見るとそんな感じだ。
うねうねとうごめくだけで、特に変化はない。
「こいつ相変わらずだな」
「ええ、そうですね」
「でも、テレポートのように移動するなんて…」
「そりゃそうだ」
全員身構えてはいるけど、意識はどことなく弛緩していく。
会話も出てくるが、全員困惑している。
ボランドリーさんやみんなも触ったって言うし、僕も触ってみるべきか。
トリプルスフィアに手を出すのは簡単なことだ。
「セージ君、近づかない」
数歩踏み出すと、マルナさんの声が掛かった。
リエッタさんも僕の横に立って、僕をガッチリと抱きかかえて抑える…ことはトリプルスフィアで不可能だが、トリプルスフィアをガッチリと抱きかかえられている。。
そのリエッタさんにはニュートは見えているようで、視線が僕の肩と僕の顔を行ったり来たりだ。
「ああ、ニュートが行こうっていった訳じゃないから」
「そうですか」
まだ疑ってるみたいだけど、腕の力を抜いてくれた。
ボヨーーーーン。
まさにその表現が当てはまる。
マルナさんとリエッタさんを薙ぎ払い、黒い塊が、僕に飛び掛かってきた。
おわーっ。
僕はトリプルスフィアごと、真っ黒い塊にすっぽりと包まれてしまった。
不思議と淡い光が存在して自分と周囲の光沢のある黒い表面? 内壁は見えるが、音やレーダーも通じない。
幸いというか、トリプルスフィアは無事で、周辺の壁(?)は、トリプルスフィアに張り付いているような状態だ。
スライムに取り込まれたエサを想像して、ブルブルッと悪寒が走る。
感知系のスキルを総動員する。
研ぎ澄ました感覚に、なんとなく、本当にかすかだけど外の様子が把握できた。
ということはこの壁を破ればいいんだろう。
『…$%空間の中だね』
あ、そうだニュートもいたんだ。
「ここがダンジョンの中…?」
全然想像と違う。
『だからダンジョンの中じゃないってば』
「ああ、そうだった」
なりかけか。どっちにしても僕には区別不能だ。
文明は変な方向に発展していても、ダンジョンや浮遊島のことになると、どうして発生するんだとか、どうやって浮いているんだなんてと、場所と名前程度しかわからないのが実情なんだって。
図書館に行ってもあまり情報はなかったんだ。何とかもっと調べる手立てはないものか。
そうこうすると内壁がもぞもぞとうごめきだす。
おわーっ。
ムニューッとスライムのような触手が伸びてトリプルスフィアに侵入してきた。
三本、五本、一〇本と。
銀蒼輝でズバッ、ズバッ、ズバッと切り飛ばす。
全部の触手切り飛ばすつ、オリャーッと黒壁に銀蒼輝を突き刺す。…が、ボヨーーーンと押し返されてしまう。
またも触手攻撃、しかも今度は絶え間なく連続だ。
トリプルスフィアに魔法力を流しても、侵入する職種は増えるばかりだ。
そう思った瞬間攻撃が止んだ。
オリャーッと再度壁を突き刺す。
今度は手ごたえがあった。
切っ先の先に、かすかな固い感触。魔法力を込める。
…が、またもボヨーーーンと押し返されてしまう。
そうなるとまたも触手攻撃の嵐。
最大の身体強化と空間認識と並列思考と加速で対応するにも、いつまで続くんだよと、泣き出したくなる。
今までで最多の三〇本ほどが、周囲から一斉に襲撃してきて、無理ゲーと思いながらも銀蒼輝を振るう。
全部切り飛ばしたかに思えたけど、頭上から触手が追加で五本が飛び出して、気を取られた瞬間、地面と化していた黒い塊の床が抜けた。
一瞬の落下に、体を固くした。
その一瞬に五本の触手が頭、肩、手に、そして床からの新たな触手が足にと巻き付いた。
引きはがそうともがいたが、新たに触手が巻き付いていき、…詰んだ。
ニュートも捕縛されている。
魔法力が吸われ、知識までも吸い出されているような気がした。
って、たまるかよ。
アイテムボックスを開け、『ルルドキャンディー取出し』をそのまま口に流し込む。…が、見る間に魔法力が吸われてしまう。
そしてアイテムボックスからは、ザザーッと、数千個のルルドキャンディーを床にぶちまける。
一生目よりも短い二生目だった。
そこでセージの意識が飛んだ。
◇ ◇ ◇
セージが黒い塊に取り込まれ。
「「セージ君ー!」」
絶叫したのは私とマルナさん、そしてガーランドさんにレイベさんなども、次々とセージ君の名前を呼ぶ。
N・W魔研のメンバーと、冒険者ギルドによるダンジョン調査チームのメンバーが騒然とする。
直径ニ.五メルの黒い塊が、セージ君のスフィアシールドを取り込んだせいか、直径三.五メルほどとなている。
「子供を返せー!!」
武器を振り上げて黒い塊に飛び込む冒険者。
「やめろ! セージが傷つく可能性がある」
ボランドリーさんが止める。
なんだか、黒い塊の中に動きがあるみたい。
私はセージ君にもらった、魔力眼と魔素感知に感謝する。
セージ君、頑張って。
今、助けます。
ミスリル硬鋼(L)のショートスピア構えて、魔法力を込める。
「リエッタさん」
ボランドリーさんの声がけを、視線で大丈夫ですと伝える。
ッリャーーッ。
セージ君に切っ先が向かないように、気を付けて黒い塊に突きを入れる。
弾力のあるゴムを突き刺したみたいな粘りのある抵抗感に、わずかに潜った切っ先が止められた。
負けるかと思った瞬間、中から固いものに押された。
ここだ、と思って更なる魔法力を流したけど、抵抗はそこまでで、槍が押し戻されてしまった。
もう一度と思って、再度魔力眼に精神を注ぐ。
もう少しで見えそうかなと思った時に、黒い塊の表面がウネリとうねった。
もう一度だと思って、魔力眼に精神を注ぐ。またもグニャリ。
数回繰り返すと、黒い塊の動きが変化する。
徐々に縮んで、伏せたお椀、もしくは大福のような形状になる。
ただ、デローンと広がった裾の直径は三メル程度だ。
「セージ君ー!」
私は絶叫しながら、ショートスピアで突貫する。
またも跳ね返される。
黒い塊は色を帯びだし、徐々に輝きだす。
「オリャーーーッ!」
ボランドリーさんが、私のショートスピアの軌道に倣うように、長両手剣突貫する。
続いてニガッテさんが太目で長い槍で突貫。
私も気合を入れて再突貫する。
ゾブリ……。
異様な手ごたえの後、抵抗が消えた。
三人は発光体となった黒い塊の光を、手で覆い隠すと穴が見えた。
それぞれが武器を使いいて、空いた穴を懸命に広げる。
セージが寝ていた。
意識が有る(?)かと、思ったが、ボランドリーさんが素早くセージを引きずり出て抱え上げる。
無口だが冷静なニガッテさんが小太刀の銀蒼輝を拾い上げる。
私はニガッテさんに手を引かれるように発光体から離れる。
セージ君の顔は真っ青を通り越して、真っ白だ。
ボランドリーさんが心臓と呼吸を確認して、
「息はある」
ホッとしたようにボソリと呟いた。
私もホッとする。
発光体から少し離れた場所に、シートを敷き、セージを寝かせる。
冒険者の二人が光魔法で治療を行う。
「これなら大丈夫だろう」
「できればしばらく寝かせておいた方がいい」
治療する冒険者から、周囲に告知された。
セージ君の顔に、赤みが差している。
隣に腰を下ろし、手を握ると暖かった。
「リエッタさん」
マルナさんから、ハンカチを渡された。
えっ…、と思った気、知らずに涙が流れていた。
礼を言って涙をぬぐった。
冒険者からショートスピアを渡された。
ショートスピアの記憶が途中から欠落していることに気付いた。
武器のことも忘れていたんだ。
改めてホッとするとまた涙が流れた。
ギランダー帝国の手才となってテロを行った時は、いやいや従ってだが、今の心の支えはリエッタさんと、祖母のお告げの相手と思われるセージ君だ。
セージ君の成長が、私の何よりの喜びになっている。
ムチャクチャなリエッタさんの行動は、私の和みと癒しみたいなものだ。
もちろんギランダー帝国に残っている母の安否は気になるが、それはどうすることもできない。
そのセージ君が無事だったことが何よりもうれしかった。
発光体は、様々に変化を続けている。
それが何かの形で固まり始めたのかと思えた。
そう思えてから数分で発光が消え、見たこともない物だが、ありふれた物になった。
四メル程度の立方体に両開きのスライドドア。
ただしそのドアが透明なガラスで、縁も無い。
ガラスのスライドドアなんてそのようなもろい物でドアを作ろうなんて酔狂な者はいない。
ガラス扉の上部には、何かのメッセージなのだろうか、記号のような文字のようなものが書かれている。
ガラス越しに見える内部の床も、見たことない素材で真っ平だ。
ちなみにセージがこれを見たら、コンビニの入り口にそっくり、と感想を漏らしたことだろう。
なりかけがこれで本当に異界宮になったのだろうか?
ダンジョンそれぞれがユニークだと聞いたことがある。
私もギランダー帝国のダンジョンには入ったことはあるけれど、それはたった一か所だけで、判断基準には乏しい。
そのダンジョンの入り口は、不思議な樹だ。
異界樹と呼ばれる極太の五メル程度の樹木の表皮をする抜けるとそこはダンジョンの内部だった。
相当量の魔法力が必要だが、ただ単に足を踏み入れることが可能だった。
ギランダー帝国にはもう一か所ダンジョンがあって、そこは水の門と呼ばれている。
ボランドリーさんが真っ黒な塊を見て異界宮と断定したのもその所為だと思う。
「これで本当のダンジョンになったようだな」
ボランドリーさんも同様な見解のようだ。
そのボランドリーさんも、視線で周囲に見解を問い質している。
周囲も概ねうなずいている。
「みんな、すまんが、これからが本格調査だ。
料金は今までの料金を、日割りで加算していくと思っていてくれ」
冒険者たちも納得のようだ。
「うーん」
セージ君の声に、手を強く握りしめた。
「……あー、あれ、生きてる」
セージ君が目を開け、ぼんやりと呟いた。
「そう、ちゃんと生きていますよ」
おっと、また涙が出てきそうです。
「…どうなったの」
「痛いところは、変な感じはないですか? 気持ち悪かったりは?」
「うん、大丈夫そう」
セージ君は疲れた声だけど、はっきりした声で答えてくれ手、ホッとした。
思わず目から涙があふれてしまった。
「それで、どうなったの?」
「あれだ」
ボランドリーさんが指さすと、セージ君が「コン……」で絶句してしまった。
そう、コンビニという言葉を飲み込んだのだった。
「そう、セージ君の感想の通りこんなにも変化したんだ」
「…うん、そうだね。おどろいちゃった」
セージ君は相変わらず、目を見張ってダンジョンを凝視していた。
それからセージ君の望むままに、救出劇を話したけど、なんで生きていたかは答えられるわけはなかった。
「とにかくお前は生きていたんだ」
ボランドリーさんの力強い言葉に、セージ君の疑問は止まった。
「そういえばニュートは?」
「ニュート? ああ、あの光の粒ですね。セージ君を救い出した時には見かけませんでした」
セージ君が意気消沈する。
「またきっと会えるといいですね。
望みは持ちましょう」
「うん、そうだね」
「セージ君も元気になったことだし、我々は撤収するぞ」
ガーランドさんの声に、N・W魔研のみんなが行動に移す。
セージ君の嘆願――こんな時には年齢だなーと思うんですが――を完全に無視してだ。
私は、セージ君をおんぶしてララ草原の魔導車に向かって歩き出した。
◇ ◇ ◇
僕はパパとママに心配されるや、確認されるや、怒られるやらと、散々だった。
「本当にごめんなさい」
それはもちろんホーホリー夫妻を筆頭に、全員が甘んじて受けた。
それと中途半端になっていたダンジョンの調査を本格的にしなくっちゃ。でも図書館以外でどうやって?
エルガさんやリエッタさんにでもコッソリと訊いてみるしかなさそうだ。